第41話 向日葵の約束

ライト視点


『お前にぴったりの名前じゃないか。何故なら——』


あぁ…痛ぇな。


至近距離で食らった爆炎魔術によって火傷した自身の身体を見る。


俺、こんなに傷ついて、何やってるんだっけ。

体も—、心も—、こんなにボロボロになって何やってるんだっけ。


自分は正しいことをしたはずだ。

何も悪くないはずだ。


なのに—気がついたらこの有様だ。


俺を見て嗤う屑。

周囲は目の前の屑を讃える声。


屑のプロポーズによって高まっていく声。更に、更に—


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!プロポーズよ!プロポーズ!!!」

「2人の新しい門出にお祝いだぁぁぁ!!」

「フライン様ぁぁぁ!!素敵ぃぃぃ!!」

「エレン様!!末永くお幸せに!!」


うるせぇな…。もうどうでも良いや。


ライトの視界が暗くなる。


このまま負ければ、

少しでも楽になるのかな…。

あぁ…もう、これじゃあ村には帰れないな。

ニック学園長、ロイド教授、レナード先生…恩を返せなくてすみません…。


そんなことを思いながら教授たちの観客席を見る。


ライトの暗い瞳に映ったのは

恩師でも恩人でも師匠でもなかった。


涙を流し、震えるエレンだった…。


ライトの意識が現実へとかえる。と、同時にライトの脳裏に、とある思い出が、とある言葉が蘇ってくる。



『——全てを照らし続ける太陽のような名前だからな!!!!』


満面の男が高らかに笑う。


ライトの目に光が戻る。


馬鹿だな…『僕』は大馬鹿者だ…。


あの日、彼と『約束し』捨てたはずの自分が背中を押す。今は亡き彼と共に。


暖かい、向日葵のような彼との約束。

彼が向日葵なら自分は太陽になりたい。

そう思っていた。


「ハッ…何が『太陽』だ。何が『全てを照らす』だ。情けない…。全部、全部捨てるところだった。」


友の思いも、あの日の約束も—全て。


呆れたように笑う。自分が馬鹿馬鹿しい。


そして観客席を見る。

殆どが自分の負けを祈っている。望んでいる


けれど、あの『少女』は違う。


他の人から見れば、プロポーズの嬉しさに震え、歓喜の涙を流しているように見える


——しかし、彼女の涙は恐怖と絶望でしかない。


『友達』1人助けられずに、

どうして『ライト』なんて名乗れるか。

1番傍に居てくれた彼女の笑顔ですら『守れない』のに、何が『約束を守る』だ。


息を目一杯吸い込む。

肺が悲鳴をあげても吸い続ける。


「エレン!!!!!!!!!!」


ライトの大声に周囲はギョッとして静まり返る。


喉の奥が痛い。

けれど、紡がなきゃいけない言葉がある。

言わなきゃいけない言葉がある。




「俺を信じろ!!!!!」




深呼吸するライト。

もう、目に迷いはなかった。


周囲からの罵声も、もう聞こえない。

聞こえるのは今は亡き友人の声だけ。


権力によって自身の幸せな未来を奪われ、

弱者は泣き寝入りするしかない。


そんな世界、が壊してやる。


あの日、親友が命懸けで守った世界は、もっと、輝いていたはずだから——。


左腕に膨大な魔力を宿す。

全てを消し去る『彼女』を呼ぶために—。


その時、会場に声が響き渡った。





エレン視点


嫌だ。嫌だ。嫌だ。

自身へのプロポーズに絶望する。恐怖で涙が出てくる。


貴方からのプロポーズなんて要らない。

私が、プロポーズを欲しいのは…

頭が裂けるように痛い。

視界がおぼつかない。


周囲からは祝福の声。

やめて!嫌だ!やめて!!やめてよ…


身体が震える。もう…死にたい。


そう思った時、


「エレン!!!!!」


聞こえてきたのは想い人の声。

愛しくて、愛しくて仕方ない彼の声。


「俺を信じろ!!!!!」


その声を聞いて、私の心の闇が晴れていくのを感じた。


「ライ…トぉ……」


安心感と嬉しさで涙が溢れ出す。

私のせいでこんなことになってるのに。

私なんかに構われたせいでこんなことになってるのに。どこまでも優しい。


やっぱり私の心を満たすのは、救ってくれるのは彼だけだ…。


「ふざけるな!!」

「犯罪者がぁ!!!」

「エレン様に謝れ!!!!」


彼に凄まじい怒号が浴びせられる。


やめて!彼の声をもっと聞かせて!


