第2話 学園代表

「ライト=ファーベル殿。

貴殿をフロン帝国との決闘戦の出場選手候補に任命する。今日の放課後、会議室に来るように。


…だそうだ。」


朝のホームルームが終わり、授業教室へと向かおうとしていたライトにレナードが告げる


「フロン帝国との決闘戦…?」


ライトは首を傾げる。


「あら?知らないの?学園対抗の決闘戦よ。毎年やっているわ。今回は観戦可能なのは生徒職員のみ。一般での観戦は禁止されてるわ。」


ライトの右手にペンを掴ませながらエレンが答える。


「うん、教えてくれてありがとう。とりあえず無理矢理サインさせようとするのやめようか?」


「嫌よ。」


そっぽ向くエレン。


「それにこれは雇用契約書じゃないわ。よく見なさい。」


そう言われてエレンの持っている紙を見る。


「生徒会選挙?」


「そ。私は立候補するから、ライトにも署名をって思ってね。別に補佐を要求してるわけじゃないわ。他の人も書いてあるし、いいでしょ?」


確かに、紙には数十人程の生徒の名前が書かれている。おそらくエレンのクラスの署名だろう。

毎年、学園対抗戦の前に生徒会が新しく発生する。生徒会に立候補するには一定数の署名と演説補佐官が必要だ。

まぁ、エレンの人気なら確実に当選するだろう。


「まぁ…それくらいなら…。」


ライトはそう言うとペンを取り、名前を書こうとする——も


じぃぃぃぃぃぃぃ


「………エレンさん?何故そんなに見てるんですか?」


「何でもないわ。さっさと書きなさい。」


怪しい。とりあえず怪しい。


そう思うと同時に、紙質に違和感を感じる。


「…まさか」


とある予感がして、ライトは解除魔術を発動する。


スゥゥゥゥゥゥ


案の定文字が消えていく。そして、新たに浮かび上がった文字は—


「…チッ。」


——見る前にエレンの炎魔術によって紙は跡形もなく燃やされる。


「私は生徒会に立候補するわ。まぁ私なら補佐なしでも受かったも同然だけど、」


「おい?なんで何事もないように話始めるんだ???」


「ライトを補佐官に任命してあげるわ。私が受かったあかつきには、ライトも『正式に』生徒会メンバーとして迎え入れてあげる。」


「全力で拒否します」


どこが『正式に』だ。選挙なしで生徒会メンバーに入れる時点で職権乱用だろうが…。


「まぁ、もう私が立候補者、貴方が私の従者として申請済みだから。」


「補佐官じゃなかったっけ?」


面倒臭いこの上ない—が、申請した以上、

もう既に手遅れであるためライトは突っ込まなかった。


そんなライトの様子に近くにいたラインとレインは


(おい、兄貴!これ、完全にアレだよな?)

(あぁ。惚れた弱みって事で拒否できないアレだよな?)


コソコソとそんなことを話すのであった。





時は流れ、放課後——


ライトとエレンは会議室に呼ばれていた。

他にも生徒たちが居る。その数ざっと20人程度。一期生はライトとエレンとあと3人ほどだ。


「よく来てくれましたね。みなさん。」


ロイドが話しかける。


「ここに集まってもらった理由は事前に話した通りです。2ヶ月後に迫ったフロン帝国代表選手との決闘戦のメンバーを決めるためです。」


そう言うとチラッとライトの方を見る。

不思議に思うライト。


「ハッキリ言いますが今のままでは勝つことは不可能でしょう。」


どよめきの声が上がる。


「聞き捨てならないわね。」


エレンが怒気を含んだ声で言い放つ。


「私のライトが負けるとでも言いたいの?」


「お前のじゃねぇけどな?」


的確なツッコミを入れるライト。


「えぇ。正直なところ、私の予想では『彼』とライトくんの実力は五分五分だと思っています。故に、ライトくん1人では勝てない。」


「それなら問題ないわ。私とライトの愛の力でどうにかなるもの。」


「まず、愛があればの話だけどな?」


的確なツッコミを入れるライト。


「あと、お前そろそろ俺の膝の上から降りろ。」


エレンは会議が始まってからというもの、ずっとライトの膝の上に乗っていた。

そのため、ライトは会議室内の男たちの嫉妬と殺意の目線を常に感じていた。


「嫌。」


案の定拒否される。


エレンとしては、ここ最近ライトに逃げられっぱなしで甘えられなかった。かといってクラスが違うので授業の時にくっつくわけにはいかない。そんなときにやっと巡ってきたチャンスだ。イチャイチャしないはずがない。


