第29話 競技大会と友達(壁)と特訓

『今だ!ライト!!』


『はい◼︎◼︎◼︎さん!

《◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ ◼︎◼︎ ◼︎◼︎◼︎!!》』


戦場に光輝く一輪の花が咲き——。


「…はぁ。嫌な夢だな。」


そこでライトの意識が覚醒した。

昨日のエリとの一件の影響だろうか、あんな夢を見るなんて…


完全に目が覚めてしまった。

顔を洗い身支度を整えようとすると


ドンドン!!


ドアが叩かれる。


「はぁ…嫌な予感しかしない。」


ドアを開けると、そこには—


「遅い!!さっさと学園へ行くわよ!!」


案の定悪魔が居た。昨日の弁当を思い出し、身震いする。


「…分かったから。着替えるからちょっと待ってろ。」


ライトは学習した。

この悪魔(エレン)には抵抗するだけ無駄だと。

面倒臭いことこの上ないが、実害が無いのであれば素直に言うことを聞いた方が良い。


ドアを閉めようとすると、


「お邪魔するわ♪」


先に部屋に入られた。


「あの?エレンさん?俺着替えるので出てってくれませんか?というか出ていけ。」


「私は気にしないわ。さっさと全裸になりなさい。」


「…俺が気にするんじゃボケェェェェェ!」


前言撤回、実害しかない。


力尽くでエレンを叩き出す。


その後も意地でもライトの着替えを見ようと強引に突っ込んでくるエレンを再度叩き出したり、とうとうまたドアを破壊して入ってきたエレンのこめかみをグリグリしたり——、


朝からライトが猛烈に疲れを感じたことは言うまでもない。



約一時間後—


「はぁ。アンタが変に着替えに手間取ってるから遅刻ギリギリじゃない。」


「原因お前だけどな。」


「このままじゃ、貴方は毎日遅刻するわね。仕方ないから毎朝私が迎えに行ってあげるわ」


「遠慮したいです。むしろ来るな。」


エレンとライトが並んで学園の門をくぐる。

その様子に周囲は驚き、ヒソヒソと噂をしている。


校舎内に入る2人。掲示板に一つのお知らせが貼られていた。


「…競技大会?」


「あら?知らないの?この学園の一番のクラスを競う大会よ。学年関係はなし。

 競技大会って言ってるけど、競技は一つしかないわ。何でも昔はもっと色々あったらしいけど、今のこの一つが人気すぎて他の競技はやらなくても大差ない感じになったらしいのよね。」


「ほう?んで、その一つってなんだ?」


「決闘戦。簡単に言うとクラス対抗の全面戦争よ。」


「は!?」


「安心しなさい?クラス対抗は予選までよ。本戦は各クラス代表の3人で戦うのよ。私は勿論クイーンとしてでるから。じゃ、頑張りなさい。」


そう言うとエレンはSクラスの教室へと行ってしまった。


ライトはとりあえず

掲示板に書かれた決闘戦のルールを見る


—決闘戦—

各クラス1名、大将を決める。(男子ならキング、女子ならクイーンと呼ばれる)

1クラス対1クラスで行う。

先に敵の大将を戦闘不能にした方の勝ち。

相手を殺す以外なら基本的に何をしても可。ただし、教授等が止めに入る場合もある。

予選は各クラス全員出場。

本戦は各クラス代表3名。

本戦は一戦ごとにメンバーを交代することは出来ない。しかし大将はその都度変えても良いものとする。

本戦に出場できるのは各学年2組。

予選、本戦は共に各学年トーナメント方式で行う。

今大会は通常の成績には関わらないが、3ヶ月後のフロン帝国学園との決闘祭の学園代表選考に大きく影響する。

諸君らの健闘を祈る。 ニック=ラザハール



学園長室にて


「今年もこの時期が来ましたね。3ヶ月後、我が学園、いや、ライトくんは『彼』に勝てるでしょうか?」


「ふーむ。ライトくんは使える魔力が少ないからの。状況は厳しいかもしれんの。」


「アラン=レオンハート。フロン帝国学園最強選手。彼1人によって去年は惜敗しましたが、彼はまだまだ力を隠してる様でした。」


「ふむ。おそらく生徒は気づいておらんかったが、アランくんは殆ど本気を出しておらん。」


「元ギルド長の勘ですか?」


「まぁな。さて、今年はどうなることやら。」


「まずはライトくんのクラスがどうするか見ものですね。彼がこのまま素直に負ける筈がないですし。」


「そうじゃな。何だかだだ言ってライトくんは—」


「「負けず嫌いじゃしな(ですしね)」」


ニックとロイドの声が被った。






ライトは教室の席につき、読書を始める。

そこへ


「えっと…ライト…?」

「話があるんだけどいいか?」


体格のいい短い黒髪の男子生徒2人に話しかけられる。彼らは双子なのだろう。顔はそっくりだ。


一体なんだろう?

