2.

「行ったかな? 行ったかな?」


「多分もう大丈夫よ」


「あいつはなんなんだ?」


 歪んだ木箱から顔を覗かせる、得体の知れないモノたち。じぃっとぼくを見てひそひそと囁いている。


 ぼくはびかびかと光る白い光が眩しくて目を細めた。狭まった視界の中で、もぞもぞと蠢き、徐々に白い光の中に姿を現していった。


 最初のやつは飴色に輝く丸みを帯びたフォルム。凶悪な鉤爪が机をガリガリと引っ搔いている。けれども重さはなく、風に吹かれれば飛んでしまいそうな物体だ。


 ゴトンと大きな音がして目を向ければ、重さのあるグレーの尖った体が机を這いずっていた。尖ったところから下側にかけて、二本の白いラインが入っていてかっこういい。ゴリゴリと机を傷つけながらこちらへ向かって来ようとする。


 その後ろからはぴょんぴょんと飛び跳ねる半透明の球体が追いかけて来た。大きく跳ねたり小さく跳ねたり、とにかく陽気な印象だ。


「君たちは……?」


 すっかり姿を現した歪な仲間たち。ぼくはどうなってしまうのだろう。


「新しい仲間が増えるのは久しぶりね」


「こいつ黒くて地味だな。尖ってもいないし、線が入ってるわけでも、変わった形をしてるわけでもないのに」


「ボクの身体のきらきら、かっこういいでしょう? それにボクはここにいる誰より高く跳べるんだ! キミたちにはできないでしょ」


 各々が好きなことを好き勝手にしゃべっている。


「ここはどこなんだい?」


「そんなこと、必要? なんであなたは連れてこられたのかしら」


「ただの真っ黒な羽根じゃないか。かっこうよくも、綺麗でもないのに」


「ほらほら見て見て、こんなに高く跳べるんだよ!」


 ぼくの話を聞いてくれる気はさらさらないみたいだ。


 ぼくのことをニコニコ顏で撫でていた、男の子の顔を思い出す。


「昼間、ぼくをたからものだって言ってた」


「私たちはみんなタケシのたからものよ? そんなことも知らないの?」


「こんな黒くて地味なやつもたからものなのかよ。オレの方が絶対かっこういいのに」


「ボクだってかっこういいだけじゃなく、かわいさもあるでしょ。だからボクが一番だよ、絶対」


 ここにいるのはみんなタケシのたからものなのか。ぼくだけが特別扱いなのかと思ったのに残念だ。


「ねえねえ、誰がいちばんかな。やっぱりボクだよね?」


「そんなわけあるか、オレの方がかっこういいからオレに決まってる」


「あら、あなたたちは自然の美しさを知らないのね。いちばん最初に来たのは私なんだから、私がいちばんで間違いないわ」


 口々に言い合っている姿がなんだか変だった。


「ほら、そろそろ静かにしないとタケシが戻ってくるわ」


「オレの弟分としてなら認めてやる」


「ボクはもっと飛び跳ねて遊びたいのに」


 飴色の彼女と球体の彼は箱に戻っていった。重そうな体を引きずる彼だけは、自分を持ち上げられないのか箱のそばでじっと動かなくなった。


 キョロキョロと辺りを見回しているとタケシが戻ってきた。


「やっぱり、カラスの羽根だった。お母さんがそう言ってたもん。かっこういいなぁ。ぼくも空を飛べたらどんな気持ちかな。こんな羽根でどうやって空を飛んでいるんだろう」

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