第10話 監視
「ねぇ、ライト♡…」
顔を赤くして、目の焦点が合ってないエレンが、服を脱ぎながらライトに迫る。
宿のベッドの上、エレンがライトを押し倒している状態だ。
(……勘弁してください…。)
服がはだけ、視界に入る絶世の美少女の綺麗な白い肌が、ライトの本能を刺激する。
それだけではない。エレンが動くたび、揺れる形の整った大きな双丘。
ライトとエレンの肌が重なり合う。
(コレはマシュマロ、コレはマシュマロ、コレはマシュマロ、ただの大きなマシュマロ、ただの二つのマシュマロ、マシュマロ…)
目のやりように困ったライトが天井を見上げ、自分の精神を保つべく暗示の如く唱える。
「はぁ…はぁ…ライト♡」
エレンは完全に発情していた。
遡る事数分前——
エレンとライトは宿の部屋に戻った。
元々、1人用の部屋であったため、ベッドは一つしかなかった。
無論、ライトは一緒に寝るつもりなど毛頭なかった。近くにいて寝るだけでいいと思っていたが…
「何してるの?」
床に毛布を敷いていたライトにエレンが尋ねる。
「…何って、床で寝るから毛布敷こうと思って…」
「何で?ベッドで寝なさいよ。」
「え、じゃあお前どこで寝るの?」
「ベッドに決まってるでしょ?変なこと言ってないで一緒にベッドで寝るわよ。」
さぞも当然の様にエレンが言う。
「分かったらさっさと私を抱きしめなさい」
「おやすみなさい。」
ライトはそんなエレンを無視して毛布に包まり、目を瞑る。
「…そうくると思ったわよ。」
こめかみに青筋を浮かべたエレンが眼前で寝ようとするライトを見て呟く。
「でも、私にも私のプライドってものがあるのよ?このまま別々に寝るなんて許さないわ。」
「お前のプライドなんて、俺の中ではとうの昔に粉々に砕け散ってるけどな。」
日々の生活で常に振り回されているライトからすれば、空回りしまくっているエレンの「自尊心」など無いに等しい。
むしろ、なり振り構わず襲い掛かられていると思っていた。
かちん。
ライトの言葉にエレンの何かが吹っ切れる。
「へぇ?言ってくれるじゃない?」
怪しい笑みを浮かべ、バッグからピンク色の液体の入った瓶を取り出す。
「…一応聞くが、何だそれ?」
冷や汗をかきながらライトがエレンに尋ねる。まぁ、あらかた予想はついているが…。
「決まってるでしょ?媚薬よ。それも即効性の超強力なね?」
お母様の目を盗んで手に入れるの大変だったわ、と呟きながらエレンは瓶の蓋を開けた。
「…落ち着け。話せば分かる。」
瞬時に状況を理解し、毛布から跳ね起きたライトが媚薬の瓶を取り上げようとエレンに詰め寄る。
「話せば分かる…?貴方がそれほど容易に攻略可能なら私だって苦労しないわよ。」
エレンがライトを睨む。
「むしろ苦労してんの俺の方だろ…」
料理、逃亡劇、権力、金欠、etc…
エレンによって引き起こされた数々の出来事を思い出し、ライトがため息を吐く。
「さあ、さっさとコレを飲みなさい。」
ドヤ顔でライトに媚薬の瓶を差し出す。
「馬鹿なの?お前。」
どこに媚薬を飲めとド直球に言われて飲む奴がいるか。
「飲みなさい。王女の命令よ。そして私に襲いかかりなさい。」
瞳をギラギラさせたエレンが、さらに媚薬の瓶をライトに押し付ける。
「何が『何もしないから』だ。既成事実作る気満々じゃねえか。」
パチン。ライトがエレンにデコピンする。
「痛っ!!…もう許さないわ。しかたない。ライトの気持ちを知るためよ。覚悟しなさい。」
そう言うとエレンは媚薬を口に含む。
ライトは瞬時にエレンがやろうとしていることを理解し、青ざめる。
「待て、落ち着け、早まるな。」
慌てたライトが逃げようとするも、ベッドに押し倒される。
エレンの唇がライトに迫り——
その時、
ドカンッ!!