そっとしておいてほしいんだけど。


そう思いライトが2人に顔をむける。


「「すまなかった!!」」


「は?」


目があった瞬間2人に頭を下げられ、ライトはキョトンとする。


「いや、俺たち今までお前に酷いことしてしまってよ。」

「実力じゃなくてコネなんだって思ったら、どうもお前のことが憎くて憎くて。」

「お前にはひどいことをしたと思ってる。」

「ほ、本当に悪かった!!許してくれ!!」


「いや、え?ちょっと、いきなり言われても」


ライトは困惑している。


「実は俺たち昨日の市場の様子見てたんだ」

「ガニスから小さな女の子を守って戦うお前の姿を!」

「そしてガニスを一撃で仕留めたところも」

「そんな奴がコネな訳ない!って思ってな」


「そ、そうなのか?」


「あぁ、もし、お前さえ良ければ、俺たちと友達になってくれないか?」

「図々しいお願いだって分かってる。だが、頼む!!お前のこともっと知りたいんだ」


「で、その心は?」


「「お前みたいに強くなってモテたい」」


見事にハモる。さすが双子。

本心を隠す気ない、この清々しさにライトは思わず吹き出す


「ぶっ!!面白いなお前ら。いいぜ!俺で良ければよろしくな。」


「いいのか!」

「ありがとう!」


入学して5ヶ月程。漸くライトは友達が出来たのであった。



それから数日—。


「ライトここ教えてくれ!」

「あ、ずるいぜ兄貴!?俺が先だ!」


「どうどう。どっちも教えてやるから落ち着け2人とも。」


ライトはお昼ご飯のパンを食べながら、授業の分からない部分を聞いてくる2人へと言った。


エレンからのお弁当はない。エレン曰く


「作ろうと思ってたんだけど、何故かお母様に『今はやめときなさい。少し経ってからにしなさい。』だのなんだの言われて全力で止められてしまったわ。」


らしい。

ライトは王妃様(エレンの母)に感謝した。


友達になった2人は、やはり双子で

兄 レイン=ハルザーノ

弟 ライン=ハルザーノ


2人はライトを『平民だから』という理由で蔑んでいたのではなかった。ただ、『コネ入学』というのが許せなかったらしい。


「あの時は本当にすまなかったよ、ライト。

まぁ言い訳にしかならないけど、俺たち、すっげえ優秀な兄が居てな。俺たちの家は、兄貴が継ぐ予定だったんだ。だから俺たちは自分の好きなことをやっていいって、言われててな。実は、俺と弟は普通の美容師になりたくて日々努力してたんだ。」

「けど、そんな兄が一年前、魔界で戦死しちまったんだ。兄貴が継ぐ筈だった家は急遽俺たちが継ぐことになってな。一般的な教養は貴族として受けてきたが、俺たちは兄貴と違って才能は全く無かった。」

「それでも、家の為、何より兄貴や今まで育ててくれた親父たちの為に必死に勉強して、最底辺だけど何とか2人してこの学園に入れたんだ。けど、そんな俺たちを笑うように、コネ入学したって噂を聞いたんだ。」