ライトは最後の頼みの綱であるロイドに助けを求める目線を送る—も


「…とりあえず話を進めていいでしょうか?」


見捨てられた。


「「はい♪(…)」」


言葉は同じでも機嫌が正反対の返事をする2人


「フロン帝国との決闘戦は2年連続で敗北しています。その原因となるのは…、敵のキングである、アラン=レオンハートです。」


「ハッ!アランなんか俺とザルードの敵じゃねえよ。去年だってアランは俺たちの攻撃に押されっぱなしだったろ!」


金髪のピアスをした男子生徒ジョン=ドルダーが言う。S3クラスの代表の1人だった男だ。


「そうっすよ!ね、ジョン先輩!俺らとエレン様がいれば負けないっす!!」


赤髪の男子生徒ザルード=コードルが続く。


「なぁに弱い奴が出しゃばってんだよ、ザコルード。本戦でウチの足引っ張りまくったのまだ自覚してないわけ?」


茶髪でボブの髪型をしたギャル風美少女、シオン=サーバルが言う。


「う、うるせぇ!アレは偶々…」


「まっ!どーでもいいけど。ウチ的には、エレンちゃんとライトくんとウチの3人で決定でいいと思うんだけどぉ?」


「おいテメェ?俺よりもテメェらの方が強いって言いたいのか?」


その発言が気に食わなかったらしい。

ジョンがシオンに食いつく—も、


「当たり前っしょ。せーんぱい♪」


平然と返され、こめかみに青筋が浮かび上がる。


「おいおいおい?格好だけでなく、頭もおかしくなったか?この学園でトップの実力者の俺を相手に…」


「それフラインが居なくなったからっしょ。それに、フラインがいてもいなくてもアンタがトップなわけないから。何威張ってんの?わーカッコいいー(棒)」


「テメェ、死にたいようだな?殺して犯して殺してやるよ。」


「殺す2回入ってるよ〜?頭おかしいのはアンタの方じゃね〜?」


「テメェッ!!」


ジョンが殴りかかるも——


「…はいはいそこまで。」


ライトが間に入り、右腕でジョンの腕を掴む。ちなみにエレンは抱きついたままだ。


「面倒臭いこと起こすなよ本当に。とっとと終わらせて帰りたいんだよ俺は。」


そう言うとシオンの方を見る。

彼女は「へぇ…」と笑っている。


「…テメェはライトだな?割り込むじゃねえよ。殺すぞ?あんときの様になると思ったら大間違い—」


「あんとき?どのときだよ?てかお前誰?」


キョトンとしてライトが尋ねる。


沈黙が場を包み込む。


「あれ?覚えてない?この人、決勝戦でアンタにふっとばされた人だよ〜?」


シオンがライトに伝える。


「なるほど!『フラインしか見てなく』て、他の2人『邪魔で鬱陶しかった』としか覚えてなかったわ。」


「「「「「ブフッ!!」」」」」


ライトの発言に教室内の生徒たちが吹き出す。


ジョンは顔を真っ赤にして歪ませている。


「…ライト=ファーベル…。」


「なんだ?先輩」


「しねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」


そう言って魔術を放とうとして、


「うるせぇ。」


ライトの蹴りを顔面に喰らい、吹っ飛んでいった。


「わぁ。ホントに強いんだね。ウチ、決勝、君が無双し始めてからつまんなくてどっか行っちゃったんだよね〜。何か一悶着あったらしいじゃん?面白そうだからいればよかった〜。あ、お礼が先だね!ありがと!助けてくれなかったら今頃どうなってたか—」


満面の笑みでライトに詰め寄る—が


「嘘つけよ。俺が止めに入ったのは、むしろ逆だ。あのままじゃ、先輩の方が大怪我負うからな。」


「…へぇ。そこまで分かるんだ。」


一転。

目を細め、怪しい笑みを浮かべるシオン。


「まぁな。てか、そろそろ降りろエレン。」


「嫌。」


「イチャイチャするのはここじゃなくて夜のベッドの上にしときなよ?」


ジト目で笑いかけるシオン。


「席についてください。会議を続けますよ?」


ロイドの声でハッと我に帰り、それぞれの席に戻る。


会議に参加すべく、ロイドの話に耳を傾ける





「う、受け入れる覚悟はあるけど、やっぱりまだ…心の準備が…それに可愛いのも買わないとだし…」



たった1人を除いて——。

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