第30話 生徒会選挙演説 後日談

王妃によって正式なライトとエレンの婚約が全校生徒の目の前で発表された。


それにより、2人の仲を邪魔する者はいなくなった……わけではなかった。


「なんでこうなるのよ!?!?」


学園内生徒会室、作業机の上に山盛りの書類を乗せたエレンが涙目で机をバァンと叩く。


結論的に言うとエレンは生徒会員に選ばれた。


今回の役員選挙は生徒会役員数が最終的な立候補者数を上回った。故に、選ばれる基準は生徒が認めるか否か。投票用紙にも、立候補者それぞれに、「可か不可」どちらかに丸を付けて提出する。過半数の支持が得られれば当選という結果となる。


女子生徒たちはエレンの気持ちを察し、エレンに票はいれなかった。


が——男子生徒たちは違った。


あの地獄絵図の後、勿論収拾などつくはずもなく、生徒会選挙演説は前代未聞の途中で延期という形を取らざるをえなかった。


その間に男子生徒たちは一つにまとまった。


つまりこう考えたのだ。


エレンが多忙な生徒会に入れば、かなりの仕事が割り当てられる。故に、ライト(婚約者)との逢瀬の時間は必然的に少なくなる。

それはもしかして婚約破棄に繋がるのでは?そうなれば自分たちにもまだチャンスがある!


下心と欲望と嫉妬丸出しの男子生徒の殆どがエレンに票を入れ、その結果、過半数の票をエレンは獲得し、見事当選したのだ。


「こらこら〜サボっちゃダメだよエレン副会長〜」


書類にハンコを押しながら生徒会長のシオンがエレンを苦笑いで注意する。


「エレンちゃんがそんな泣き言言うと、生徒会室に欲望丸出しのバカ共が飛び込んでくるからね〜」


シオンがジト目でドアを指差す。


今現在生徒会室には結界が張られている。

何故かというと…


ドアに付いた窓から大量の男子生徒が生徒会室前で待機しながらコチラを覗いている。


生徒会の手伝いという名目でエレンに近付こうとしているのだ。


「そんなことしても今更意味ないのにね〜」


やれやれと言いながらシオンが肩を窄める。


そんな人気No. 1の王女の、想い人はというと…


「ライト〜…疲れたぁ〜手伝って〜…」


エレンが涙目で、隣に座って黙々と作業しているライトにベタベタとくっつく。


「アホかっ!!手伝っても何も、もう既にお前の仕事の半分俺がやってるじゃねえか!」


額に手を当てながらライトがため息を吐いた。


今回の生徒会選挙では立候補者数が定員に達していなかった為、再度選挙が行われることとなった。

再選挙には全男子生徒の約半分が立候補した。

ライトは立候補などしなかったが。


立候補者は演説などする時間などある筈もなく、多少のアピールはあったものの、ほとんど記名性の人気投票となった。


その際、今度は女子生徒が動いた。


記名性ということを良いことに一致団結し、彼女たちの殆どがライトに投票したのだ。


結果、ライトは立候補していないにも関わらず生徒会員に当選したのだ。


無論、そのことに対して苦情は少なからず来たものの、大量の立候補者を捌く余裕などなく、完全な人気投票になるため、教授陣が適当と判断した人物が適任であると判断された。選挙結果は無効とし、改めて教授陣からライトは生徒会役員に指名された。


よってライトは生徒会書記として生徒会の仕事(+エレンの仕事)を任されるようになった。


「いいじゃない。愛する妻の頼みよ。お願い〜。」


そう言って頬をすりすりさせて甘えるエレン。


他の男子生徒会員たちのドス黒い感情が生徒会室内に溢れる。生徒会室外も同様だった。


エレンの婚約者ということでライトに対するイジメ、嫌がらせ等は殆ど無くなったが、ライトに対しての憎悪や嫉妬は今までと比べ物にならなくなった。


全男子生徒の殺したいランキング堂々の一位だろう。


「とりあえずくっついてないでさっさと仕事終わらせろ…。少しは手伝ってやるから。」


「むぅ〜。仕方ないわね。」


頬を膨らませるエレン。

が、一向に離れる気配はなかった。


「あ!そうだわ!初めからこうすればよかったじゃない!!」


そう叫ぶと指をパチンと鳴らす。


すると先程までエレンが居た席に小さな精霊が3人現れ、エレンの書類を凄まじい速度で捌いていった。


「あ、エレンちゃんズルい。」


そう言いながらも、シオンも同じく数人の精霊を召喚して作業を手伝わせた。


そしてエレンはライトと抱き合う形でライトの膝に乗っかった。

先程までの何倍もの憎悪の視線がライトに集中する。


「おいエレン。めっちゃ邪魔だ。降りろ。」


「嫌。今集中してるの。この魔術はライトとイチャイチャしながらじゃないと維持できないの〜(棒)」


そう言いながらライトの頬に軽くキスする。


「はぁ…もう勝手にしろ。」


そのまま作業を再開するライト。


そんな彼の横顔は耳まで真っ赤だった。





おまけ


「あ、ライト!そうだ!これ書きなさい。」


何かを思い出したかのようにエレンが俺に紙を手渡して来た。


「…何これ?」


「誓約書」


「はい?」


「何鳩が豆鉄砲食らったような顔してんのよ。」


「…いやあのな?俺たち王妃様公認の婚約者になったわけで…」


「ん?だから?」


「だからって…」


「婚約者って言っても、すぐ他の有象無象の雌犬どもが貴方に近付くでしょ?私気が付いたの。結婚する前に一旦ライトを完全に私のモノにする必要があるって。」


「いやお前何言ってんの?」


男子達はともかく、女子達からは完全に応援されている状況だ。

エレンの危惧していることなどまず起こらないだろう。


「だから…、他の女が貴方に近付かないようにするために、四六時中寝る時もお風呂入る時もトイレ行く時も全部私と一緒にいて、イチャイチャしながら私の世話をしなさい。」


そう言いながらエレンはバッグの中をゴソゴソと漁り、とあるモノを取り出す。


「ちょっと何言ってるか分からない。…ていうか、何それ?」


「手錠」


「何で?」


「この紙にサインして血判押した後、私の手と貴方の手をこの手錠で繋げるの。」


紡がれた言葉に唖然とするライト。


(…もしかして俺、とんでもない奴を好きになって取り返しのつかないことしちまったんじゃ…?)


冷や汗をかくライト。


要するにエレンは誓約書で精神的に、手錠で物理的にライトを拘束する気なのだ。


ライトへの愛が限界を軽く超えて膨らみ過ぎた結果だった。

いや、今も尚膨らみ続けている。


「さあ、愛する妻の頼みよ。この紙にサインして私の下僕こいびとになって!ア・ナ・タ♡」


天使と見間違う笑顔で悪魔の言葉を発するエレン。


愛しい人からの誰もが羨む(?)ような提案に、ライトはもちろん——


「だが断る」


頷く筈もなく、爽やかな笑顔で返すライト。その後全力疾走でエレンの前から姿を消す。


「待ちなさいっ!!!」


無論エレンがそのままライトを逃すわけがない。すぐさま背後を追いかけて行く。


「嫌だぁぁぁぁ!!来るなぁぁぁ!!」


結局、婚約者になっても変わらなかった。

むしろ将来が確定してる時点で最終的に確実にライトはエレンに捕まる…ということを考えると、以前よりもかなり悪化しているだろう。





結末の決まった逃亡劇が幕を開けた。

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