3.
「タケシ! 持ってきたんだろうな?」
「もちろん。みんなも持ってきたよね?」
外の空気を吸うのはいつぶりだろう。ずっとあの箱に閉じ込められて、空を見るなんてずっとしてなかった。あの空をぼくも飛んでいたんだと思うと、なんだか悔しい気持ちでいっぱいだ。
「ぼくはね、昨日飲んだラムネに入っていたビー玉だよ」
鼻水を垂らした子供の手には、透明なビー玉がころんと転がっていた。
「リョウタはそんなのが大事なのか」
「人それぞれだよ。シュンは何にしたの?」
「オレはもちろんレアカードだ」
身体の大きな子供の手には、キラキラと光を反射する紙が数枚握られていた。
「ふうん」
「そういうユウキはなんなんだよ」
「僕は川で拾った緑色の石だよ。こんなのなかなか見つからないんだから」
メガネをかけた子供の手には、すべすべした緑色の石が載せられていた。
「結局石ころじゃんか」
「タケシくんは?」
鼻水を垂らした子供に言われて、タケルはぼくをみんなの目の前に差し出した。
タケシが人差し指と親指で根元をぐっと掴んでいるから、ぴんと空に向かって背筋を伸ばした。
「この前のカラスの羽根じゃん」
身体の大きな子供がフンと鼻を鳴らして言った。でもタケルは気にしてないようで、誇らしげに見せ続けた。
ぼくがタケシのいちばんになったんだと思うと、すごく嬉しい。
「じゃあ、この木の箱の中にみんなのたからものを入れて」
仲間たちと過ごした箱よりもずっと小さい箱に入れられた。先っぽの羽根のところが少しくしゃっとなってしまう。かすかに身体を震わせてみるものの、直りそうにもなかった。
「よし。じゃああの桜の木だな」
ぼくの視界は青々とした葉っぱが揺れる木の枝と、その向こうにどこまでも広がっている青空だけだった。
ザクザクと地面を掘り返す音が聞こえてくる。ぼくは窮屈の箱の中で、同じく箱に入れられたみんなにそっと話しかけた。
「ねえ、ぼくたちいちばんなんだね。すごく嬉しいね」
「すごいことなんかあるもんか。シュンに遊んでもらえることの方が嬉しいのに」
「私もユウキさんに大事にされてきたのに、こんなところに連れてこられてさみしいわ」
「なんで? なんで? お外、楽しいじゃん」
ビー玉だけがコロコロと箱の中を行ったり来たりしている。どうして嬉しそうじゃないんだろう。
「オトナになったら、オレたちどうなってんだろうな」
「できなかったことが、たくさんできるようになってるはずだよ」
「なんにも変わらないよ! ぼくたちはずっと友達でしょ?」
「どうなっているんだろう。ちょっと怖いけど、わくわくするね」
いつの間にか地面を掘る音は消えて、タケシたちが話している声がする。
そよそよと柔らかい風が吹いてきて、気持ちがいい。この風をはらんで、ぼくはどこまでも遠くへ行けそうな気がする。いや、どこまでも遠くへ飛んでいたんだ。これはどこぞのカラスの一部だった時の記憶。
「じゃあ、埋めようか」
これは多分メガネをかけた子供の声だ。
見上げた空を、四人の顔がにゅうっと覆い隠した。
タケシ、ぼくはここだよ。ぼくはいちばんで嬉しいよ。
上から蓋が被せられる。箱の中は真っ暗になった。
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