第3話 選抜練習授業

学園内訓練場にて——


「はぁぁぁ!!!」

「甘いよっ!!エレンちゃん!!」


エレンの出した吹雪を錬金術で作った壁で防ぐシオン。


「ならっ!!!」


今度は凄まじい炎の砲弾を撃ち放つ。


「…やべっ!」


シオンは先程の壁を水に変え、相殺する。

高熱の水蒸気が全体を覆う。


「今度はこっちの番!!」


シオンが地面に手をつく。と同時にエレンの周りの地面が隆起し、エレンへと肉薄する。


「…はっ!!」


エレンを中心とした爆発が起こり、それを消しとばす。


「まだまだ行くよ!!エレンちゃん!!」


2人の攻防は続いていく。


「やはり、あの2人はやりますね。実力はほぼ互角、僅かに、経験でシオンさんが上ですかね。」


「ふぅむ。そうじゃの。魔力量や基礎体力はエレンくんが上、しかし、技の多彩性や応用力でシオンくんが勝っておるな。」


ニックとロイドが話し合う。


現在、フロン帝国学園との決闘戦に向けての選抜特別訓練中である。

個々の技を磨くのはもちろんのこと、実戦形式も多く取り入れた形となっている。そのため、実力が近い者同士での一騎討ちをしている——が、他の生徒は離れた位置から見学しているだけだ。


「…正直に申し上げますけど、今年は選手に悩む必要は無いですね。」


「そうじゃの。『あの3人』で決定じゃろう。」


そう言うと眼前で行われている闘いを見る。


エレン=ルイ=ファマイル

職業 万物の姫

魔力適正 全属性

エレンを天才たらしめる理由。

魔力適正は自身が魔術を使う際、最も高威力、高効率で出せる所謂相性というものだ。通常、魔力適正は一個人一つ。ちなみにライトは『闇』だ。

それが、『全属性』。つまりエレンは自身の不得手なく、全魔術を自身の最高の威力で出せる。


一方—

シオン=サーバル

職業 変化士

魔力適正 金、水、火

変化士とは、錬金術師の上位互換。国に1人居るか居ないかの希少職業だ。

通常、錬金術師は物体を金属に変える。

しかし、変化士は物体を金属に留まらず、色々な物へと変化させる。

よって、常人よりも魔力適正が多い傾向にあたる。個々の技の威力には直接は響かないが、応用力が多彩な強力な職業である。



他の生徒たちはそんな天才2人の闘いを見て唖然としている——わけではなかった。


問題なのは3人のうちの『もう1人』の方。


シオンとエレンの戦場よりやや離れたところで——


「ライト!!ワシの動きのみを目で追うな!!視野が狭まる!!『空間』自体をみるんだ!!」


「はい師匠!!」


「うむ!一つに集中するからこそ虚をつかれた際、対応が遅れる。その事を常に噛み締めろ!!」


「なるほど!!!」


木刀で斬り合うライトとフォルト。

2人とも表情は明るく、顔と会話のみを側からみれば戯れているように見える——が

互いに肉体強化魔術は使用していないにも関わらず、剣がぶつかる毎に響く衝撃音、踏み込んだ途端に陥没する地面、剣の衝撃波で切り崩れる木々。


2人の中に入れる者はこの場には居なかった。


「…アンタのダーリン、ホントにやばいね。剣聖と互角にやり合ってるよ…」


電撃を躱しながらシオンが呟く。


「私も初めて見た時驚いたわ。あそこまで強いなんて思わなかった。」


自身へと迫る鉄の棘を焼きながらエレンが答える。


「まぁ、人のこと言ってる場合じゃないか。ウチらも頑張らないとね♪」


巨大なゴーレムがエレンに襲いかかる。


「そうね。私も王女として負けてられないわ。」


ゴーレムの胴体に風穴を開けながらエレンが呟いた。





「ライトくん、エレンさん、シオンさん。」


訓練が終わり、帰ろうとしたところをロイドに呼ばれるライト達。


「ロイド先生。どうかしました?」


「実は明後日、フロン帝国学園競技祭が行われます。君たちには是非観に行って欲しいんです。もちろん、費用はこちらで持ちます。」


「要するに、敵情視察ってことね。」


「ウチは別に良いよ〜。どうせ暇だし。」


「…俺も大丈夫です。」


「それは良かったです。明日、詳細をプリントにして渡します。明日、明後日の訓練はあなた方は休みということで。では。」


ロイドは嬉しそうに頷き、去っていった。


「さて、俺たちも帰ろうか。」


「そうね。」


ライトとエレンは並んで歩き始めた。

フラインの一件以来、ライトはエレンを護衛としてセレスティア城門まで送り迎えをしていた。


決して好きな人が心配だからとか、一緒に登下校したいからとかいう理由じゃない。


と、以前ライン、レインが問い詰めた際、ライトは言っていた。


「あ!2人とも待ってよ!ウチも混ぜて〜」


そう言って走ってくるシオン。

機嫌の悪くなったエレンがシオンを睨む。


「そんな怖い目しないでよエレンちゃん。大丈夫。別にアンタのダーリン取って食おうって思ってるわけじゃ無いから♪」


「ダーリンじゃないけどな?」


「…ただ、安心するんだよ。一緒にいてさ。ウチの好きな人に似てるから。ライト」


シオンが悲しそうな表情をする。


「「……?」」


エレンとライトは顔を見合わせてキョトンとする。


「…少し昔話しても良い?気持ち良い話じゃ無いし、むしろウチのこと軽蔑すると思うけどさ。」



そう言ってシオンは語り出した。

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