その男は神喰らいし者~神から奪った力で弱者を助けるために立ち上がった~

MIZAWA

第1話 神喰らいました

 それは突然やってきた。

 まるで空から光の世界が降ってくるように体を包まれた。

 数か月間飲まず食わずの俺はお金すらなかった。

 仕事場には行っていたが、同僚がお金に困ってると毎回支援していた。

 

 もう騙されている事は分かっていたんだ。

 でも不思議と助けないとって思ってしまう。

 自分が不幸になっても相手が幸福になればいいなんて甘っちょろい事を考えていたんだ。


 光の世界には無数のゲートがあった。

 とても大きなゲートであれが天国に続く階段なのだろうかと思った。


 広々とした広場には一人の美女が椅子に座って微笑んでいた。 

 まるで神様のような彼女に俺は見とれてしまった。


「さぁあなたは死んだ。異世界に行きなさい」

「だが断る」


 俺はなぜか即座に断っていた。

 そして俺は彼女、つまり神を喰らう事にした。


「お前を喰らう」


 なぜだろう、俺は何をすれば、どうすれば神を喰らう事を知っていた。

 美女の神様は驚愕の表情で瞳を大きく見開くと。

 気づくと消滅していた。


 俺の止まった心臓はゆっくりと鼓動を始めた。

 気づいた瞬間、ぼろぼろのベッドで目が覚めた。

 心臓がばくばくとものすごく痛かった。


 口から大量の血を吐き出した。

 白いベッドのシーツが赤く染まった。

 もう死ぬのかなと思った。


 だが感覚が研ぎ澄まされていくのだ。

 

 音が遥か遠いい先まで明瞭に聞こえる。

 誰がどのように会話したか理解できる。

 アパートの隣の部屋にいる人の声がはっきりと聞こえる。 

 まるで超能力に目覚めたかのようだった。


 次に眠気がまったく襲ってこない。

 すごく覚醒しており、頭がすっきりとしている。

 ゆっくりと論理だてて考える事が出来る。

 食べ物を数か月食っていないので、思考がにぶっていたのにも関わらず。


 次に全身を襲う寒気。

 まるで冷蔵庫に閉じ込められたような感覚だ。

 だが不思議と耐えられるレベルであった。

 まるで俺自身が死体になってしまったかのようだ。


 次に試しにと右手をつねる。

 足をたたいても痛みを感じない。

 俺はどうやら無痛になってしまったようだ。


 今のところ分かっているのは【眠れない】【無痛】【聴覚敏感】【寒気】が生じている。


 意識を集中する。

 心の扉を開くようにすると、その美女はしくしくと泣いていた。

 それが誰かすぐに理解した。


「あなたが神様ですね」

【あなたが喰らったものです。聞いたことがありませんわ、神様を喰らうなんて】

「なぜか俺は神を喰らう方法を知っていたんだ。だから喰わせてもらった。なぁ神様ってさ世界を救う奴の事を言うんだろう」

【そうですが】

「なら俺とこの世界を救おうぜ、神様は死んでから救ってるけど、今回は生きている俺の中に存在出来るから、命を沢山救おうぜ】


 するとしくしく涙を流していた神様はゆっくりとこちらを向いた。

 すると彼女はこくりと頷いた。


【それもいいでしょう、あなたが間違った方向に行かないように説得する人も必要ですしね、さぁ紫龍神童子しりゅうしんどうしよ神である神に道を示しなさい】

「もちろんだ」

 

 それから精神世界での神様からの力のレクチャーが始まった。


【まずは、神の手について説明しましょうかね、これは触れた相手に相応しい力を授ける事が出来ます。仲間に引き入れた人に提供するのがいいでしょう、ただし、力を使う時は代償を払う必要があります。その力を授けられた人が納得できる代償だといいですね】


【次に投影の魔眼です。見たものの記憶の一部を皆に見せる事が出来るのです。例えばあなたがある男性を見て。その男性の記憶の一部を皆に見せるという事が可能なんです。不正を正す時に使うとよろしいでしょう】


【次に絶対不干渉です。発動中誰も触る事が出来ないのです。あなたは発動中無敵になれるのです。それも銃弾すら弾くでしょう】


【次に生贄力創造です。生物の体のパーツを生贄にする事で圧倒的な力を得る事が可能です。生身に触れるか生身を見る必要があります。または自分自身の肉体ですら生贄に捧げる事が出来ます。圧倒的な力は永続します】


【今あなたが使える神の力はこれだけです。力を使いこなしていけば使える力も増えていくでしょう】

 

 精神世界で、力の発動の仕方などを訓練した。

 俺は仕事を休むようになった。

 誰も心配してこなかった。

 果たして俺は生きていると言えるのだろうか。 

 お金を貸している相手だって心配してこない。


 俺は誰からも嫌われたくなかった。

 いつも一人ぼっちだったから。

 でも今、俺は圧倒的な神の力を手にいれた。

 俺は、俺は、まずは生贄が必要だ。


 にやりと俺はほくそ笑んだ。


 世界は暗闇に包まれて、沢山の非常な事が起きている。

 人を不幸にさせ、自分だけ幸せになればいいと思っている奴らで溢れている。

 俺の心は今覚醒した。


 大勢の人を不幸にし大勢の人を幸福にするのだから。


 1人の男が大勢の人々を助けていく。これはそんな物語の始まりだ。

 怒りの血の涙を流してきて、苦しんでいた人々。

 彼らはその男をこう呼んだ【神喰らいし者】と。

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