第35話 異変
競技大会1日目が終了した。結果は次の通り。
(※S1Q →Sクラス 一期生 クイーン)
S1 Q エレン=ルイ=ファマイル
E1 K ライト=ファーベル
S2 Q シオン=サーバル
A2 K ガール=エドガー
S3 K フライン=クレザーノ
A3 K サイン=シルバー
1日目の全試合終了後、
本戦出場を各クラス代表が集まり、トーナメントのくじ引きを行った。
その結果…
第一試合 S2対A3
第二試合 S3対A2
第三試合 S1対E1
初戦からライトとエレンが闘うこととなった。また、第三試合がシード枠であるため、勝った方が決勝進出となる。
「…まさか初戦で貴方と当たるとはね。」
トーナメントの結果を見て、エレンが苦笑いをする。
「そうだな…。」
ライトも少し表情が暗い。
なんだかんだ言ってエレンと自分は仲が良い。出来れば、初戦からの潰し合いはやめてほしかった、そうライトは思っていた。
「でも!やるからには本気で行くわ!覚悟してなさい!」
エレンが高々と宣言する。
「おう!望むところだ!」
ライトも返事をする。
「ね、ねぇライト…。お願いがあるの。」
「なんだ?弁当なら要らんぞ」
「違うわよ!てか要らないって何!?あー、そんなことはもういい!!明日私が勝ったら私の言うこと一つ聞いてもらうわ!!」
「ほー、良いだろう。なら、俺が勝った時もよろしく頼むぞ?」
「嫌よ。」
「何でだよ!?明らかに不公平だろうが!」
「フフッ。これが王女の特権。お昼ご飯の時、私を無視した罰!!」
「あー、面倒くせぇ…。まぁいいや。負けなきゃ良いだけだしな。」
「あら?言ってくれるじゃない?舐めてもらっちゃ困るわよ?」
「ハッ!良いぜ?かかってきな!返り討ちにしてやるよ。」
「へぇ…生意気ね?その台詞そっくりそのまま返すわ。後悔しないことね?」
「お前もな?」
2人で少し睨み合うと、お互い笑い合う。
学園最初の頃が嘘みたいだ。
「じゃあ、明日お互い頑張りましょう!」
エレンはそう言うと走り去っていった。
その背中をライトは見えなくなるまで見つめていた。
「…初っ端は本当にゴミクズだと思ってたけど、案外、良いやつなのかもな。」
エレンを変えたのは自分であることにライトは気が付いていない。
しかし、2人の間には確かに友情が芽生えていた。
「ま、かと言って手加減したら負けそうだから全力でやるけどな。」
今日のエレンの様子をみて、そう呟くライト。天才と言われただけある。魔術がほぼ使えない自分が、どうやってエレンに勝つか。そんなことを考えながらライトも帰路着いた。
そんな2人を見つめる影があると知らずに—
翌日、学園内競技大会本戦の朝
王都の広場にて、ライトはラインとレインと打ち合わせをしていた。
打ち合わせと言っても
「要するに、結界魔術で囮になってほしい」
「「お前本当に俺らのこと友達だと思ってんの!?!?」」
双子のツッコミが響く。
「…だってそれくらいしか思いつかないんだわ。ハッキリ言って上級生とやり合える自信ある?」
「「ぐっ!!」」
的確な指摘に2人は言葉を詰まらせる。
事実、この2人は結界魔術はこの1ヶ月でライトとのエゲツない特訓によって格段に上達した。だが—それだけだった。
それ以外、この2人の成績はすこぶる悪い。本戦で上級生の、しかも成績上位者達との闘いで使えるとは思えない。よってできることといえば…
「よし、予選と同じように、お前らは結界張って突っ込んでくれ。」
「「ふざけるなぁぁぁ!!」」
双子の怒号が広場に鳴り響いた。
「はぁ…結局決まらなかったな。」
ライトはため息をついて学園へと向かう。
しかし、口ではそう言いつつも
(まぁ元々分かっていたことだ。それほど苦じゃない。とりあえず俺が先制で敵の1番強い奴を即行倒して3対2の状態に持ち込めば、防御力の高いコイツらの結界魔術があれば何とかなりそうだ。)