そう思った時


「静まりなさい!!」


魔術を使った声が響き渡る。お母様の声だ。


「え、誰?」

「エレン様の隣にいる人?」

「何か、心なしかエレン様に似てね?」


ザワザワとする周囲。

ライトもこちらをみて驚いている。


「もう一度言います。いいえ。王妃、マリー=ルイ=ファマイルの名において命令します。

静まりなさい。」


「お、王妃様!?」

「う、嘘!?マジで!?本物!?」

「お、俺!講演会でみ、見たことあるよ!あの人!!」


驚愕の声を上げる周囲。


「3度目です。静まれと言ったのが聞こえませんでしたか?」


お母様の声に辺りがシーンと静まり返る。


そして——


「ほら、エレン。貴女の王子様がピンチですよ?彼を救えるのは貴女だけです。」


そう言って背中をさすってくれた。


…そうだ。泣いている暇なんてない!

今度は私が彼を救わなきゃ!

支えてあげなきゃ!


彼がしてくれたように。言葉にしなきゃ!


「ライトぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」


力の限り叫ぶ。


ライトと目が合う。

——笑ってる。すごく優しい表情で。


それだけで、私の心は暖かくなる。

彼への想いが溢れ出してくる。


伝えなきゃ。

「信じてる」って「頑張れ」って

「負けないで」って「私がついてるよ」って


でも——、

私の口から出たのは全く別の言葉だった。



「大好きぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」



私の声が会場に響き渡る。

固まる周囲。ライトが目を見開いている。

え?どうして…?私なんか変なこといった?


数秒後、ハッと我に帰る。


え?今、私なんて言った?

うん、大好きって言った。


顔が真っ赤に染まっていくのが分かる。


それと同時に周囲からは大量の声が上がった。




マリー視点


本当にライトくんには妬けるわ。私が何言ってもダメだったのに彼の一声であんなに震えていたエレンが一瞬で笑顔になるんだもの。


この状況を覆すのに、私1人では無理だった。いくら私が声を上げようとエレンは恐怖で喋れなかったでしょう。

だけど、エレンはもう大丈夫。

だって愛しの王子様が迎えに来てくれたんだもの。


彼とエレンが作った状況打破の空気。

ここで親である私が声を上げずに、他に誰が上げるのよ!!!


そう決意し、魔術を使って声を響かせた—


「大好き!?え!?どういうこと!?」

「エ、エレン様はフライン様のことが好きなんじゃないのか!?!?」

「何何何!?ライトに告白!?フラインくんじゃなくて!?わけわかんない!!」

「エレン様顔真っ赤!!完全に恋する乙女じゃん!!」


混乱する周囲。まぁ無理もないわ。

彼への想いを知ってた私ですら、数秒固まっちゃったんだもの。

嬉しくって、安心して、彼への想いが溢れ出ちゃったのね。


さて、当のエレンは——


「あわわわ…私の今なんて!?なんて!?え?どうしようどうしようどうしよう…」


お目目をグルグルにさせて顔を真っ赤にしてアタフタしてる。

なんで言った本人が1番動揺してるのよ。


「ほら、シャキッとしなさい!」


そう言うと、愛娘のお尻をペチンと叩く。


「ひゃう!!」


目の前から変な声が上がる。


「今度はライトくんが応える番よ、

貴女が見守らなくてどうするの?」


お姫様にここまでさせたんだから、

負けたら承知しないわよ!王子様♪

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