第2話 精神科に苦しめられている人を救済せよ
俺は神の力を手に入れてから、眠る事はなくなった。
目には大きなクマが出てきており、人から見たら不健康に見える事だろう。
それでも頭の中はすっきりと覚醒しているものだから、不思議なものだ。
自分の力を使って何かを変えたいと思う。
その1つが精神科についてだった。
俺は20歳くらいの時に精神科の九龍寺医院に入院した事がある。
障害の名前は広汎性発達障害またはアスペルガー症候群で病名が統合失調症と脅迫性障害と言われた。
その頃は仕事もしてなくて引きこもりであったし、父親と母親には色々と迷惑をかけた。
その病院は何もかもがおかしかった。
担当の事務の人の説明は他の患者の声でかき消され。
それでもサインを求められる。
自由参加の作業療法も強制的にやらされる。
そうして必然性なのか俺への虐待が始まった。
生きる希望を無くし、自宅に帰られない絶望から、死んでしまいたいと言ってしまった。
すると保護室に入れられ、トイレットペーパーは自然環境保護の為出せないと言われ。
腹痛を我慢するのに壁に頭を叩きつけたりした。
そんな生活が1週間も経過し。俺は正気を失うのではなく、医者達の言いなりになった。
そうして退院し、仕事に就いたという事だ。
俺の中で入院させられる恐怖が強かった。
被害者は俺だけではなかった。
無数に存在していた。
そして俺は鏡に映る自分を見ていた。
まるでピエロのようにけらけらと笑っていた。
「そうだよな、俺には神の力がある。今なら九龍寺医院の患者達を助けられる。看護師も医者も痛い目にあわせてやる。いや生贄にしてやる。ふ、冷静になれ、俺は正義になりたいのだろう。悪になりたくないのだろう。だが悪を見逃す事は出来ない。心の怒りを抑えつけて、正当なる罰を与えなければ。まずは仲間を集める必要があるなぁ」
俺は神の力を手に入れてから、仕事に行かなくなった。
空腹を感じる事はあるが、広汎性発達障害やらアスペルガー症候群になると障がい者年金をもらう事が出来る。
俺の今の生活を支えているのは年金そのものであった。
俺は九龍寺医院の近くに行くために私服に着替えて出発した。
耳から頭の中に大勢の人々の声が聞こえる。
不思議と機械音声は聞こえなかった。
神の力を手に入れる為に払われた代償の1つとして聴覚敏感がある。
それを逆に利用して、仲間を探す力となる。
病院の近くでうろうろしていえると。
さっそく病院から悲鳴のような声が響いた。
俺は思わず耳を抑えたが。ぐっとこらえて両手を耳から離した。
今あそこでは虐待が行われている。
俺はそれを助けないといけない。
俺は九龍寺医院の院長よりはるかにすごい人間になっているのだ。
こんなところで臆病になってはいけない。
心がかき乱される中。
俺の耳に1人の声が入ってきた。
【お父様とお母様は今までずっとわたくちを虐めるの。だから精神科に入院して逃げたのに、ここでも虐められるの。誰か助けて、今日退院だけど、また両親が虐めるの、しくしく】
その声を聞いた瞬間、俺の心は動き出した。
それは肉体を動かすのにさほど時間はかからなかった。
まるで神に導かれているかのように玄関に向かった。
そこにはお日様のように明るい笑顔をした女性がいた。
彼女はこちらを見て不思議そうにしていた。
彼女は白いロングスカートをはいており、薄緑の長袖を着こなしている。
まだ夏だが、ひらひらとしたマフラーをまとっている。
とてつもなくおしゃれな女性で俺なんかが話かけられる相手ではなかった。
そこに2人の男性と女性が現れる。
すると声の女性はびくっと震えた。
父親と母親は気持ちの悪い笑顔を浮かべていた。
俺はとっさに彼女の右手を掴むと、前のめりになって病院の玄関の外に走り出していた。
「え、あえええええ」
声の女性は驚いた声を上げながら俺と一緒に走っていた。
後ろからは父親と母親なのか奇声を上げていた。
お前らが入院しろと突っ込みたかった。
近くの公園のベンチに座ると、声の女性はこっちをまぶしそうに見ていた。
「ごめん、変な事しないから」
「うん、気にしてない、君さ紫龍君だよね」
「なぜ、俺の名前を知ってるんだい」
「君保護室に入れられてたから印象的だった。虐待されたでしょう? 実はわたくちもなの」
「そうなんだね、父親と母親からも虐待されてるだろ」
「なんで知ってるの」
「実は俺さ神を喰ったんだって言っても信じてもらえないよね」
「ううん、信じてあげる」
「あまり人を信じるものじゃないよ」
「紫龍君だから信じる」
「だけど証拠は見せないとね、うんと、そうだ! 君に神の力を授けるよ」
「それが本当に出来たら、とても嬉しいよ」
俺は【神の手】を発動させる事にした。
【神の手】を発動させるのは人生で初めてだったが、不思議と頭の中ではどのような力か理解していた。
それはきっと神様が頭の中にいるからだと思う。
俺はゆっくりと彼女のほっぺたを触る。
手の平に優しくて柔らかい感触のするぷにぷにしているものが触れる。
彼女はくすぐったそうに瞳を閉じている。
力を発動させた。
頭の中に無数の天使の羽が舞い上がった。
天使の世界に包まれた俺は空中を泳いでいた。
するとそこに目の前の彼女がいた。
彼女はこちらを向いて微笑んだ。
次の瞬間、彼女は全てを理解していた。
「これがわたくちの力なのね【マインドボイス:わたくちの声を聴いたものを操る事が出来る。条件は親しい仲でないこと】そして代償は【1度使用すると片耳が1時間聞こえなくなる。連続で使用すれば2時間、3時間と増えていく】か」
彼女は少し感慨深げに辺りを見回した。
次の瞬間、俺は彼女の瞳が燃え上がった事を感じた。
まるで生きる理由を見つけたように。
「わたくちの名前は
「ああ、仲間にって居候って、俺の家はアパートで狭くて」
「魅惑の女性がいたら興奮しちゃう?」
「そそれはそうだけど」
「わたくちの男性を見る目は確かなの、紫龍君は信用できるし、紫龍君にならめちゃくちゃにされてもいい」
「さすがにめちゃくちゃにはしないよ」
「ふふ、では、あなたの家へレッツゴー、最初の目標はやっぱり?」
「そうだ。九龍寺医院をぶちのめすぜ」
もしかしたら俺の人生は障がい者だと分かった高校生を中退した頃から終わっていたのかもしれない。
よく皆は言うだろう、障がい者だから関係ない、きっとすごい事が出来るって。
でもな、障がい者というハンデを背負って一般の人と戦うのはとても難しい事なんだ。
そりゃ、障がい者になったおかげで身に着く力もあるだろう。
だけど今の時代差別は存在している。
俺は広汎性発達障害だ。そしてアスペルガー症候群に分類される。
だからって俺の人生が綺麗な花を咲かせてはいけない理由にはならない。
だからって虐待される必要もない、だからって夢を抱いてはいけない理由ではない。
「俺は、そうか、俺は認めて貰いたかったんだ」
俺は絶対世界を救うと決心した。
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