第16話 明かされる過去 昼食

フロン帝国で入浴や食事を済ませ、馬車の中で一泊。馬車に乗って王国へと移動していた。


「もうすぐニーナさんたちの村に着くね。んで。今夜の宿だけど…「馬車で寝よう」


シオンの言葉を遮るライト。


(宿なんかに泊まったら俺の貞操、危機に晒されまくりだわ!)


それこそ腹ぺこな肉食獣の前にウサギがノコノコと行く様な物だ。


ライトはそんなことを想像し、少し青ざめる


「…まぁそう言うと思ってたよ」


苦笑するシオン。

エレンは少し頬を膨らませている。


「とりあえず、ニーナさんたちの料理を食べるのは夜にしよ?流石にお客さんの前ではこの前みたいなのはないでしょ。2回もご馳走になるわけにいかないからね。昼ごはんにしようか?」


馬車が走っているのは草原の道。東には森がある。前方には街が見えるが、このまま進むとなると少々時間がかかり、お昼ご飯はかなり遅くなるだろう。


「なら、あの森で採ってくるか?川でもあれば魚が食べられるぞ?」


森を指差し、他4人に尋ねるライト。


「そうね。ここは冒険者経験のあるライトに任せよっか。ラインとレインはライトと一緒にご飯採って来て。ウチが料理するよ。」


年長のシオンがテキパキと指示を出す。


「「「了解」」」


そう言うと男3人は馬車を止め、近くの森へと入っていった。


「シオン?私は?」


取り残されたにも関わらず、何も指示されなかったエレン。


「えっと…エレンちゃんには…」


シオンは目を逸らす。


先日のお弁当の様に、エレンの料理には少々不安がある。かといってライトと一緒に森に行かせれば何をするか分からない。


自分がエレンの暴走を止められるか?

否。絶対無理。


故にシオンが取った行動は…


「エ、エレンちゃんは、を作って欲しいんさ!ほ、ほら!ライトはエレンちゃんのご飯が1番食べたがってるだろうし!!美味しいから毎日食べたいって言ってたよ!!」


ライトを生贄に捧げた。


「え!そ、そうなの!!な、なら仕方ないわね!ライトの分は私が作ってあげるわ!!」


上機嫌に鼻歌を歌いながら調理道具を馬車から運び出すエレン。


(良かった…エレンちゃんチョロくて。)


シオンの心にはライトへの謝罪は一つもなく、安堵だけだった。



一方森で——


「…なんか猛烈に寒気がして来た。」


「おいおい?へ、変なこと言うなよ?」

「お、お前にそれだけ言わせる様なヤバい奴がここら辺に居るのか…?」


「いや、これ日々慣れてる様な感じがする…っていうか、そんなヤバい奴ならむしろ1番近くに居るけどな」


木の実を取りながら悪寒がするライト。


「…?お、釣れたぞ!」

「こっちもだ、兄貴!」


大きな魚を2匹釣り上げる双子。

2匹の魚は鱗が草の葉の様な形をしている。


「お、それはリーフフィッシュ!中身は食用、皮は薬草に使われる魚だ!味は酸味があって美味しいぞ?」


地面に薬草や木の実を置きながらライトが説明する。


「そうなのか!やったな兄貴!」

「ライトも木の実結構採れてるな!大量だ!」


山盛りに積まれた食材を見て


(まぁこれだけあれば充分だろう。…シオンと2人ならエレンも変なことをしないだろう。うん、しないでくれ頼む。)


盛大なフラグを立てるライト。


「あんまり待たせると申し訳ない。採り過ぎても食べられないし、このくらいでもう帰ろう。」


3人は持ってきた皮の袋に食材を入れて、シオン達の元へ戻る。



「ウフフ♪早く来ないかしら♪ライト♡」


料理をしたくて仕方ない悪魔(ライトにのみ)が待っていると知らずに——







「「「「「ご馳走様でした(…)」」」」」


満足そうにお腹をさする4人と、

疲れ切った表情のライト。


「ウフフ♪ライトと一緒に料理できたわ。これはもう夫婦ね♡」


上機嫌のエレン。


食材を届けた後、シオンに裏切られたと悟ったライトは、エレンの暴走を止めるべく、自身も料理に関わった。その結果——


「待て!エレン!それはなんだ!?」


「常販より100の塩よ?疲れてるだろうから疲労回復に塩分取らないと…」


「取り過ぎるわボケぇぇぇ!!」



「エレン!それはなんだ!?」


「決まってるじゃない?媚薬よ媚薬。」


「堂々と料理に使おうとするなぁぁぁ!!」


濃度操作、異物混入、魔術使用…etc

普通料理には行わない様なことを平然とやりまくるエレン。


様々な苦難が待ち受けていた。


「あぁ…これほどご飯が尊いなんて初めて感じた…」


「あら?嬉しいわね。そこまで言うならこれからは毎日作ってあげてもいいわよ!」


髪の毛を弄りながら言われる地獄の提案。


「全力でお断り致します。」


(…ゴメンライト。)


シオンが今日初めて心の中でライトに謝罪した瞬間だった。

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