第40話 悪魔の策略

「僕はッ!!君を許さないッ!!!!」


フラインがそう叫ぶ。

わざわざ魔術を使い、会場全体に聴こえるように。


「は?」


予想外の言葉に声を漏らすライト。

フラインはそんなライトを指差してさらに叫ぶ。


「君が僕のエレンを傷つけた!だから!彼女は本戦に出られていない!!」


(コイツは何を言っている?)


事情を知る者たちの心中が一致した—、が

会場はどよめきに包まれる。


「え、Sクラスが出てないってそういうこと!?!?」

「嘘!!あの平民!!エレン様に!?」

「ど、どういうこと!!」


皆が口々に言う。明らかに混乱している。


それを見てニヤリと笑うフライン。


(…まさか!!)


ライトは目を見開き、そして気が付いた。

フラインのやろうとしていることを。が、


「エレンは!僕とエレンの関係に嫉妬したコイツによって、襲われたんだ!!!!」


(…野郎っ!)


静まり返る会場。


誰かがポツリと呟いた。

「…クソだろ…。」


その言葉を境に会場全体の声が爆発する。


「ふざけんなぁぁぁぁ!!」

「死ねよ最低だ!!!!!!」

「エレン様に謝れぇぇぇぇぇぇ!!!」

「謝るだけじゃ済まされねぇよ!!死んで詫びろゴミクズ!!!」


凄まじい量の怒号が飛び散る。

無論、ライトに向かって。


(しまった…!!)


今ならまだライトへの誹謗中傷だけで済む。


だが—


怒りに任せて選択をを誤った。

その事実がさらにライトは焦らせ、

ライトの行動を遅くした。


(これ以上喋る前に決着を—)


そう思った時には、時既に遅し。


「エレンは!!僕の婚約者だ!!」


絶対に言わせてはいけない言葉を言わせてしまった。



「きゃぁぁぁぁぁぁ!やっぱり『僕とエレンの関係』ってそういうこと!!!!」

「スゴいスゴいスゴい!!フライン様とエレン様お似合い!!」

「ちくしょおおおおおおおおおおお!!!!だが、こんなの見せつけられたら納得だ!」

「フライン様ぁぁ!!頑張れ!!!!」

「あんちゃん!負けるな!!!!」

「ゴミクズE組のライトぉ!!負けろ!!」


ライトへの暴言の中に黄色い声援が混じる。


(完全に俺のミスだ…っ!)


こうなることで1番被害を受けるのはライト—ではなく、エレンだ。


これだけ大勢の中、婚約者発言をする。

それが何を意味するのか…


(最悪だっ!!)


ライトは歯軋りをする。


ここまで大きくなってしまえば、

フラインを正式な婚約者として認めざるをえないだろう。

王家とクレザーノ家の拒絶するのは不可能に近い。


そして今のライトとフラインのこの状況。


「だから僕は!どんなに力の差があろうとも!エレンのために負けられないんだ!!負けてはいけないんだ!!!」


フラインが叫ぶ。


フラインの全てを、ねじ伏せようとワザと攻撃に手加減をし、実力差を明確に出させた。

ライトの思惑が完全に裏目に出た。


先程までは『圧倒的な格の差』


しかし、今は


圧倒的な実力差を前にしても、婚約者をボロボロになりながらも守ろうとする男と、

それを嘲笑い、見下す男。


観客たちがどちらを信じ、どちらを応援するかは明白だ。


こんな状況でライトが今更否定したところで誰も信じないし、何も変わらない。



「フライン様ぁぁぁぁ!頑張れぇぇぇ!」

「そんなクズに負けるなぁぁぁぁぁ!!」

「エレン様を救ってぇぇぇぇ!!」


「はぁぁぁぁ!」


声援に後押しされるようにフラインがライトに攻撃を仕掛ける。


(どうするどうするどうする!!)


ライトは舌打ちをしながらもそれを防ぐ。


「はぁぁぁぁぁっ!!!」


フラインが連続で攻撃をする。

ライトがそれらを防ぐ。が、どこか余裕がない


「いけぇぇぇぇ!フラインーーー!!」

「頑張れぇぇぇ!負けるな!!!」

「いいぞ!!押せ押せ!!!!!!」


(…コイツッ!!観客全員を味方につけやがって!!)