本戦は予選と違い、3対3で行われる。
そのため、昨日、教授たちから通達があり、敵チームの大将を戦闘不能ではなく、全滅させた方が勝ちということになった。おそらく、大将に選ばれた者が自由に力を発揮できないことを防ぐためだろう。
校門まで来る。
ライトたち本戦出場選手は他の生徒達よりも早い時間に呼び出され、出場登録をしなければならない。ライト達は打ち合わせに時間がかかってしまったため、学園に着いた時には既に過半数の選手が集まっていた。
「一期生Eクラス代表、キングのライト=ファーベルです。」
「ライン=ハルザーノです。」
「レイン=ハルザーノです。」
ライトに続いてラインとレインも出場登録を済ませる。
「君たちは第三試合だね。時間はおそらく、お昼前になるだろう。しかし、それは目安でしかない。試合の状況によって時間は左右される。気を抜かず頑張りなさい。」
受付の教授に言われる。
「「「はい!」」」
緊張をほぐすように、3人は揃って元気に返事をした。
「ライト、ライン、レイン。」
担任のレナード先生に呼び止められる。
「君たちは素晴らしい能力を秘めている。しかし、それは相手も同じだ。常に状況を考え、工夫しなさい。そこに、必ずや勝機はある。健闘を祈る。」
「「「ありがとうございます!」」」
頭を下げる3人の教え子にレナードは微笑んだ。
「あと、登録できてないのはS1Qのエレンさんですね。どうしたのでしょうか。もうすぐ締め切りですが…。」
教授達の話が聞こえてくる。
エレンのやつ、まだ来てないのか。
昨日張り切りすぎて寝坊でもしたか?
そう考えていると、
「ライトくん、ライトくん」
小さな声が聞こえる。声がした方を見ると…
「お、王妃様!?!?」
「しー!声が大きい!!」
木の影に隠れている、帽子とサングラスをかけた女性、王妃のマリーがいた。
「な、何してるんですか!ここで!?」
「ウフフ、来ちゃった♡」
「ウフフじゃありません!また城に迷惑がかかりますよ!?!?」
「まぁまぁそう言わずに。まさかエレンとライトくんが闘うなんて!エレンなんて早起きして張り切って出ていったんだから!私もこんな面白いもの見ないわけにはいかないじゃない!!かといって城の警備が厳しくってね。抜け出すのに時間なんて気にしてられなくて、こんなに早く来ちゃったわ。」
ウフフと笑う王妃。
どこまでも自由奔放な王妃にライトは頭を抱える。
と同時に城の従者たちへ哀れみの念を送る。
そこでライトは異変に気がついた。
「ちょっと待ってください。今なんて言いました?」
「え?抜け出すのにこんなに早く来ちゃったって…」
「その前です。エレン、もう城をでたんですか?」
「えぇ。とっくの昔よ?ここにはいないみたいだけど、きっと何処かで瞑想とか作戦会議でもしてるんじゃないかしら。」
いや、それだとおかしい。
何故選手登録せずにそんなことをするのか。
普通、選手登録をまず、するだろう。
血の気が引いてくる。
咄嗟にマリーの腕を掴み、教授たちの元へと連れて行く。
「ちょ!?ライトくん!?どうしたの!?ま、待ちなさい!」
困惑するマリー。
だが、今はそれどころじゃない。
「ロイド教授!!」
1番頼りになり、自身の恩師であり、兄のように慕っている教授へと話しかける。
「どうかしましたか?ライトくん。…ってマリー様、貴女また城を抜け出して…」
「あの!エレンはまだ来てないんですよね!?」
ロイドの言葉を遮り、声を上げる。
「え、えぇ。まだ来てないようですが…」
ロイドもライトの表情に気付いたのか顔を強張らせる。
「え?エレンはとっくの昔に来てるはずだけど?」
その言葉によって2人の顔からも血の気が引く。2人とも気がついたみたいだ。
「じゃあ…エレンはどこだ?」
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