第4話 シオンの後悔

「ウチね、好きな人が居るんだ。正確には『いた』になるけど。」


悲しそうな笑みを浮かべる。


「小さな時からずっと一緒に遊んでたんだ。所謂幼馴染ってやつでさ。気がつけば恋人になってた。誰よりも強くて、明るくて、優しくて…そんなアイツがウチはずっと好きだった。」


空を見上げるシオン。

日は既に沈み、夜空が広がっている。


「そんなある日、アイツは家を継ぐために、色んな経験を積むため冒険者として出て行った。帰ってきたら結婚しようって約束してさ。…けどウチはそれを裏切った。」


「どういうこと?」


エレンが尋ねる。

ライトは何故か暗い表情をして俯いている。


「…浮気したんだよ。」


その言葉にエレンが押し黙る。


「ハハ…。軽蔑されちゃったね。ウチもあの時の自分が本当に憎いよ。殺したいくらい…。相手はウチの親の知り合いの子供だった。アイツがいなくなって寂しくて仕方なかった私をいつも励ましてくれた。それで、ウチはどんどん惹かれていっちゃったんだ。」


「「……。」」


2人は無言。


「浮気相手とは一緒に何度もデートした。キスとかそういうのは無かったけど、そんなの関係ないよね。けど、あの日、浮気相手とデートした帰りに偶々、彼が帰ってきちゃってて会っちゃったの。」


「…修羅場になるわね。それは。」


「別に、ならなかったよ。彼、ウチと浮気相手を見た瞬間、どっか行っちゃったから。けど、あの日一瞬見た彼の顔が今でも忘れられない。…あんなに明るかった彼の表情が…この世の終わりみたいに暗くなるのを見て、ウチは自分が何をしたか理解した。彼はウチをずっと想ってくれてたのに、ウチは…私は…」


シオンは目に涙を浮かべる。


「凄く後悔した。自分が一番何を、誰を大切にしているか理解した。浮気相手は親に頼んでウチに今後関わらない様にしてもらった。けど、そんな程度で許されるはずがなかった。

もう一度彼の家に行っても、会わせてくれなかった…。何度頼んでも。まぁ、その時、既に彼はまたダンジョンへ向かっちゃったんだけどね。」


「…それからどうしたの?」


「ずっと待ってたよ。彼を。けど、彼とは2度と会えなかった。」


「どういうこと?」


「魔界で戦死したんだよ。魔神ベルゼブブとの戦いの末ね。」


ハッと息を呑むエレン。


「まさか、貴女の幼馴染ってあの、『金色の向日葵』の…。」


「王女様ならやっぱり知ってるよね。…そうだよ。希代の英雄、ヨルン=ハルザーノだよ。」


「……」


再び押し黙るエレン。

そんな様子にシオンは苦笑する。


「ホントバカだよね。ウチ。あんなに良い人を裏切って。

…謝りたかった。許されるならもう一度、彼とやり直したかった。彼の隣でウェディングドレスを着たかった…。けど、それはもう叶わなくなった。」


涙が絶え間なく頬をつたる。


「国を救った、人類を救った英雄ってされて…、彼とはもう言葉でしか会えなくなった。ウチが最後に…最後に見せたのがあんな様子で。ウチが最後に、最後に見た彼の表情があんなにも、悲しみに暮れた顔で…。」


シオンの泣き声が響く。


「国なんて救わなくて良かった。名誉なんていらなかった。ウチには、彼さえいれば良かった。もう一度、もう一度彼と会いたかった…。ずっとずっと後悔してる。

 …そんな時なんだよね。ライト、君と出会ったの。」


シオンはライトに話しかけるもライトは俯いたままだ。


「君と彼の性格、凄く似ててさ。君と喋った時、彼と喋ってる様な感じがした。とっても暖かい気持ちになったんだ。」


シオンは悲しそうな笑みを浮かべる。


「だから私たちに話したってこと?」


「そうだね。気分を悪くしてごめん。」


目を逸らすシオン。


「…本当よ。帰りに何か食べたかったのに。食欲無くなったじゃない。」


「…ゴメン」


「けど、怒るに怒れない話だったわ。私にも関係あるし、正直、私のせいでもあるし。」


「…エレン、お前のせいじゃねぇよ。」


今まで黙っていたライトが口を開く。


「とりあえず、この話は忘れてもう解散しよう。このまま辛気臭い状態、俺には耐えられない。明日もこんな様子なら承知しない。」


そういうとライトは駆け足で去っていく。


散り散りになる3人。


ふとライトは立ち止まる。


「…すまない」


ライトがポツリと呟いた言葉は、夜の闇へと飲まれていった。

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