観客たちの声援が増す。

そりゃそうだ。先程まで負けてた『正義の味方』が押し始めたんだから。

しかも、婚約者を守るという大義名分の前、格上に立ち向かうその姿に感動しない者はいないだろう。


事情を知らない限りは—


(こうなった以上後戻りはできない!早急に決着を…)


婚約者という事実は作られた。

しかし、一旦この場さえ抑えれば、事情を知る王妃や学園長たちがなんとかしてくれる。そう思い、ライトが反撃しようとする—が


「良いんですか?村がどうなっても?」


小さな声で悪魔が囁く。


「っっっ!?お前っ!!」


ライトが思わず距離を取る。


「フフフ。知ってるんですよ。調べたので。貴方の村の位置も、貴方の状況も…ね?安心してください。手は出しませんよ。『僕は』ね。まぁ、ここで僕が貴方に負ければ『ウッカリ』村の位置をここにいる人々に晒してしまうかもしれませんが…ね?」


「お前っっっ!!!!」


どこまでも屑なフラインに

ライトは怒り狂う…が何もできない。


「だから貴方はここで私に負けて欲しいんですよ。」


そういうとまた攻撃をしてくる。


「チッ…!」


ライトはそれを防ぐ。


「…おや?接戦の演出を手伝ってくれるとは、ありがたいですね。ですが、もう舞台は整いました。貴方はもうすぐ用済みです。」


そう言うとフラインは魔剣を消し、ライトに至近距離で爆発魔術を放つ。


「ガハッ…!!」


正面から魔術を喰らい吹き飛ばされるライト


「はぁ…はぁ…はぁ…」


服は破け、腕には火傷ができ、

見るも無残な姿のライト。

呼吸が乱れてくる。

思ったよりダメージが大きい。

ライトのそんな様子に観客はさらに沸き立つ。


「いいぞ!!いけいけ!!」

「フライン様ぁぁぁぁ!」

「ライトはもう限界だぞ!トドメをさせぇぇぇぇぇぇ!!」


(潮時ですね。正直ここまで行くとは思いませんでした。やはり僕は神に愛されている)


そう思うと、フラインは口元に怪しい笑みを浮かべ、そして、


教授たちの観戦席に—

いや、観戦席にいたエレンに向かって叫ぶ。


「エレン!!僕が君を救おう!!君の悪魔であるコイツを!僕が倒す!!だから、僕と結婚して欲しい!!!必ずや君を幸せにすると誓おう!!!!」





観客席——


「ふざけるなっ!!」


怒り狂うフォルト。今にもフィールドに飛び込み、フラインを斬り殺す勢いだ。


「待て!!フォルト!!」


ニックが声を上げる。


「…今は待て…。今は」


「今ってなんだ!?この状況は時間が解決してくれるとでも言うのかっ!?」


フォルトの指摘にニックが押し黙る。

状況は最悪だ。フラインの婚約者宣言とライトの冤罪。

事情を知らない観客者たちはフラインを正義の味方として称えている。

観客席にいるのは殆どが一般市民、すなわち平民だ。

今この状況で元剣聖や学園側の教授陣が強引に事態を鎮圧させたら、権力の横暴ということで国中を巻き込んだ暴動が起こるだろう。

故に教授たちも動けない。


「嫌、嫌だ…そんなの嫌ぁ…。」


エレンは母親にしがみついて震えている。

マリーもそんな愛娘の様子に怒りが込み上げる—が、何もできない。


フラインがエレンの婚約者であることは、これで確定したようなものだ。下手に否定すれば、王室への信頼が一気に崩れ落ちる。

そうすれば、王家は一巻の終わり。

下手すれば、フラインを侮辱したということで死刑になるかもしれない。



ライトの名誉は地に落ちた。

王女を襲った罪を問われ、処刑されるだろう。たとえ、処刑されなくとも、もうこの国に居ることは出来ない。


反対に、フラインはこの国の王として崇められるだろう。

王女を救ったヒーローとして。


そんなクソみたいなシナリオに苛立つが…何も出来ないのが現状だ。

完全な四面楚歌状態。


「ライト…ライト…嫌ぁ…。」


エレンのか細い声が響く。そして——


ドゴォォォン!!


至近距離でライトが魔術を喰らい、吹き飛ぶ。


「もう限界です!!!!」


ロイドが怒りの声を上げる。


「ロイド…ワシもだ…。」


こめかみをビキビキにしたフォルトが剣を構える。


「ライトくんは私の生徒であり、弟のような存在です。大切な弟を傷つけられて黙って見てる私ではありません!!」


ロイドの両腕に大量の魔力が集まる。


「…先に言われたな。担任のワシの台詞を取るでない。」


レナードの周囲に魔法陣が形成される。


ロイドが職業、鑑定士を発動させる。ガニスの時にも使用した鑑定士の能力の超応用。『鑑定』で得られる情報を極限まで少なくすることで、鑑定範囲及び人数を最大限まで高める。それにより、範囲中に居れば、誰がどんな魔術を使おうと、人数、方向等を絶対に探知できる高性能、広範囲の索敵魔術。


「…なるほど、この人数、半分ほどなら縛り上げられます。」


「なら、ワシらは残り半分を黙らそうかの。」


「フラインはワシに任せろ。一瞬で切り刻んでやる。」


3人と他の教授たちが飛び出そうとした、

——その時


「エレン!!僕が君を救おう!!君の悪魔であるコイツを!僕が倒す!!だから、僕と結婚して欲しい!!!必ずや君を幸せにすると誓おう!!!!」


フラインがコチラを、いや、エレンを見て叫んだ。


最悪を軽く超越する展開に一同が凍りつく。

反対に、周囲の熱は最大限まで高まった。

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