第28話 番外編 絡み合う想い

ライト視点


目の前で目を瞑りながら涙を目尻に溜めるエレンを前に、俺は言葉を紡ぐ。


「俺は、ライトはエレンのことが大好きです。」


その言葉を聞いて、エレンはバッと顔を上げ、目を見開いて驚愕の表情を浮かべる。


「嘘……。」


「いや、嘘じゃない。」


「だって…だって私、ライトにずっと酷いことしてた!それなのに!嘘つき!」


「あぁ。そうだな。学園で何度も酷い目に合わされた。」


「だったらそんな嘘付かないでよ!!変に優しくしないで!同情なんて要らないわ!!」


「同情じゃないよ。」


「嘘!!絶対嘘!!!」


「嘘じゃない。」


「嘘よ!!嘘嘘嘘……んん!!」


エレンの口を強引にキスをして塞ぐ。

と同時に息に魔力を込める。

初めてエレンとキスした時のように。


「はぁ、はぁ、はぁ…。」


数秒だったかもしれない。もっと長かったかもしれない。俺たちの口が離れる。


「少しは落ち着いたか?」


「本当に…?本当に私のこと好きなの?」


エレンが涙目で尋ねる。


「あぁ。大好きだ。」


「こんなに心が醜い私なのに?」


「エレンの心は醜くない。ただ弱いだけだろ。」


幼い頃から王女として周りからの羨望や嫉妬を受けて育ってきた。エレンも彼女なりに王家の権力が衰退してきていることを薄々感じていたのだろう。少しでも気を許せば、家族ごと滅ぼされない状況。少しでも己の脆いところを見せれば、即攻撃されるような状況。そんな中で、周りなど気遣うことなんてできなかったのだろう。


それでも—


小さな幸せを掴もうと必死に、一生懸命頑張っていた。


最初は、ただウザいだけだった。


けれど、いつの間にかそんなエレンとの生活が何よりもかけがえのないものへと変わった。



「エレン。お前のしたことを忘れるわけじゃない。これからもずっと。

けどな、それよりも。

俺は、お前と生きたい。お前の心の支えになりたい。」


エレンの瞳から涙が溢れ、頬をつたる。


「まぁ要するに、お前のことが好きだから、一緒にいたいってことだ。」


「私…も、大好き!!」


そう言ってエレンが俺に抱きついて来た。


「あぁ。俺もだ。」


ゆっくりと唇を重ねる。


初めて想いを伝え合ってしたキス。


幸福感が包み込む。


暫くして俺たちの顔が離れる。


「ほら。もう朝だ。起きるぞ。」


「…嫌。もう少しだけ、もう少しだけ、この状態が良い。お願い。」


涙目で上目遣いで言われる。


想い人にそんなことされたら断れるわけがないだろ。


だけど…


「…エレン。ムードを粉々にぶっ壊して悪いが…。これ以上、我慢できそうにない。」


自覚してしまったエレンへの想い。

今こうして考えれば、今まで良く手を出さずにいられたものだ。


一瞬エレンが目を見開き、そして微笑みながら応える。


「ライト、来て。」


エレンをベッドに押し倒すような体勢になり、深くキスする。


「いいのか?」


「…うん。ずっと、待ち望んでた。

お願い、ライト。抱いて。」


その言葉で俺の理性は完全に消え去った。




それから俺たちはお互いにお互いを求め合った。


すれ違い、傷つけ合った日々を埋めるかのように。

少しでも離れたら居なくなってしまうかのように。


時間を忘れ、予定を忘れ、過去を忘れ……。


何度も何度も何度も——。



気がつけばまた眠ってしまっていた。

2人で抱き合いながら。





目覚めたのは夜だった。


「ふわぁ…。」


目を擦りながら欠伸をする。

腕の中にはスゥスゥと言う寝息をたてるエレン。

そんな愛しい少女の頭を優しく撫でる。


「ん…。」


それに応えるかのようにエレンが薄らと目を開ける。


「すまない。起こしたか?」


「…ううん。大丈夫。」


そう言ってエレンは俺の胸に頬を擦り付けて甘えてくる。


「…夢じゃなかった。幸せ。」


「俺もだ。」


「ねぇライト。一緒にお風呂入りましょ。」


「あぁ。いいぞ。」


2人でベッドから降りて服を着る。

そして城の大浴場へと向かおうとするが、エレンは歩けそうになかった。


「ライト、お姫様抱っこして。」


「はいはい。仰せの通りに。」


エレンを横抱きに抱え、風呂場に向かう。

幸い、使用人たちとは出会わなかった。


…まぁ視線は感じるが…。


流石、城といったところか。

大理石の湯船、高級なシャンプー。サウナまでついている。広さもかなり大きい。

お互いに身体を洗い合い、手を繋ぎながら巨大な湯船に浸かった。


心地良い温度のお湯に包まれ、癒される。


「ねぇ、ライト。赤ちゃんできたら結婚してしてくれる?」


「ゲホッゲホッ!!」


不意に聞こえた言葉にむせる。


「…アホか。全く。」


「アホって何よ!?アホって!?」


ぷくぅと頬を膨らませるエレン。

そんな彼女のおでこにデコピンする。


「ひゃう!…何すんのよ!!」


涙目で抗議してくるエレンを華麗に無視する。


エレンは拗ねてそっぽむく。


「できてもできなくても俺にはお前しか見えないよ。」


顔を真っ赤にさせて俯くエレン。


「…本当にズルい。意地悪。」


口を尖らせて呟く。


「さ、そろそろ出るぞ?」


「待って、ライト。」


「ん?」


「もう一回しよ。」


「…また歩けなくなるぞ?」


「平気よ。その時はライトが抱っこしてくれるでしょ。それにライトだってやる気満々じゃない。」


「…はいはい。一回だけだぞ。」


また俺たちの影が重なる。

無論一回だけで終わるはずもなく——


幸せな夜は更けていった。

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