第5話 金色の向日葵

王都セレスティア城 『星歌の間』に7人の人物が集まっていた。


「これより、円卓会議を行う。」


バーナードの声が響く。


『星歌の間』セレスティア城の中心よりやや上にある、国の最高決定権「円卓会議」を行う時のみ開かれる部屋である。

(円卓会議で会議する議題は様々であるが、通常、円卓会議は「国の最高決定」の場であり、政策、及び重大事件を取り扱うことが多い。)

部屋には、満点の星空と歌う聖女たちを描いた一枚の大きな絵が飾られている。


「今回の議題は5つじゃ。」


そういうと、バーナードは膝をつき、手元の紙に目を向ける。


「まず、新しい1つからやろうか。この前フォルトが「剣聖」を辞めた。新たな「剣聖」はフォルトの息子であるフォルンに託そうと思う。異論はないな?」


バーナードが淡々と告げる。

初代勇者パーティが「魔神ベルゼブブ」を封印させた。その時のパーティで「剣聖」「賢者」を務めていた二名がこの国出身であることから、円卓会議に席を持つようになった。「剣聖」「賢者」はその子孫のみに受け継がれる特殊な職業である。


先代が引退した後、「円卓会議に席を持つ」ためには、王国創立記念日に聖女たちの歌声とともに星から授かるという儀式を行う。


今回、フォルトが引退したため、次回の王国創立記念日まで「剣聖」の席は空席である。


「…ふむ。では、王国創立記念日の際、剣聖就任の儀式を行おう。その方針で行く。

…では、二つ目、王都の税率、及び税の徴収状況だが———」



会議は進んでいく——



「——これで、ラストだ。…まぁ正直いつもと結果は変わっておらんだろうがな。」


バーナードが呟く。


「『金色の向日葵』について、いや、カイト=エスティーについて分かった者はいるか?」


バーナードの問に答えるものはいなかった。


ここ一年ほど円卓会議において常に議題として挙げられている内容。

元王国最強パーティ『金色の向日葵』。

たった2人の構成員で成り立つが、短期間で数えきれないほどの超難易度クエストをこなし、発足から数ヶ月で王国内はおろか、ほぼ全ての国から『最強』と呼ばれた実力派パーティ。しかし、パーティのランク昇格申請は一回もせず、結果と成果のみをギルドに提出する異常なパーティとしても知られている。また、人前では常に仮面をつけていた為、『仮面の兄弟』とも呼ばれていた。

そして今からおよそ1年ほど前、彼らは魔神ベルゼブブを撃破することに成功したが、その際、たった1人の犠牲者が出た。ヨルン=ハルザーノ、『金色の向日葵』のパーティリーダーである。

ヨルン=ハルザーノは王国を命と引き換えに守った英雄として讃えられた。

リーダーが戦死したことにより、パーティは解散となったが、残り一名、カイト=エスティーは行方がわからなかった。


「…やはりか。まぁ仕方ない。ギルドでの彼の登録情報は必要最低限、名前と血判しかないからな。」


バーナードがため息を吐く。


カイト=エスティー

『金色の向日葵』メンバーの一員。

常に仮面をつけていたため、彼の素顔は分かっていない。しかし、リーダーであるヨルンが死亡した際、ヨルンの顔と身元が判明し、それを元に探しているが、未だ一向に事態は進んでいない。更に、ギルドでの彼の更新期限は過ぎてしまい、データは削除されてしまった。


「もう、彼のことはいいでしょう。これほどの捜索と呼び掛けに応じないということは彼は既に死んでいる可能性が高い。このような事に時間を割いてる暇はないでしょう。」


顎髭を触りながら1人の眼鏡をかけた白髪の老人が言う。


彼の名前はケルヴィン=クレザーノ。


現クレザーノ家当主である。


そんな彼の様子に現賢者のマーリンは舌打ちをする。


(…チッ。腹黒タヌキジジィめ。これ以上捜索が活発になって、自分が見つける前にカイトを見つけられるのを防ぐ為だろうが。)


現在、国を救った、いや、人類を救った英雄の1人、カイト=エスティーは王国だけでなく、貴族たち個人での捜索が続いている状態である。莫大な懸賞金がかけられて。


『金色の向日葵』の実力と実績は人類全体が知っていると言っても過言ではない。故に、国が見つかる前に個人で彼を見つけ、家に取り込むことができたら。

カイトが英雄扱いされると同時に自身の家の権力、勢力は跳ね上がる。

以前、勇者パーティが魔神を「封印した」だけで円卓会議の席が貰えたのに対し、金色の向日葵は魔神を文字通り「消滅させた」のである。そんなメンバーのうち1人を家が所有しているとしたら、円卓会議に席を持つことは確実だろう。

また、現在席を持つ第一公爵家が彼を家に取り込んだとしたら。

円卓会議での発言権及び民衆の支持は大幅に増加する。


故に、貴族たちはカイトを血眼で探している——が、現在全く足取りが掴めないのが状況だ。


偽物ですら網に掛からない。

皆知っているからだ。「ベルゼブブを倒す」その重大さを。その実力を。

下手に名乗り出ても処分されるのがオチだ。


「既にどこかの家が見つけ、所有している可能性もありますなぁ。」


長い白髪の髪の老人が言う。


彼の名前はロギン=フェルマー。

ロイドの実父であり、現フェルマー家当主である。


そして『これ』こそクレザーノ家が王国を支配する為に、まだ動けない理由である。


『カイト=エスティーが既に他の家の手に渡っている。』


敵側には、人類全体から崇拝される英雄が切り札として残っていると考えると、

強引に事を進めようとすれば返り討ちに合う可能性が高い。

故に英雄の行方を確信しなければならない。


「ともあれ、行方が分からぬならどうしようも無い。引き続き捜索を続行しよう。それで良いな?」


バーナードの言葉に場が静まり返る。


「うむ。以上で円卓会議を終結とする。」


国王の凛とした声が響き渡った。

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