第7話 思い出

馬車は進んで行く。


「へぇ!ネイルってこんなに綺麗になるのね!知らなかったわ!」

「でしょ〜?製品によっては魔力込めると色変わるから色んなの試したんだ〜!エレンちゃんにはとっておきを教えたげるよ〜!」

「それはありがたいわ!」


シオンとエレン、女子陣は化粧品の話で盛り上がっている。


一方、男子陣は——


「ぬぉぉぉ!!!ロイヤルストレートフラッシュじゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!」


「「イカサマだぁぁぁぁあ!!!」」


高々に宣言するライトと泣き崩れるラインとレイン。

3人は馬車内で掛けポーカーをしていた。

ドヤ顔で掛けたお金を集めるライト。

現在ライトは36連勝中である。


「くそぉ!暫くキャバクラ通いは控えないとだな…っ!!」

「ちくしょうっ!!大好物の五つ星高級ステーキ、今月はお預けか…」


涙を流すラインとレインだが、


「ふっ…悪いな。俺の生活費を考えると手抜き手加減はできないんだわ。」


掛けたものの大きさが違った。


((男子ってバカね))


シオンと、(ライトの生活費の枯渇問題の元凶である)エレンはジト目でそんな馬鹿3人組を眺めていた。


時刻は流れ、昼、馬車はとある小さな村に着こうとしていた。


「ねぇライト、どこかのお店で昼食にしない?」


「ここら辺、ウチ来たことないんだよね〜。どっかいいお店知らない?馬鹿三人衆。」


「「馬鹿とはなんだ!馬鹿とは!」」


「コイツらのことは悪く言っても俺のことは悪く言わないでくれ。」


ライトはため息を吐くと、


「それに俺はいい店を知ってるぞ。」

「「「「ホント!?!?」」」」


ライトの言葉に驚愕する4人。


「あぁ。少し前冒険者をしていたからな。俺の一推しの店がこの村にある。そこで良いなら案内するが?」


「是非ともお願いするわ。」


エレンの言葉をキッカケに、馬車を止め、村に入る5人。


馬車の馬や業者は魔導人形であり、手動で止めることができ、燃料さえ尽きなければ、休みなしでフロン帝国まで全自動で行くことが可能となっている、高級品である。(ロイド手配)