「俺たちはそれが許せなかった。そして噂を確かめず、加害者側に回ってしまった。本当に申し訳ない。」


と、謝られた。


「もういいよ別に、気にしてねぇし。」


「「ライト!!」」


「まぁけど、ただで許すってこととなると…お前らも納得しないだろ?」


「あぁ!!」

「俺たちに出来ることが有れば何でも言ってくれ!!!」


「その言葉を待ってたんだ。頼むぞ2人とも?」


ライトは悪魔の笑みを浮かべた。


そんなライトにキョトンと首を傾げる双子。


そんな彼らにライトは笑顔で話しかける。


「じゃあ早速、2人にはお願いをしようかな♪」


「「おう!何でもどんとこい!!」」


胸を叩く2人。


「んじゃ、お前ら、今日から競技大会まで、俺に付き合え。とりあえず夕方、5時前くらいにもう一度学校に来い」


ライトはニシシと怪しい笑みを浮かべた。



時は流れ5時頃—。


「よ、ようお前ら…待た…たな」


満身創痍のライトが2人に寄る。


「「ラ、ライト!?な、何があった!?」」


驚く2人。


「いや、ちょおっと人類最強と闘ってきただけだよ。それよりお前ら、時間がないさっさと始めるぞ。」


「「何を!?!?」」


「決まってんだろ?特訓だよ。競技大会、俺たちで優勝するぞ」


そういうと、ライトは2人を連れて学園内へと歩き出す。唖然とする2人。


ハッと我に返りライトの元へと走り出す。


そして3人が着いたところは、つい先ほどフォルトとの修行をしていたところだ。


「ライト!?優勝するってどう言うことだ!?」

「そうだ!出来るとでも思ってるのか!?いくらお前が強かろうと、あんな数相手に戦うのは無理だろう!!」


(やれなくはないが—。まぁ仲間諸共俺を魔術で吹っ飛ばす様な奴が居たらヤバいからな。)


「あぁ、俺1人じゃ無理だろうな。そこでだ。お前らの力が必要なんだよ。」


「いや、俺たち3人だって無理だろ!?」

「どうせクラスの奴らは手伝わないし、一クラスを相手に無理だって!!」


「ふっ。お前ら、安心しろ。絶対勝てる。絶対勝つ。慌てるのは俺の計画を聞いてからにしろ。」



そう言うとライトは2人に計画を話した。



「いや、た、確かにこれなら予選は突破できるけど…」

「あ、兄貴!?俺たちヤバい人に目をつけられたんじゃ…」


「だけど、面白いだろコレ。」

2人の反応を見てニヤリと笑うライト。


「確かに成功すれば会場は唖然とするな…」

「う、くぅ…や、やるしかないか!」

「ていうか、俺たちお前らに職業の話したっけ?」

「た、確かに!どうしてライト、俺たちの職業が『守護者』だってこと知ってんだ?」


職業 守護者

主に結界魔術や、身体に負荷する魔術に対して適性がある。


「…あぁ、まぁ『聞いていた』からな。いや、何でもない、気にするな。」


「「?」」


2人は揃って?マークを浮かべる。


「そんなことより、さっきの計画が上手くいくかどうかはお前らにかかってる。頼んだぜ?」


「「プレッシャーかけんな!!」」


2人の悲鳴に近い叫びが響き渡った。


約1時間後—


「「はぁっ!はぁっ!はぁっ!」」


汗だくの2人が倒れている。


「まぁ、まずまずってところだな。本番までにはもっと速く動けるようになってもらわないと困る。」


淡々とライトが告げる。


「あと、俺は出てないから分からないんだが、職業別授業って学年合同か?」


「はぁ…はぁ…、そ、そうだ。じょ、上級生も、はぁ、はぁ、いる。」


「ならお前ら、授業では手を抜いて貰わないとだな。もちろん、自分の成績が関わらないところでだけでいい。よろしく頼んだぞ。」


「「お、おう…」」


「よし、あと1ヶ月間、頑張ろうぜ!俺たちで優勝するぞ!!」


ライトが声を上げる。


「ひ、一ついいか?」


「どうした?」


「予選突破したらどうするんだ?この計画は予選だけだ。本戦は何か他に考えはあるのか?」


「もちろん、あるわけないだろ。」


「「……」」


絶句する2人。


「まぁでも本戦になったら大丈夫だ。相手3人程度、どんな奴が来ても俺たちなら勝てる。それに相手が誰だか分からないのに、対策しようがないだろ。」


無論詭弁である。

競技大会のトーナメントはS A Bの 3クラスが初戦で当たらないようになっている。つまり、成績上位3組の内、2組が学年代表として出る可能性が高い。よって、各学年のS A Bクラスのトップ3を調べれば対策の仕様はある。が、


(正直、各学年のSクラスの生徒に、コイツらが着いていけるとは思えない。となると、闘いの勝敗は俺1人にかかってる。下手に気負わせて動きが悪くなるくらいなら、ぶっつけ本番にかけた方が良い。)


ライトはそう思っていた。


「よし、本番まで、あと1ヶ月。覚悟しろよ?お前ら。」


ライトは高々と宣言した。

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