第17話 明かされる過去 クレザーノ家の騎士たち

昼食を取り終え、街に入るライト達5人。


「ねぇ、お店には夕飯くらいに行くとして、この街で何か買い物でもしてようよ!」


「良いわね、それ。ライト、私に愛の品物を貢ぎなさい。」


「嫌です。というか無理です。俺、もう殆どお金ない。」


「あら?無駄遣いしてるからよ。私の夫になるのだから日々日頃からお金の管理をきちんとしなさい。」


「誰のせいだと思ってんだよ…。それに夫にはならないからな?」


エレンの胸元で青く光る月を見ながらライトがため息を吐く。


「とりあえず市場に行こうぜ!!」

「そうだな!この前のお礼で何か食材でも買っていこうか!」


ラインとレインの提案に頷き合い、市場へと歩き出す。



市場は賑やかだった。旬の野菜や果物が並び、料理人や冒険者たちが我先にと購入している。


つい先程魚が入ったらしく、セリが行われ、市場に漁師達の声が響き渡っている。


あれこれと迷いながら、楽しみながら市場の品々を見ていく5人。


「お!このアイスクラブなんてどうだ?」


人の顔ほどある青い蟹を指差してラインが言う。


「アイスクラブは死んでも体温が低いから、鮮度も長持ちする。殻で出汁も取れるから汎用性も高い。良いんじゃないか?」


「うん、ウチもそれで良いと思うよ!」


「アイスクラブは味も美味しいわ。そうね、今度、ライトへの料理に使おうかしら。」


「俺への料理に使うのはやめてください。むしろ作らないでください。本当にロクなことがない。」


アイスクラブを購入し、ニーナの店へと歩き出す。


「そういえば、トランさんの奥さんやニーナさんの旦那さんは?この前居なかったよね?」


シオンがライトに尋ねる。


「もう亡くなってるよ。元々、あの店はトランさんの奥さんの店だったんだ。」


「へぇ。じゃあトランさんの奥さんの料理も美味しかったんだろうなぁ。ウチ、食べてみたかったな。」


「俺も実は食べたことないんだ。聞いたところ、結構評判だったらしい。一度食べてみたかったけどな。」


「あ!私、また赤ちゃん抱っこしたいわ!!」


「俺も!!」

「赤ちゃんってホント可愛いよな!癒される!!!」


「もちろん良いわよ♪ライトも喜ぶわ♡」


「「「「「ニーナさん!?」」」」」


背後からの声に驚愕する。


そこに居たのはニーナだった。


「丁度買い出しに来てたのよ!チラッと見えたからもしかしてと思って!」


「急に走り出してどうしたんじゃニーナよ。お!ライトくんたちじゃないか!先日ぶりだな!またこの街に来たのか?」


トランが肥えたお腹を揺らしながら走ってくる。彼の腕の中には赤ちゃんがいた。


「ふぁ、ふぁは」


赤ちゃんがニコニコしながらライトへと手を伸ばす。

ライトが赤ちゃんの掌に人差し指をつけると、嬉しそうにそれを握った。


「きゃは!はうあー!」


「あらあら?ライトくんにすっかり懐いたわね〜。よかったね〜ライトお兄ちゃんなら構ってもらえて!」


「はうあ!!」


母親の言葉に反応する赤ちゃん。

親娘の微笑ましい会話に、場の空気が和む。


——が


「おい!居たぞ!アイツだ!」


急に大きな声が辺りに響き渡る。

声のした方を見ると十数人の騎士達が駆け寄って来て、ライト達の周りを取り囲む。

格好からして、王室の騎士ではない。


「ニーナ=ターキンスだな?」


困惑するライト達に騎士たちのリーダー格の人物が言い放つ。耳だけでなく唇にもピアスをしており、騎士らしくない顔立ちだ。


「えぇ、私がそうですけど…」


ニーナが不思議そうに答える。


「我々と共に来てもらおう。その赤ん坊と老人も一緒にな。」


そう言うとニーナに近づく騎士。