と窓から大きな音がした。
突然の物音にビクッと体を震わせる2人。
「…何だ?」
ライトが恐る恐る音がした方を見ると、鳥がいた。おそらく、窓にぶつかってしまったのだろう。
「鳥がぶつかっただけだ。」
間一髪。鳥に助けられた。
ふぅ、とため息を吐いてエレンの方を見るが、エレンはベッドの上で何やら俯いていた。
心なしか顔が赤い様な……
ハッとなるライト。
恐る恐るエレンに尋ねる。
「エレンさん?貴女もしかして媚薬…」
エレンが顔を上げる。
彼女の頬は真っ赤に染まっていた。
「飲んじゃった♪」
笑顔で答えると同時にライトに飛びつくエレン。
「ウフフ♪ライトぉ♡」
完全に手遅れだった。
そして現在——
「ウフフ♪私ってぇ、普通の媚薬って効きづらい体質なのよぉ〜?」
パサリ。エレンの服が床に落ちる。
「でもぉ、それはぁ、洗脳とかそういうのがダメなのよぉ。」
パサリ。また一枚エレンの服が床に落ちる。
フラインの事件の際、明らかになった、エレンの体質。
『自身の「脳」から「神経」に対して、阻害する作用が効き辛い。』
要するに、通常の媚薬や麻薬など、脳の働きと神経の働きを阻害したり、また、脳が拒絶する行為を強制するような薬物が効かないということだ。
逆に言えば、普段からエレンがやりたがっていることに対しての作用については人一倍効果が出やすいということであり—
「この媚薬はぁ、『自分が好きな相手に対して発情する』薬なのよぉ〜」
パサリ。さらに一枚、エレンの服が床に落ちる。
(なるほど、だからエレンは俺に媚薬を……
って感心してる場合じゃねぇぇぇっ!!!)
気がつけば目の前の金髪美少女は服を全て脱ぎ終わっていた。
目のやりどころに困り、とりあえず目を瞑るライト。
「プチュッ…チューチュー♡」
突然、ライトの首筋に鈍い痛みがはしる。
エレンがキスをしたのだ。
エレンの吸い付く音が部屋に響く。
「エヘヘ♡コレでライトは私のもの♪」
エレンが唇を離した時には、ライトの首にはクッキリとキスマークが出来ていた。
今度はライトの唇に向かって近付いていき…
「これ以上はアウトだ。寝ろ、発情猫。」
ライトが電撃魔術を使う。
バチッという音と共に、青い雷がエレンを包み込む。
「キャウッッ!!」
変な悲鳴を残し、エレンの意識が刈り取られる。気を失ったエレンを抱きしめるライト。
そして今度は人差し指を窓へと向け——
青い光が闇を一閃する。
ライトの放った《ボルトショット》が窓を貫通し、外にいた鳥の眉間を貫く。
と同時に鳥の姿が灰になって消える。
魔術によって作り出された使役獣だった。
(おそらくエレンを監視していたんだろう。近くに敵がいる可能性が高い。今、俺がコイツの元を離れるのは危険だな。)
昼間のルシファーとの会話が頭によぎる。
エレンを抱きしめながら毛布に包まり辺りを警戒するライト。
使役獣と交信できる範囲は定まっている。
それほど遠い距離ではない。
部屋の場所、位置、人数も敵側に割れている。
攻撃をしかけられたら圧倒的不利な状態。
(第一に警戒すべきなのは、この状況で最も可能性が高い狙撃だ。俺のメンツにかけて、エレンには傷一つ付けさせはしない。)
ライトは自身の木刀を右手に持つ。
そして左腕に魔力を込める。
最悪の場合、いつでもルシファーを召喚出来る様に—。
チクタク…と、時を刻む音が静寂を割く。
長い夜が更けていった。
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