第29話 生徒会演説会 後編

「あっ!!」


ジョンたちとの一件の後、講堂へ向かう途中、ライトはエレンと鉢合わせした。


「あら?ライト。どうしたの?そんな怖い顔して。」


上目遣いでライトの顔を覗き込むエレン。


「…そうか?気のせいじゃないか?」


「私を誰だと思ってるの?妻である私が夫の表情を見間違うとでも?」


「そんなことより、これ、一応今日の俺の演説内容だ。」


結婚してないからな?

といういつものツッコミを飲み込み、ライトがエレンに紙を渡す。


「お前生徒会に入るにあたっての公約とか事前演説とか何も言わずに本番だからな。書くのめっちゃ苦労したんだからな?」


生徒会選挙演説において、各補佐官、立候補者の順で壇上で演説を行うこととなっている。通常、事前に全校に演説をし、(その際、公約を宣言したり、)生徒が登校時挨拶運動を行ったり、自身のポスターを校内に貼ったりするのだが…


エレン(とライト)はそれら一切せずに本番に挑むこととなったのだ。


勿論大変なのはライト。

補佐官は基本的に立候補者の公約や選挙活動を中心に演説を行う。


が…それらが全く無い。


立候補者より与えられた時間は少ないものの、決して短い時間では無い。


途方に暮れたライトだったが、どうにかエレンの王女という立場を中心に文章を仕上げた。


「ふうん?どれどれ。」


エレンはライトから手渡された紙を流し見る。


しばらくすると…


「0点」


そう言って紙を半分に破く。


「ちょっ!?お前何してんの!?一応コピーは何枚かあるからいいものの…」


目を見開き、エレンに抗議するライト。


「こっちのセリフよ。本当に何書いてるの?もっと他に書くべきことがあるでしょ!」


目を釣り上げ、少し怒った表情をするエレン。


「例えば…?」


「私への愛をポエムにしたり、私へのプロポーズの言葉だったり、日々のイチャイチャしているところだったり…あ!なんなら初体験のことを書いても良いわね!あの時の幸せな様子を伝えましょう!!」


「は、はい?」


(そんなもの書いたら全校中の男子生徒から命を狙われるだろうが!)


ライトはもはや呆れるしかなかった。


「それから新婚旅行の場所だとか子供は何人欲しいとか夫婦ラブラブな様子を…」


両手を頬に当て、幸せな未来を想像して、顔を真っ赤にしてニヤけるエレン。


そしてドヤ顔でライトを指さす。


「とにかく!私とのイチャイチャラブラブを書きなさい!!」


「生徒会選挙でそんなもの書けるわけないだろうが、この万年発情猫ぉぉぉぉぉぉ!!」


ライトの悲痛な叫び声が響き渡った。





「これより生徒会選挙演説を始めます。」


椅子に座った生徒たちが密集した空間に魔術で拡声されたロイドの声が響く。


壇上に座っているのは先陣のエレンとライト。


(はぁ…結局ギャーギャー喚きあってる内に本番が来ちまった…。)


アレから何一つ纏まらず、現在に至る。


ため息を吐きながら、壇上に立つ。


「エレン=ルイ=ファマイルの補佐官のライト=ファーベルです。よろしくお願いします。」


簡易的な挨拶と一礼をする。


(…俺の発表は聞く気ないってか?ま、分かってたけどな)


いびきをかきながら爆睡する生徒、友人と喋り合ってる生徒、読書や勉強する生徒、ライトに中指を立て、ヘラヘラする生徒、などなど


ライトの発表を真面目に聞こうとしているのは半分も居ない。


それを見てロイドやニック、教授陣の顔色が険しくなる。


「立候補者、エレンは………」


ライトの演説が始まった。




「…清き一票をエレン=ルイ=ファマイルにお願いします。」


最後に一礼する。


拍手がパラパラと起こる。

殆どが教授陣と女子生徒だった。


「あーあ、つまんねぇなぁ、流石平民」

「よくそれでエレン様の補佐官務まるよね。僕の方がまだマシだよ。」


今までのライトの様子から、女子生徒の大部分は彼への認識を改め始めていた。

しかし、男子生徒は違った。


彼の恋人がエレンだから。


自身の想い人のエレンが、ライトに取られているのが気に食わないのだろう。要するに、醜い嫉妬だった。


「本当につまらない演説だったわ。」


凛とした声が響く。エレンだ。

しかし、彼女の表情はムスっとしていた。


「だから私への愛を宣言しなさいって言ったのに。」


頬を膨らませる。


「アホか。そんなことしたらここで暴動が起きるわ。」


「…仕方ないわね。あとは任せなさい。」


そう宣言して壇上に立つエレン。


「物凄く嫌な予感がするから任せたく無いんだが…?」


冷や汗をかくライト。


「立候補者のエレン=ルイ=ファマイルよ。」


高々に言うエレン。

その途端、静まり返る講堂。

全校の生徒たちがエレンを見ていた。

先程のライトの演説とは大違いだ。


「まず初めに言わせてもらうわ。私生徒会に入りたくてここに立ってるんじゃないわ。」


「「「「「「は?」」」」」」


全校生徒や、教授たちが固まる。


「当たり前でしょ。多忙な生徒会の仕事してたらライトとイチャイチャできないもの。」


理由に絶句する一同。


「ここに私が立つ理由は、言わなきゃいけないことがあるからよ。」


(何やらかす気だ!?エレン!)