「こっちだ。」


ライトに着いていく。

進行方向にあったのは、とある料理亭。

行列ができ、賑わっている、村の代表的な料理亭なのだろう。


「結構混んでるわね。」

「まぁ待つか〜、エレンちゃんのダーリンオススメのお店の料理、食べてみたいし〜」

「先輩に同感。兄貴もだろ?」

「おう。美人な看板娘ちゃん居ないかなぁ」


行列に並ぼうとする4人に


「そっちじゃない。こっちだ。」


ライトは手招きし、人気のない方へと歩いていく。

呆気に取られる4人だったが、すぐにライトの元へと走り寄って行った。


そして着いたところは居酒屋。看板には『太陽』と書かれている。

しかし店はまだ準備中で、閉まっているみたいだ。


「…ライト、空いてないみたいだけど?」


「ライト?仕方ないからあっちの店行かない〜?ウチ、お腹減ったよ。」


「あー、多分大丈夫。」


4人にそう言うと扉をノックした。しばらくするとドアが開き、1人の老人が出てきた。


「…悪いんじゃが、店はまだ開いて——」


固まる老人。


「お久しぶりです。トランおじぃさん。ニーナさんはお元気ですか?」


笑顔で挨拶するライト。


「おお!!ライトくん!!久しぶりだね!!さあ、入った入った!!!」


途端、笑顔になり、ライトたち5人を店へと入れる。


呆然とする4人とライトはとある席へと案内されて行った。


「良くきてくれた!ライトくん!最高の料理をご馳走するぞ!久しぶりに腕が鳴るわい。」


そう言って厨房へと入っていく老人。


「…ライト、どういうこと?あの人と知り合いなの?」


「あぁ、そうだ。ここは俺たちの行きつけの場所だったんだ。料理の味は保証するぞ。」


「あら?嬉しいわね!ライトくん!!」


店の奥から赤ちゃんを抱いた茶髪の美しい女性が現れる。

と同時に、呆気に取られていたラインとレインの機嫌が上がる。


「お久しぶりです。ニーナさん、赤ちゃん、無事に産まれたのですね。おめでとうございます。」


「そうなのよ!ありがとね!可愛い女の子が産まれてくれたの!!」


笑ってライトたちに赤ん坊を見せるニーナ。


「この子の名前、『ライト』っていうの。貴方みたいに、明るくて優しい強い子に育って欲しいって思って付けたの!抱っこしてみる?」


「是非!!」


ライトはそう言うと眠っている赤ん坊を手渡される。


赤ん坊はライトの腕の中でスヤスヤと眠っている。


小さくて、暖かい。

かけがえのない命にライトは癒される。


「あらあら。ライトお兄ちゃんに抱っこされて気持ち良いのかしらね?ライト♪」


ニーナは頬に手をあてて微笑んでいる。


「みんなも抱っこしてみる?」


「「「「良いんですか!?」」」」


4人の声がハモる。


「もちろん良いわよ!」


「ほれほれ、ニーナ。そのくらいにして料理を運ぶの手伝ってくれんか?」


丁度その時、料理が運ばれてきた。

肉料理、魚料理、パスタなど、様々な料理がテーブルに並ぶ。


「す、スゴイ。良いんですか?こんなに」


シオンが尋ねる。


「良いんじゃ良いんじゃ。ライトくんには一生かけても返しきれん程の恩があるからの。さあ、冷めないうちに、遠慮せず食べなさい。」


「「「「「頂きます」」」」」


トランの言葉に促されて5人が料理を口に運ぶ


「美味い!!こんなに美味しいの初めて食べた!!」

「兄貴の言う通りだ!いくらでも食べられる!!」

「…え、ヤバ、うま。何これ?こんなに美味しいの?正直甘く見てたわ…。」

「う〜、中々の味ね。ライトが気に入るのも納得だわ…。城のコックより断然美味しい…。」


料理のあまりの美味しさに唖然とする4人。


「トランおじぃさん、すみません、わざわざ店を開いて頂いて。」


「気にするでない!ワシらとしてみれば、恩人に少しでも報いることができて幸せじゃわい!!」


ハッハッハッと豪快に笑うトラン。


「…それより、お主の方は大丈夫なのか?

ついこの間、遂にワシらの所にも来たぞ?」


「…多分。」


曖昧に笑うライト。

その様子にトランとニーナは顔を見合わせた




「美味しかったわ。今度、城に呼びたいくらい。」

「ありがとね!おじぃちゃん!また来る!」

「俺、ステーキ、もう良いかな…」

「同感だレインよ。俺もステーキ食べるくらいならここまで来る…」

「ありがとうございました。機会があればまた来ます。」


手を振り、馬車へと去るライトたち。


「…ライトくん。」


不意にトランに呼び止められ、ライトが振り返る。


「…どうかしました?」


「…いや、何でもない。達者でな。」


「…?はい。トランさんとニーナさんもお元気で。」


キョトンとして首を傾げる。

そして、ライトは仲間たちと肩を並べて歩いていく。


「変わったな。ライトくん。」

「そうね。おじいちゃん。昔はもっと、穏やかで純粋な笑みを浮かべていたわ。」


脳裏に浮かぶのはライトと背の高い男が笑い合う姿。


今のライトは…まるで仮面を被っているようだった。


「…時代のせい、いや、人間のせいかの。」


懐かしい、輝かしい日々が思い出される。

あの頃、毎日作らされていたシュガートーストのように、甘く、美しい日々が。


もう2度と戻ってこない日常が。


「この国はどうなっていくのかの。お前が、お前たちが命懸けで守ったこの国は。のう?ヨルン。」


上を見上げてトランは呟く。


そこには雲一つない青い空が、不気味に、美しく、どこまでも遠くに広がっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る