第24話 特訓1
「…痛っつう…。」
腹部と頭部に鈍い痛みを覚えつつライトは目を覚ました。
すると目の前にはもう少しで触れそうな位近い位置にニック学園長の顔が……
「ぬぉおぁぁぁぁぁああ!!!」
あまりの衝撃に後転しながら後ろへ下がる
「医務室へ連れて行こうと思ったが、その様子だと大丈夫そうじゃの。」
精神が大丈夫じゃないです。
恩人に対してアレだけど、寝起き直後に眼前に、エレンの様な美少女の顔が有るのは男として素晴らしい、が…、70代程の老人のはちょっと…
「ワシのあの一撃をモロに食らっておいて、気絶したのは数分程。なんという頑丈さと回復力だな。」
フォルトが微笑む
「あ、ありがとうございます…?」
「とりあえずコレを飲んでください」
ロイドがライトに緑色の液体の入った瓶を手渡す。液状回復薬、ポーションだ。
液状回復薬には怪我の回復用、魔力の回復用、病の回復用の3つの種類があり、それぞれ使用される薬草や魔術式によって色が異なっている。今回は怪我の回復用である。
「ありがとうございます。」
ライトはお礼を言ってポーションを受け取りゴクゴクと飲む。
たちまちライトの傷が回復した。
「ふう…。」
ライトは一息ついた。
そしてニック学園長と話しているフォルトを見つめる。
ここ数年出会ったことのない、格上の相手。
決して奢っていたわけではない、が、自分は人より優れているという自覚はライトにはあった。
生まれ持った才能など無意味に等しい圧倒的な技術と経験の差。ライトは己の現状を理解した。
「さて、ライトも回復したことだし、本格的な指導に移ろうか。」
「えっ?」※ロイド
「は?」※ニック
「ふぇ?」※ライト
フォルトから唐突に告げられた言葉に3人は変な声をあげる。
「?なに鳩が豆鉄砲食らったような顔しとるんだお前たち。さっきのはワシが、寧ろライト本人が自分の実力を理解するためのもの。ワシの指導はこれからだろうが。」
フォルトはそういうとライトに木刀を投げる
「立て、ライト。」
「は、はい!」
呆気に取られていたライトの意識が覚醒する
「…お前が寝てる間に大体の事はニックとロイドから聞いた。冒険者をやっていた事も、ルシファーと契約していることもな。」
「…っ!」
いきなりのフォルトの言葉にライトは動揺する。
「まぁ完璧に信じたわけではないが、今のお前の様子からして事実なんだろう。」
フォルトは淡々と言う。
(なるほど、漸く合点がいった。ライトが何故アレほどまで隙が多いのか、一撃一撃に全身全霊をかけているのか。今までは、おそらく自身の絶大な魔力を自身に付加していたのだろう。素の身体力でコレだ。一撃で仕留められなかった敵は居なかっただろう。だが)
「ライトよ。話が本当なら、お前が全力を出せばこの国で、いや全人類でお前に勝てる奴などいないだろう。ワシとマーリンが全力で立ち向かっても、まるで歯が立たんだろうな。だが、今のお前の現状はここだ。魔術使用無しのワシにコテンパンにやられる。確かに同年代では敵なしだろうが、本当にそれで良いのか?」
「………。」
初めて諭される自分の弱さ。
ライトは何も返せなかった。
「契約の影響で魔力が使えず、頼れるのは己の肉体のみ。だが、それで負ける言い訳になってはいけないことは自覚しているだろう。戦場では過去は全く関係ない、大切なのは今だ。」
ライトの脳裏に泣き叫ぶ己の姿が映し出される。『あの時』感じた悔しさが蘇る。
「御託はそれくらいでいいだろう。時間が勿体ない。さあ始めるぞ。」
フォルトは高々と宣言した。
「ワシがお前に斬り込む。それを全て防ぎつつ覚えろ。」
そう言うとフォルトはライトに接近する。
「くっ!」
ライトはフォルトの剣撃を防ぐ。
フォルトは手加減してくれてるのだろう、先程の試合の時より僅かに剣撃は遅い。
「ふむ。これくらいだろう。」
不意にフォルトの手が止まる。
「次はお前の番だ。先程のワシの動き全て正確に真似してワシに攻撃しろ。ワシもお前とほぼ同じ守り型で対処しよう。」
「「「は?」」」
ライト、ロイド、ニックの声が重なる。
「おいフォルトよ。何を言っておるんじゃ。剣技を教えるのではなかったのか?」
「何を甘えたことを言っておる、ニック。手取り足取り教えて貰った技術が土壇場で通用するわけないだろう。ライト自身の力でワシから奪い取らなければ何の意味もない!死ぬほど打ち込んで奪って、またさらに打ち込む。これ以上効果的なモノはない!」
((この人、人に教えるの無理だ))
ニックとロイドの思考が一致する
一方で
「なるほど!!絶対貴方から技術を奪い取ってみせます!!行きます!!フォルト様!いえ、師匠!!あぁぁぁぁっ!!」
「ふっ、生意気な。だが、その意気だ。かかってきなさい。」
フォルトとライトの間には熱い師弟関係が形成されていた。
「思ってたんですけど、ライトくんも大分変人ですよね。才能的な面もあるでしょうけど、何というかどこか、無駄にポジティブみたいな。」
「そう…かもな…。」
2人は曖昧に笑った。
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