第11話 埋められて行く外堀
「あらあら♪バレちゃいましたね♪」
セレスティア城王妃の部屋にて、マリーが呟きながら通信魔術を解除する。
ただ通信魔術を発動させただけだと、王城からライトたちのところまでは到底届かない。
故に、大量の動物を使役し、それらを中継地点としてライトたちを盗み見…監視していたのだ。
「流石ライトくん。将来が楽しみだわ」
将来の息子になるであろう少年の能力の高さに、嬉しそうに微笑みながら目を開ける。
「…でも、帰ったらエレンにはお仕置きね。」
一転、黒い笑みを浮かべる。
「まさか媚薬を取り入れてるなんて…。一回叱ったから懲りたかと思ってたのに…。どこから手に入れたのかしら。暫く料理は禁止しなくちゃね。」
もし、ライトの料理に媚薬が盛られていたかと思うと…。
「まぁ、エレンも大変よね…あんな状況でも理性を保つ相手だもの…。他のゴミ(男)どもだったら鼻血だして気絶するわよ…。それだけ大切にしてくれてるって考えれば良いんだけど…」
マリーにはライトとエレンは相思相愛だという確信があった。
ライトに自覚などないだろうが。
エレンが本当の意味でライトを落とすのは、まだ先のようだ。
「は〜なんか焦ったいのよねぇ…」
エレンにはちゃんと叱るが、マリーの正直な思いとしては、今回、既成事実でも作ってきて欲しかった。
むしろ作って来たらめちゃくちゃ褒めてた。
(最近エレンへの求婚の数と勢いが増したのよね…)
マリーの悩みの種である。
フラインの一件から、エレンに対してのアプローチ(王室へ)が激しくなった。
おそらく、フラインという最大のライバルが消えたこと、エレンの想い人が平民だということでチャンスがあるとでも思っているのだろう。
(少し早いかもしれないけど、エレンも良い歳なんだし、結婚して彼の御両親に挨拶しに…)
ハッとなってマリーが顔を上げる。
「そうよ!!ライトくんが居ない今がチャンスじゃない!!」
パチンと手を叩いて喜ぶマリー。
「今のうちにライトくんの実家に行って結婚を認めて貰いましょう!!」
とんでもないことを言い出す。
(ウフフ♪ちょっと強引かもしれないけど、両想いなら大丈夫よ♡むしろ感謝されるわ♡)
ライトには何よりも故郷の村の人々を大切にする節がある。よって、周りから囲んでしまえば良い。外堀を埋め尽くして、逃げ道を塞いでおこう。
その上でエレンが内堀を埋めれば良いのだ。
マリーは鼻歌を歌いながら出かける準備をする。
「…確か、彼の村ってここから…」
以前、ニックとロイドと会った際話した出来事を思い出す。
「かなり遠いから馬車になりそうね。護衛は別に要らないけど、この距離だと辛いわね…そうだ!マーリン先生にでも頼みましょう!」
マーリンの転移魔術なら、彼の村まで時間は多くはかからないだろう。
「ウフフ!思い立ったらすぐ実行しなきゃね!!また、フラインみたいな奴が来ると困るし!」
そう言って実の娘の恋を叶えるため、動く(暴走する)王妃だった。
翌朝——
「…結局何も無かったな」
窓から差し込む朝日を見て、
ふぅっと安心のため息を吐くライト。
「…う、うぅん」
丁度エレンも起きたようだ。
目を擦りながら欠伸をする。
と、同時に、エレンの視界には想い人の顔が入る。
「んふふ〜♪」
まだ少し寝ぼけているのだろう。
猫のように顔をライトに擦り付けて甘える。
が、数秒後——
(…あれ?待ってこれ、夢じゃ無い…?)
ライトの服が肌に直接擦り、意識が覚醒してくるエレン。
そして否応でも理解する、自身の「格好」。
一糸纏わぬ姿で想い人に抱きしめられてる状況で——
《ふんぎゃぁぁぁぁぁ》!!
「ぬぐぁぁぁぁぁっっ!!」
あまりの衝撃にライトを風魔術で吹き飛ばす。
ライトはそのまま風に運ばれ、ドガン!と大きな音を立てて背中から壁にぶつかる。
夜通し周囲を警戒し、寝不足のライトには受け身を取る余裕もなく、
「理不尽…過ぎる…だ…ろ…」
そう言うと、そのまま床に倒れ伏した。
「あ、ちょ!ご、ごめんなさい!」
慌ててライトに駆け寄るエレン。
が、ライトは完全に気絶していた。
「だ、大丈夫!?」
怪我を確認するためにライトの上着を脱がす。
と同時にライトの鍛えられた肉体があらわになる。それは彫刻のように綺麗で…
エレンは頬を赤くさせ、とりあえず『怪我をしてないかを確認するために』ライトの腹筋や胸筋をペタペタと触る。
そのとき
「ちょっと!!エレンちゃん!?すごい音聞こえたけど!?!?」
バァンと勢いよくドアが開き、シオンが入ってくる。隣の部屋だったので先程の衝撃音が良く聞こえたのだろう。
「「……。」」
目が合う2人。
シオンは状況を見て固まる。
シオンからではライトが気絶しているのが分からなかった。
シオンの視界に入って来たのは、上裸のライトの上に一糸纏わぬエレンが乗り掛かり、ライトの筋肉を触りまくっている光景。
その様子は明らかにこれから——
ギィ…バタン。
ドアが閉まる。
「……。」
数秒後、何事も無かったかのように、再びエレンがライトの筋肉を触りまくる。
2人の誤解を解く者は…居なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます