第33話 親子と幼女と想い人

波乱の一期生全試合が終了した。

時刻はもう既にお昼時になろうとしている。

ちなみに、競技大会の日程は、1日目は予選、二日目は本戦と二日に分けて行われる。


「あー!もう何なのよ!ムカつくぅ!」


学園内敷地のとある原っぱにて、エレンが1人地団駄を踏んでいた。


試合後、お昼に誘いに来た大量の人々を睨んで追い返し、ここまで来たのだ。


「…ライト…やっぱりロリコンなのかな…」


「そんなわけないでしょ?おバカなこと言ってないでさっさとライトくんをお昼に誘ってきなさい。」


「キャッ!なんで!?お母様!?」


いきなり話しかけられて分かりやすく動揺するエレン。


「なんでってそりゃぁ、愛娘と将来の息子の勇姿を見に来たに決まってるでしょ?」


(将来の息子ってことはライトは私の…)


幸せな未来を想像しエレンの頬が赤く染まる


(ハッ!いけない!思考が飛んでたわ!)

エレンはハッとなり、首をブンブン振る。


「お、お母様、従者たちはどうしたの?」


「ん?何か言った?」


「…何でもないです。」


黒い笑顔をする母親にエレンはたじろぐ。


「「……」」


お互い無言。それを破ったのは——


「あ!お姫様だ!!」

「あれ?エレン?こんなところで何してんだ?」


金髪幼女(エリを)抱っこしたライトだった


「「ライト(くん)!どうしてここに?」」


親子の声が見事に被った。


「いや、何でってお昼を食べに来たんだけど、そちらの方は?」


ライトはマリーを見て尋ねる。

通常、王妃は民の前に姿を出さないため、ライトには分からなかった。


「あら?申し遅れました。私、エレンの母のマリーと申します。エレンがいつもお世話になっております。今後共末永くよろしくお願い致しますね♪」


ニッコリと笑みを浮かべるマリー。


「へぇ…エレンのお母さんですか…ってちょっと待って…まさか!?お、王妃様!?」


慌てて土下座するライト。

抱っこをやめられ、いきなり地面に降ろされたので、エリはぷくぅと頬を膨らめている。


「あらあら?そんなにかしこまらなくて良いわよ。今日は一市民として娘の晴れ舞台に来てるんですもの。未来の息子にそんなことされるとむず痒いわ♪」


「はい?む、息子?」


いきなりの言葉に困惑するライト。


「私も王女よ?さぁ、私にも跪きなさい。」


「よく分からないですけど…、こんなところで王妃様に会うことができるなんて光栄です。故郷の人達への良い土産話になりました。ありがとうございます。」


「あらあら?嬉しいわね♪」


「ちょっと!私には!?ねぇ私には!?」


完全に無視され御立腹の王女。


「ねぇおにぃちゃん、このきれいな女の人だぁれ?おひめさまのおねぇちゃん?」


何にも分かってないエリがライトに尋ねる


「あらあらまぁまぁ!!何て良い子なんでしょう!!貴女、お名前何というのですか?」


エリの言葉にマリーの機嫌が最高潮に達する


「エリ!!!」


「まぁ可愛らしい名前ですね。良い子良い子♪」


「えへへ♪エリ、良い子良い子♪」


マリーに褒められ、撫でられてご機嫌なエリ。


「…お母様まで私を無視して…」


完全に蚊帳の外に出されて不貞腐れる王女。


そんな様子を見てライトは仕方ない…と、ため息をつくと、


「エレン、第四試合見てたぞ。凄かったな。

だけど、あんな無茶苦茶したら怪我するぞ?」


「え?ライト心配してくれるの?」


「ん?あぁ、まぁな。周りもみんな困惑してたぞ、気をつけろよ?…って聞いてる?おーい王女様?」


ライトが声をかけるも—


「エヘヘ…ライトに心配された…」


初恋の想い人に心配されたことが嬉しくて仕方ない王女様には届かない。


「ねぇきれいなおねぇさん、おひめさま、お顔真っ赤っかでニヤニヤしてるよ。どうかしたの?病気?」


「…そうねぇ。すごく重くて甘い病気よ。はぁ、本当に将来が不安になるほどの初心さね…。」


自分の愛娘のピュアな一面を、微笑ましくも心配するマリーだった。


そこへ——


「おやおや、これはまた随分豪華なメンバーじゃのぉ」


「あれ?もしかしてエレン嬢と…マリーじゃないか!?…まさか貴女また城を抜け出して…」


「王妃様、国王様がご心配なされますよ。」


ニック、フォルト、ロイドが来た。

手には大きなバッグを持っている。


「まぁまぁ堅いこと言わずに♪我々もお昼に混ぜてください♪」


「仕方ないのぉ。じゃあ早速準備しようかの。」


「あ、手伝います。ニック学園長!」


大きなレジャーシートを広げるニックを手伝うライト。


「わぁぁい!お弁当!!お弁当!!」


「楽しみですね、エリ。」


エリを抱っこしたマリーが微笑んだ。




ライト視点


弁当を食べながら頭を抱える。

どうしてこうなった…。


ニック学園長からお昼に誘われて来てみれば、師匠もいるし、何故か王妃様とエレン(王女)も居るし。


なんか流れでこうなったけど!!

こうなっちゃったけど!!


おかしいだろこの状況!?


「…ふん。まぁまずまずの味ね。まぁ私がライトにあげたお弁当の方が格段に美味しかったわね。」


そう言ってちゃっかりライトにくっつく王女


「おにぃちゃん!この卵焼きエリが手伝ったの!あーん♪」


マリーに懐いて、彼女の膝の上に座ってご機嫌な金髪幼女(元ギルド長の孫娘)


「あら?そうだったのですか?さすがエリちゃん!良い子ですね」


金髪幼女を褒め、甘やかす王妃


「全く、マリーよ。あんまり甘やかし過ぎんでくれ。ワシの人気度が相対的に低くなるわい。」


孫娘を取られると危惧する元ギルド長


「…ライトよ、それにしても大胆不敵であったな。いやぁ、天晴れ!見事!ワシは師匠として鼻が高いぞ。」


試合を褒め称える元剣聖


「そうですね。私も驚きました。ライトくんは本当に我々の想像を軽く飛び越えて来ますね。」


ニッコリと微笑む第一公爵家長男


「は、はい。ありがとうございます。」


ペコリと軽くお辞儀する平民


………もう一度言いたい。何この状況。


この国のトップたちが護衛も付けず、レジャーシートの上でお弁当を食べあっている光景。


遠目から見れば、ピクニックしている愉快な人々。

近目から見れば、下手に無礼を働けば即死の超エリートたちの集い。


ライトがエリに卵焼きをあーんされて食べると、負けじとエレンがライトに、


「ライト?この唐揚げ中々のものよ?まぁ私の作ったものの方が美味しいけど。食べたいなら私が『食べさせて』あげるわ」


「いや、遠慮…」


「食べさせてあげるわ。」


「…頂きます。」


圧倒的権力の前に完全に萎縮するライト。


ウフフ、アハハと笑う国家最高権力者たち。

地獄絵図にしか見えない。


「あぁ…、何故か胃が痛い…」


ライトはため息をついた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る