「ちょっと待てよ。いくらなんでも強引すぎるだろ。理由を話せよ。」


すぐさまライトが木刀を抜きながら間に入る。


「貴様には関係ないことだ。どけ。」


イライラを隠そうともせず、言い放つ騎士。


「ふぎゃぁぁぁあ」


辺りの様子を察してか、泣き出す赤ちゃん。


「なら、ちゃんとニーナさん達に説明しろよ。意味わかんないぞ?」


殺気を丸出しにしながらライトが騎士を睨む。


「ふん。そんなこと我々も知らない。クレザーノ家の方達の命令に従っているだけだ。」


そう言うと騎士は一枚の紙をライト達に見せつける。


たしかにクレザーノ家から騎士たちへの命令状だった。


クレザーノ家と言う言葉にエレンがビクッと肩を震わせる。


「分かったらとっととその女をこちらに寄越せ。俺たちは忙しいんだ。」


強引に近付こうとするも——


「だから用件を言えよ。」


無論、それを許すライトではない。

戦闘態勢に入り、威嚇すると同時に周囲の騎士達の様子を見る。


全員視線はニーナに集中し、ソワソワしていた。


(…そういうことかよ、コイツら。ニーナさんを今すぐにでも襲いたくてウズウズしてるじゃないか。)


舌打ちをするライト。


(クレザーノ家が用事があるのは本当だろうが、このままニーナさんたちを渡す訳にはいかない。どうするか…)


「お前たち、クレザーノ家にニーナさんを届けるだよな?どうやって届けるんだ?」


「ハッ。馬車に決まってるだろ。すぐそこに数台止めてある。」


(移動しながら襲う気か。腐ってやがるな。本当にコイツら騎士か?)


「なら、俺たちが送り届けよう。丁度、俺らも馬車できているところだ。」


「え!ちょ、ライト!?!?」


エレンが声を上げる。が、ライトは任せろとばかりに視線を移す。


「な!!そんなこと!ゆ、許されると思っているのか!!俺たちの楽しみ…俺たちの任務を邪魔するな!!」


明らかに動揺し、怒り立つ騎士たち。


「何が問題なんだ?俺たちの馬車で送り届けようって言ってるんだ。むしろ、監視しなくてすむだろ?」


「お、お前たちが逃げるかもしれないだろ!」


「なら俺たちの馬車を囲んで移動したら良い。馬車ごと移動した方が楽だろ。」


「ふざけるな!とっととその女をこちらに渡せ!!」


遂に痺れを切らし、ニーナに詰め寄るが、


「コッチのセリフだ。エセ騎士。」


ライトの木刀が眼前の騎士の顎下にヒットし、大きく吹き飛ばす。そのまま地面に叩きつけられ、白目を剥いて気絶した。


「「「……っ!?!?」」」


周囲の騎士達も殺気立ち、剣を抜くが、


「…あ?」


ライトの剣幕の前に萎縮してしまう。


「…なら、これならどうだ?王都までは俺たちが運ぼう。そこからはお前らに任せる。」


「お、おい!ライト」

「ちょ!?ライト!?」

「な、何言ってるんだ!?明らかにコイツら…」


(安心しろ。策はある。…多少強引だけどな。)


声を荒げる友人達を制止し、ライトはボソッと呟く。


「……チッ…。いいだろう。分かった。」


騎士の1人が不満そうに頷く。


「決定だ。すぐに王国へ向かおう。ここからなら半日もあれば着くだろう。…トランさん、ニーナさん、俺たちと一緒に来てくれますか?」


ニーナ達へと向き直るライト。


「えぇ。事情はよくわかりませんが、ついていきましょう。」


「うむ。ワシも君に従うわい。」


「ありがとうございます。…ライン、レインは馬車を持ってきてくれないか?俺がこの場を離れる訳にはいかないようだ。」


騎士達を睨みながらライトが言う。


「「分かった。」」


2人はそう言うと馬車の方へと走っていった。

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