第27話 幼女とライトと向日葵

「おにぃちゃん凄い!ゴリラさんやっつけちゃった!!」


エリがライトに飛び付く。


「な、なんだこの状態は!?!?」


漸く憲兵が到着したようだ。

状況の悲惨さに驚いている。

辺りは半壊。中心には折れたデッキブラシを持ち、金髪幼女に抱きつかれてる男。


「はぁ…面倒臭いなこれ…。」


そうライトが呟くと


「状況を説明してくれないか?」


ライトはそう憲兵に声をかけられた。

そのとき、


「ライトくん?こんなところでなにしとるんじゃ?」


声のした方にはニックがいた。


「!?ニック学園長!?」


「あ!じぃじだ〜!!」


「え!?じぃじ!?!?!?」


「エリじゃないか!無事でよかった!」


「じぃじ、どうしてここにいるの?」


「ニック学園長どうしてここに?」


「エリのお母さんにエリが居ないって報告受けて探しにきたんじゃよ。

エリ、勝手にウロチョロして、ママを困らせちゃダメじゃよ?」


「ごめんなさい、じぃじ。」


ペコリと頭を下げるエリ。


「…ライトくんが守ってくれたのじゃな?本当にありがとう。」


「いや、巻き込んでしまって申し訳ないです。」


「ガニスの件は私に任せなさい。その代わり、この先の広場にエリのお母さんが待っとる。エリを連れて行ってあげてくれんかの?」


「ありがとうございます。わかりました。」


ライトはそう言うとエリを連れて行こうとしたが、


「おにぃちゃん、疲れた。おんぶ。」


疲れたのはこっちです。


そう言いたいのをグッと堪え、エリをおんぶする。

そして広場へと歩いて行った。


「あ!おにぃちゃん!!」


「今度はどうした」


「お花だ!!綺麗!!」


エリの視線の先には花屋があり、彩どりの花が置いてあった。


その中で一際目立つ、向日葵。


「エリね!ひまわり大好きなの!!なんか、お日様みたいで、見てると心が明るくなるの!!」


元気いっぱいの笑顔を浮かべるエリ。


そんなエリの言葉が


『俺、向日葵好きなんだよな!明るく照らされてるようで、こっちまで元気貰えるからな!!』


ライトに懐かしい声を響かせる。


「どうしたの?おにぃちゃん」


立ち止まってしまっていたらしい。


「…ゴメン何でもない、行こうか。」


「変なおにぃちゃん。」


再び歩き出す2人。


「おにぃちゃんひまわり好き?」


「あぁ…、好きだよ。けど、もう俺には見えないんだ。」


「さっき見てないの?あんなに綺麗だったのに!!」


ぷくぅと頬を膨らませるエリ。


「…うん。ゴメンまた今度見るよ。」


「おにぃちゃん、ひまわりってどこに咲いてるのかな?」


エリが尋ねる。


「…さぁ?おにぃちゃんも分からないや」


「今度探しに行こうね!!」


「うん。楽しみにしてるよ。」


ライトの脳裏に映し出される巨大な向日葵。

それはもう2度と見ることはできないだろう。



全てを包み込む圧倒的な光を放つ、


あの、一輪の『向日葵』は




広場に着くと、


「エリ!!!!!」


金髪の女性が近寄ってきた。

着ている服はかなり綺麗で、おそろしく高価だということがわかる。


「ママ!!」


「どこに行ってたの!探したんだから!」


「ごめんなさ〜い。」


ライトの背中に隠れるエリ。


「先程父からの通信で聞いています。エリを助けてくださり、ありがとうございました。」


「いえいえ、俺の方こそ巻き込んでしまってすみません。」


「ママ!おにぃちゃん凄いんだからね!!ビューンってなってズバってなってゴリラさんドコッとしたの!!」


「ビューン?ゴリラ?」


目をパチクリさせて混乱する、エリの母。


「えーっと、じゃあ俺はこれで。」


ライトは、とりあえずそう言うと、エリを下ろして頭を下げる。


「おにぃちゃん!しゃがんで!!」


エリの声通りにしゃがむ


チュッ。


エリがライトの頬にキスする。


「またね〜!!絶対探しに行こうね!!」


そのまま母親へと走っていくエリ。


「まぁエリったら。では、ありがとうございました。」


頬を片手で押さえて笑うエリの母。

2人は手を繋いで遠ざかっていく。


呆然とするライト。


2人が視界から消えた時、ようやく重い腰を上げた。


「向日葵…か」


エリの笑顔が思い出される。


「…俺はもう咲かせることは出来ないのにな。」


そう呟くとライトは自宅へと足を進める。

その背中はどこか悲しみを帯びていた。








しばらくすると、


「やべ。夕飯の材料買うの忘れた。」


ライトは再び市場へと戻って行った。

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