第11話 あの記憶の追憶(夏夜駐屯地)

今日は8月3日、この日は夏夜駐屯地のお祭りがある。


冷夜からこの間引っ越してきた私にとっては

夏夜で初めてのお祭りだった。


楽しみなんだけれど自分には行く人が居ない。


姉が2人と父と母の5人家族だけれど、姉2人は、

友人と行くようで私は友人がいないので行けない。


そんな事を憂鬱に思いながら部屋にいると姉の夏美が

部屋に来た。


「春ちゃんお祭り行かないの?」


私は姉の夏美と雪華に「春ちゃん」と言われている。

本当の名前は「鈴木春奈」なんだけれども。


「別にお友達いないもん。

お姉ちゃん達はお友達出来ていいよね」


私は姉にふてくされた声でそう言う。


私自身友人が欲しかった。


友人が出来れば毎日のように遊べたし、話せたからだ。


でも今まで友達なんて出来なかった。


私が話しかけられなかったから。


「じゃあ夜月先生でも誘いなよ」


「何で和樹君を?」


私は不思議に感じて聞いた。

別に和樹君を誘うのもありだけれども。


「だって仲良いじゃんか」


「まあそうだけど」


「どうせあの人一人ぼっちだからねえ」


夏美お姉ちゃんが笑いながら言う。


そこにお姉ちゃんのもう一つの顔が見えるけれども、

私は何も言わない事にした。



怒られるのは嫌だから。


「じゃあ誘ってみるね。

お姉ちゃん、うちの甚平何処だっけ?」


私は姉に「誘ってみる」と言って、姉に甚平の場所を聞く。


「あ、持ってくるわ」


「ありがとう」


「白色の金魚柄ね」


姉がそう言うと、白色の金魚柄の甚平を持ってきてくれた。

この金魚柄の甚平は亡くなった祖母が買ってくれた甚平だ。


私達三姉妹は、祖母の事が大好きだった。

もちろん祖母も私達の事を好いてくれて、優しくしてくれた。

だから最期は涙を流して別れを告げた。


「ありがとう、大好きだよ」ってね。


「やっぱり綺麗だね甚平は」


「うん」


「夏美お姉ちゃんは誰と行くの?」


「結華って子とね」


「へえ〜」


私はそう言う。

別に結華ちゃんという子が誰なのかなんて分からないから

私は何も聞かなかった。


そして姉は部屋を出た。

私は白色の金魚柄の甚平に着替えて、和樹君の家に向かう。

何で和樹君の家を知っているのって?

だって隣のアパート何だもん。

あ、私の家は一軒家だけど。

和樹君はアパートで一人暮らしだって。


「和樹君居るかなあ…」


そんな不安を抱えながらも1人で和樹君の家を尋ねる。

そして私はインターホンを押した。

ちゃんと正常に鳴り響くインターホンだ。


「はーい」


中からは和樹君の声がする。


「和樹君は居ますか?」


和樹君が居るとは分かっているのだけれど男の人の声は

同じ声に感じるから間違っていたら私は少し困る。

だから名前をちゃんと言う。


「ちょっと待ってね」


そう言うと和樹君はしばらくして扉を開けて出てくれた。


「どうしたの、春奈ちゃん?」


「あのね、一緒にお祭り行こうよ夏夜駐屯地の!」


「あのお祭りね、良いよ!」


和樹君は笑顔でOKしてくれた。


「まだ時間があるから上がって」


そう言うと和樹君は私を家に上がらせてくれた。

そして和樹君は自分のお部屋に行って甚平に着替え始めた。


「着替えたよ」


そう言うと和樹君は青色の無地の甚平を来て出てきた。


「かっこいい!」


私は和樹君の姿を見て思わずそう言った。


「ありがとう」


和樹君はそう言った。


そして時刻は午後5時になり、私達は夏夜駐屯地に行った。

午後5時からお祭りは始まるので私達は中に入った。

早速私達は綿飴を買って食べていた。

量は少なかったからすぐ食べ終わると、射的の屋台に行った。

この時何かを話したのだけれどそこまでは思い出せなかった。

そして時刻は午後7時。

辺りも暗くなってくる頃に和樹君は私にこう言った。


「ここでは花火が打ち上がるんだ。

春奈ちゃんはあっちでは見た事ある?」


「あるよ。

とっても綺麗だったよ、よくお姉ちゃん達と

「綺麗だね」って言って笑いあってたの」


私は和樹君にそう返した。

冷夜にいた頃、7月から9月の間毎日お祭りがあった。

だから幼稚園生の頃はお姉ちゃん達に連れられて、

お祭りに行ってた。

そこには色々なものがあって、色々な人が居て。

私は幸せだったのかもしれない。


「きっと春奈ちゃんが見たその花火は、不思議で綺麗だったのかもね」


和樹君が私の心を読んでいるかのように言う。


「そうだねえ、きっと」


私はそう返す。


そして自分らは花火を見るために色々なものを買って広場へと歩いた。

幼稚園生くらいの女の子を見ると、あの頃が懐かしく感じた。

二人の姉と花火を見て、りんご飴を食べながら笑いあったあの夏を。

どこか心が苦しくても悲しくても楽しかったのかもしれない。

でも姉達はそうではないと思う。

そう思うと私の目からは熱くてしょっぱい何かが溢れた。


「春奈ちゃん、泣かないで? どうしたの?」


涙で視界が見えない私に和樹君は優しく話しかけてくれた。


「夏美お姉ちゃん達に和樹君は、いじわるしない…?

ちゃんと優しくしてくれる…?」


私は涙を拭いて問いかける。

姉の事を思うと苦しくて涙が出る。

自分は姉が大好きだ。

優しくて、面白くて。

そんな姉達が大好きだ。

あの時姉が辛い思いをしてたと知って自分は苦しかった。

でもここに来れば安心だろうか……?


「大丈夫、夏美お姉ちゃんと雪華お姉ちゃんにいじわるしないよ。

ちゃんと優しくしてあげるよ、春奈ちゃんにも。

春奈ちゃんはお姉ちゃん想いのいい子だね」


「ありがとう…。

お姉ちゃんの事、和樹君と同じくらい大好き!」


「ありがとう」


和樹君は笑顔で返してくれた。

そうしてここの地で最初に見る花火が始まった。


色とりどりの花火は咲く時は美しくも散る時は儚く散っていく。

まるで春の桜と同じように。

それでも私は飽きることなくそれを見ていた。

春の桜も夏の花火も同等に散りゆく運命であるから。

こんな事を言うのは自分らしく無いけど、気には留めない。

しばらく見ていると全てが儚く散った。


「帰ろうか春奈ちゃん」


「うん」


和樹君は私の手を引いて入口まで連れていってくれた。

その間何処かで聞いた事のあるような音楽が聞こえる。

その音楽の題名が私には分からない。

歌詞は聞こえて来ないから。


そして入口まで行った。

そこから出て、家まで向かっていた。


「楽しかったね〜」


「うん、また行こうね!」


私は和樹君にそう言った。

初めて行くお祭りはとても楽しかった。

また行きたいだなんて思っていた。

私達は自分達の家の近くまで行って別れた。

どうせ隣だからあとは1人で帰ればよかった。

そして家に着いた。


楽しかったな。

また和樹君と行ければな。















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