第6話 devil sugar toast(悪魔のシュガートースト)

ライト、エレン、シオンら「5人」を乗せた馬車はフロン帝国学園祭に向けて出発していた。


「…で、何でお前ら2人が居るんだ?」


ライトはジト目で尋ねる。


「「来たかったからだ!!」」


笑顔で答えるのはラインとレイン。

授業をサボり、馬車の積み荷に隠れて乗り込んでいたのだ。


「…俺たちはお前らみたいに代表の候補にすら選ばれなかった。」

「だが、これから家を継ぐ身として!!他国の情勢と、これからを担うであろう人物を見ない訳にはいかない!!」


拳を握りしめ、熱い言葉で言う双子。


「…で?本音は?」


「「帝国学園には可愛い子が沢山いると評判だからだ!!」」


清々しい返事にライトはため息を吐く。


「ハハハ、面白い双子だね。」


曖昧に笑うシオン。


「「ありがとうございます!先輩!!」


「褒めてねぇよ」


的確なツッコミを入れるライト。


「ねぇ、ライト。やっぱり帰ったほうが良い気がしてきた。うん、帰りましょう。」


先程のラインとレインの話を聞いて焦り出したエレン。


フロン帝国は「貴族」という者が一切なく、国民は「王族」か「平民」で分かれている。王族の統治の元、貧富の差はあるものの、身分としては完全な平等な状態である。

一方、ファマイル王国では身分平等は表面上成り立っているが、学園内を見れば分かるように身分差は存在する。


ライトは格好こそ貧しいが顔は綺麗である。

王立学園では、ライトが「平民」ということから恋敵は居なかったものの、先日の競技大会と、代表選抜練習においてライトの人気は上昇しつつあった。(もちろん、それを知らん顔するエレンでは無いので、その分猛烈にアプローチ(暴走)しているのだが。)


このまま地獄(フロン帝国学園)に行ってしまったら泥棒猫が増えまくる!

エレンはそう危惧したのだ。


「はぁ?何バカな事を言ってんだ。そんなことより、朝食にしようぜ?」


王都セレスティアからフロン帝国までどんなに早く行ったとしても半日は余裕で越える。そのため、早朝に馬車で出発したのだ。

まぁ宿に着くのは夜遅くになりそうだが。


「…分かったわよ。ほら。」


少しムッとするも、エレンはシオンとライトにお弁当箱を渡す。エレンのお手製弁当だ。急遽参加になったラインとレインの分は無かった。


「サンキュー!」

「ありがと!」


(この前の弁当は酷かった。けど、マリー王妃が事情を教えてくれた。それを信じるなら今回は良いはずだ!!)


盛大なフラグを立てるライト。


2人は手渡されたお弁当を開く。

そこにはシュガートーストが入っていた。


「朝から重いのは悪いと思ってね。食べやすくて、糖分摂取のできるシュガートーストにしたわ。」


「「…ありがとう。」」


それを見て何故か暗い表情をするシオンとライト。


「あ!シュガートーストじゃねえか!俺たちの兄貴の大好物なんだよな!!」

「あぁ!兄貴に会いに行った時いつも食べさせられたもんだぜ!」


懐かしい思い出話をする双子。


「どうかしたの?2人とも。」


固まっているライトとシオンにエレンがキョトンとする。


「いや、何でもない。…頂きます。」

「うん、ごめんごめん。頂きます!」


ライトとシオンがトーストを口に運ぶ——が

反応が見事に2つに分かれた。


「ん!甘くて美味しいじゃん!さすが王女様!!」

「………。」


笑顔でエレンを褒めるシオンと青い顔をした無言のライト


「ラ、ライトはどうだったのかしら?」


髪の毛をいじりながらライトに尋ねる。


「…ゴクン。…美味しいよ。」


「よ!良かった!!」


満面の笑みになるエレン。


(((うわ、完全な乙女じゃん。ライト羨ましいわ)))


他3人の思想が重なった。


「…ちなみに聞くがエレン。俺のやつ、『普通の』シュガートーストじゃないな?隠し味か何か入れたのか?」


「あ!やっぱり分かる?そうよ!シュガートーストって甘くするのが結構難しいのよ!トーストに上手く味が染み込まなくて味が薄くなることが多いらしいの。だから、ライトのだけ『特別』に、隠し味っていうわけじゃないけど、使!!」


少しモジモジするもドヤ顔で答えるのエレン

と、エレンの言葉に凍りつく4人。


「そうか…。『すごく甘くて』美味しいよ」


満面の笑みのエレンに、不味いだのおかしいだの文句を言えるはずもなく、乾いた笑みを浮かべるライト。

想い人のその言葉に嬉しくなったエレンは、


「そ、そう!なら私が食べさせてあげるわ!」


頬を赤くして満面の笑みでライトの口にシュガートーストを運び


「あーん♪」


詰め込んでいく。ライトはそれを噛んで飲む。またエレンが詰め込む。噛んで飲む、を繰り返していた。


一見すると恋人の仲睦まじい、羨ましい光景——だが、


(((ライト…頑張れ…。)))


この場においては羨望の眼差しではなく、

憐れみの目がライトに向けられていた


朝から完全に『重たい』物を食べさせられているライトは…


(頼むから普通に作ってくれ……)


悪魔(エレン)に涙目で願った。

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