第23話 月光に隠された想い
ライト視点
「あぁ…何やってんだろうな。俺」
泣きながら頼む王妃を拒絶し、住宅街の屋根を歩いている。
そんな俺を月の光が照らす。
「助けて…か」
脳裏に王妃様の泣きじゃくった姿が映し出される。
「俺…エレンのこと、どう思ってんだ…?」
自分でも分からない。
どうして、エレンを許そうとしたのか…
どうして、エレンを「好き」になろうとしたのか。
自分の行いを正当化するため?
本当にそれだけなのか?
「あぁ…もう、わけわかんねぇ!!!」
頭をグシャグシャと掻きむしる。
汚れた俺の心を壊すように——。
「…会って話すしかないよな。」
これまでのことも。これからのことも。
「助けられるのは俺だけ…か。」
傷付けたのは俺自身だっていうのにな。
そう決意すると、俺は城へと進行方向を変えて走り出した。
住宅街の屋根から飛び降り、王門の前に着地する。
「こんばんは。」
「「誰だっ!?」」
2人の門番が俺に槍を向け、警戒しながら問いかける。
「エレンさんの友達なんですけど、エレンさんに会わせてもらえないでしょうか?」
「エレン様は今体調不良で寝込んでおられる。」
体調不良で…ねぇ。
「大体、こんな夜遅くに訪ねてくるなんて非常識じゃないか!!明日出直せ!!」
確かにそうだな。
なんで気がつかなかったんだ…。
それほど焦っていたってことか…。はぁ。
「分かりました。ご迷惑をおかけしてすみません。」
強引に入ろうとすれば入れる…が
侵入しようにも、これだけ大きな城だ。エレンがどこにいるかも分からない。
そう思って城を見上げ、踵を返す。
ふと、視界に何かが映った気がした。
「ん?」
気になって見てみれば、城の8、9階ほどのとある窓が、開いて、金髪が夜風に揺られている。
「エレン…?」
一体何を…
その疑問は一瞬で吹き飛んだ。
エレンが窓に足を掛けたからだ。
「アイツッ!!まさか!!」
王妃様の話と今現在のエレンの行動からやることは容易に伝わってくる。
「クソッ!!」
ここからじゃ、とても間に合わない。
《魔装召喚 冥王ルシファー》
足元に黒い魔法陣を生成する。
「「なっ!?!?」」
門番は驚愕の表情でさらに警戒を高めている。今にも襲いかかりそうな勢いだ。
が、そんなことに構っている暇はない。
思いっきり足に力を込め、跳び上がる。
門を跳び越え、エレンの元へと一直線に。
が、すぐに減速し、落下し始める。
と同時に黒い雷が俺を包み込み——
エレンが窓から落ちる。
「チッッ!!!」
間に合え!!!!!!
限界まで力を使って加速する。
そして——
「馬鹿野郎!!!!!!!」
エレンを横抱きに抱えるが、そのまま王城の壁が眼前に迫る。
なんとか空中で身を反転させ、自身の背中から激突する。
ドゴォォォン!!
壮大な音を立てて破壊される城の壁。
無数の瓦礫が城の廊下に散乱する。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
俺はその場にへたり込んだ。
危なかった…。
あと1秒、城に行くかどうかを悩んでいたらエレンは助けられなかった。
「な、なんですか!?…ってエレン様!?」
城の人々が集まってくる。俺に対して警戒心丸出しだ。
「…窓から飛び降りたエレンを、助けました。とりあえずエレンをよろしくお願いします。」
とりあえず、エレンを渡そうとする。
とある執事の人がエレンを受けとろうとするも——
「待ってください。」
凛とした声が廊下に響く。マリー様だ。
「…マリー様。先程ぶりです。」
何を言えば良いか分からず、とりあえず会釈をする。
「ライトくん、エレンが目覚めるまで、側にいてあげてくれませんか?」
「え?」
「マリー様!?」
唐突なマリー様のお言葉に混乱する俺たち。
「…目を覚ましたら、またエレンは死のうとするでしょう。何度でも、何度でも。こんなことを君にいう資格ないというのは分かっています。ですが、お願いします。」
涙を流しながら俺に頭を下げる。
「マリー様!?頭をお上げくださいっ!!」
従者たちはそんなマリー様の様子に慌てている。
「…ライ…ト…」
不意にエレンからか細い声が聞こえる。
寝言だろう。目からは涙が出ている。
夢の中でも苦しんでいるのかよ…。
エレンの涙を指で拭う。
「…分かりました。部屋に案内してください。」
「!?ありがとうございます!本当に、ありがとう!!…皆さん、彼らを部屋に…」
泣きじゃくりながら礼を述べられる。
従者たちも困惑しながらも、王妃の言葉通り、俺たちを部屋へと案内する。
女の子らしい部屋へと案内された。
机には学園の参考書がある。
エレンの自室だろう。
とりあえずエレンをベッドに寝かせる。
「ライトくん…。もう一つだけ、我が儘言わせてください。」
去り際にマリーに声をかけられる。
「…何でしょうか?」
「エレンをずっと抱きしめていてあげてほしいです。エレンと貴方が抱き合うのは…これで最後になるでしょう。迷惑なら強制はしません。お願いします。」
「…わかりました。」
正直、断ろうと思ったが、母親としては、娘に最後に想い人の温もりを感じてほしいのだろう。
そんな思いを前に俺は断れなかった。
「ありがとうございます。」
そう言うとマリー様は部屋から去って行った。
エレンのベッドに寝転がり、エレンを抱きしめる。すると彼女はまた、寝言を呟いた。
窓から差し込む月の光を彼女の胸の青い月が反射する。
幻想的なまでに月は綺麗だった。
ライ…ト…と小さな声が耳に響く。
いつも通りの日常にはもう戻れない。
とまった時は前に進むしかないのだから。
はぁ…何だろうな。この感じは。
エレンの涙を見ると胸が締め上げられる。
れん愛を俺は全く経験したことが無い。こ
んなのが…本当に恋なのか?
ガクッと項垂れながらため息をつく。
大嫌いな奴だ。ずっと憎んでいた。
好き勝手に動いて、何度も俺を困らせる。
キスを強要されたこともあった…。
月の光が雲に遮られる。
しかし、エレンの胸には俺が送ったネックレス。
その月は未だ美しかった。
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