すぐに対処(逃走含め)出来る様に身構えるライト。


「貴方たち、恥ずかしく無いの?」


怒気を含んだエレンの声が響き渡る。


「さっきからずっと…いえ、ライトがこの学園に入学してからずっと、彼を卑下してきたわね。それの何が楽しいの?何が嬉しいの?」


あまりの言葉に目を見開く生徒たち。

教授陣も驚愕の表情をしている。


「私だってそうよ。今思えば本当にバカだったわ。…けれど、私は彼と出会って今までの自分の愚かさや醜さを痛感したわ。彼と出会って、本当に大切なものを知ったわ。過去は変えられない。けれど、償えるって私は信じてる。ううん、私は絶対に償う。」


エレンの表情が柔らかくなる。


「なぜなら…私は彼のことが好きだから。誰よりも、何よりも、大大大大だーい好きだから。」


頬を赤く染める。完全に恋する乙女だった。


スゥ…と深呼吸するエレン。

するとさっきまでの表情とは一転。決意を目に宿していた。


「…だからこそ、彼が今置かれているこの状況が許せない。想い人が辛い思いをしているのを黙って見ているなんて私には出来ない。耐えられない。」


(エレン…。)


「だから、変わらなくちゃいけない。変えなきゃいけないの。」


(エレン…、そうまでして俺のために…)

ライトが泣きそうな表情でエレンを見る。


「私は変えるわ!!」


そう高々と宣言する。


ニックやロイド、他の教授たちもエレンの紡ぐであろう言葉を歓喜の表情で見守る。


ライトも恋人の思いを聞き、感激していた。

(俺のためにこの学園を変えてくれようとして……)


「ライトを!!!!」


「「「「「はい?」」」」」


紡がれた言葉に唖然とするライトたち。


「正確には、ライトの立場を変えるわ!!」


ドヤ顔で宣言するエレン。


「コレを見なさい!!」


そう言うと机上に青い魔石を置く。

すると、魔石から一筋の光が出て、壁にスクリーンを形成する。


そこに映っていたのは…


「こんにちは皆さん!王妃のマリーです♪」


「「「「「王妃様!?!?」」」」」


エレンの母のマリーだった。


「いやぁ、エレンの計画を聞いた時、是非とも行きたかったんだけど、あいにく外せない用事が出来ちゃって無理だったわ〜。だから映像でこうやってお邪魔させて貰ったのよ♪」


ウフフと笑うマリー。


「早速、コレを見てください。」


映像内のマリーはそう言うと一枚の紙を開き、ドアップで見せる。


その紙は…


「エレンとライトくんの、婚姻届♡勿論本物よ♪」


「「「「「はぁ!?!?」」」」」


唖然とする一同。


「エレンもよくやったわ♪遂にライトくんを落としたのね!」


「ちょっと待て待て待て待て待て」


エレンと自身の婚姻届と彼女の母親。

コレらが揃って、ライトはこれから何が起こるかを理解し慌てる。


「王妃マリー=ルイ=ファマイルの名においてここに宣言します。ライト=ファーベルを、第一王女、エレン=ルイ=ファマイルの婚約者として歓迎します!」


唖然とする一同。


「ウフフ♪エレンをよろしくね、ライトくん♪」


映像がそこで切れる。


「分かったわね!ライトへの侮辱は私への侮辱!王家への侮辱よ!」


ビシッと指をさして生徒たちへと宣言するエレン。


「…ライト、来なさい。」


クイクイっと指を曲げる。


「…はい。」


外堀も完全に埋められたライトに拒否権はなかった。


「誓いのキスをしなさい。」


「全く…本当にお前って奴は…。どこまでも振り回しやがって…。」


苦笑しながら優しくエレンにキスをする。


「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」」」


女子生徒たちの黄色い悲鳴があがる。


「これ、収拾つくのかの?」


ニックがため息を吐く。


「無理でしょう。」


ロイドも額に手を当てる。


女子生徒たちのエレンとライトへの祝福の悲鳴。


血涙を流して泣き崩れたり、魂が抜け落ちている男子生徒たち。


完全な地獄絵図と阿鼻叫喚だった。

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