第22話 サプライズ

中期が始まって数日が経った。


結果的に言うと、初日に起こった騒動は3名の退学と12名の厳重注意で幕を閉じた。


退学者はガニスに加えて彼の取り巻きの男子生徒2名。実際手を出したのはガニスのみだっため、彼等の両親と少々揉めたが、結局フェルマー家長男、ロイド=フェルマーの意向だということが分かるとすぐにおさまった。

ガニスに至ってはフェルマー家と賢者相手に反感を買ったとして家を勘当され、その後行方知らずらしい。

ガニスたちの処分の影響か、

ライトに対してのイジメも少なくなった。

まぁ小さな嫌がらせ行為はされるが、以前より格段に過ごしやすくなったのは言うまでもない。


エレンもあの騒動以降、ライトに関わってくることはなく、2人は学園内でも会うことはなかった。


そんな中、職業別授業が始まろうとしていた


ライトの職業は本当は召喚士だが、ライトの現在使用できる魔力量では授業に参加することが出来ないため(かといってルシファーを召喚するわけにもいかないので)、ライトは剣士の授業に参加することになっている


ライトは以前配布された専用の服に着替える。

一見普通のジャージのようだが、耐久性が極めて高い繊維で出来ている。しかし、それはあくまで「生地」の耐久性であり、肉体への防御力はほぼ0に等しかった。

実戦ではモロに剣に当たれば即死、もしくはかなりのダメージを負う。

出来るだけ実戦に近い形での授業を展開したいという学園の意向だろう。


「ライト君。君はこっちに来なさい。」


授業場所に行こうとするライトを引き止めたのはニックとロイドだ。


「おいおい!平民様は特別授業だってよ!」

「しっ!アイツ学園長に媚び売ってるから、下手なこと言うと退学になるぞ!」

「ハッ!恥ずかしくねぇのかよ!ガニスじゃなくてアイツが辞めるべきだっただろ」


表向きは変わったかもしれないが、

根本的なところは何一つ変わってないらしい


2人に連れられてライトが来たのは学園の敷地内の原っぱだった。敷地内と言っても学園の広さは普通の街一個分よりも余裕で大きい。校舎よりかなり離れた所に来ていた。


まぁ学園が広いといっても、王都はもっと広いわけだが。


「どうしてここに?」


《範囲結界 紫水晶壁(アメジストウォール)》


ライトの疑問に答えるより早く、ロイドが結界魔術を発動させる。


透明な紫色の巨大なドームが形成され、3人を包み込む。


「どうしてって、君に会わせたい人が居るからじゃよ。」


そう言いながらニックはライトに魔術的な強化が付与されている、一本の木刀を手渡した。


「え?そのお方は…」


今どこに?


その言葉は突如背後から3人を、いや、ライトを襲った衝撃波によってかき消された。


「っ!!」


慌ててライトは木刀で衝撃波を上に受け流す。

そのまま結界にあたってバチバチと火花が飛び散った。


「ほう?あの一撃を対処するとは。ニックの言ってたことは間違いではないようだな」


声の主、おそらく先程のこうげきを仕掛けたであろう銀髪の老人と目が合う。


ライトは驚愕で目を見開く。

ロイドとニックはそんなライトを見て微笑んでいる。


「フォ、フォルト様!?け、け、剣聖様が何故ここに!?」


「ハッハッハ!つい先日引退したから元だがな!!」


そこにいたのは元剣聖。

全人類最強の剣士だった。






「どうしてここに!?」


ライトは声を上げる。


「どうしてって、ニックにどうしても見てほしい人物が居るからと頼まれてな。面倒臭いから断ったんだが、将来が有望だのなんだのしつこくてのう。まぁ隠居すれば退屈になるし、ニックにそれほどまで言わせる人物がどれほどの者か見てみたくなった!それに王女の一件もあり、承諾してよかったわい!」


そんなこと聞いてない!!


ライトはニック学園長の方を見るも、ロイドとニックは知らん顔だ。


(嵌められた…。

知ってたらあんなに取り乱したりしなかったのに!!!)


(さて、コヤツの聞いておったが、こりゃ、たまげた。想像を遥かに超えておる。身体能力で言えば、全盛期から衰えたとはいえ、現在のワシとほぼ変わらん位だろう。だが、魔力の才はないようだな。)


アタフタしているライトを見てフォルトは微笑んだ。


「さて、まずは実力試しと行こうか。まだ、ワシはお前の実力を正確には分かっておらん。」


「えっと、それはどうすれば…。」


「決まっとるだろ。お互い、魔術の使用は禁止。…構えよ。」


フォルトはそう言うと木刀を構えた。

服装はライトと同じで騎士ではない、が、それを連想させる一分の隙もない構えにライトは身震いする。


「…分かりました。」


ライトも木刀を構える。


場が一瞬にして張り詰める。


「…行きます!」


先に仕掛けたのはライトだった。


一瞬でフォルトへと迫り、彼の右脇腹に垂直に剣を入れようとするも、防がれる。


「…まさかここまでとは。ワシを本気にさせるとは…やるの。小僧。」


フォルトは笑う。


「っ!!」


今度はフォルトの背後にまわり、一閃。が、それも防がれる。


(身体能力はほぼ互角!剣聖といえど魔術無しならこっちにも勝ち目はある!!何か小細工される前に一気にケリを付ける!!)


「はぁぁぁああっっっ!!」


一閃、一閃、一閃…


ライトの猛攻がフォルトに襲いかかる、が、


「ふむ」


涼しい顔をしてそれを受け流し、躱していくフォルト。


「なら!これなら!」


連撃に回転を加える。

遠心力によってライトの剣の速度と威力が増す。


しかし、


「ほう。」


全て受け流される。


「はぁ、はぁ、はぁ。」


ライトは肩で息をする。

が、対するフォルトは息一つきれていない。


(身体能力の差は殆どない!じゃあなんで!どうして!一撃も入らないんだ!)


「お主の剣は無駄が多い。実践経験は相当積んではいるが、我流だな。一撃一撃の威力は大したもんだ。だが、闇雲に身体能力に任せた剣など容易に受け流せる。

お主の剣は『剣術』であっても『剣技』ではない。」


淡々と告げる。


「…今度はこちらから行くぞ。」


フォルトがライトに近づく。


(速い!けど、対処できる)


フォルトの一閃を防ぐ、も、


「ぬううううううん!」


「なっ!!」


連撃、連撃、連撃


「くっ!!」


ライトにフォルトの攻撃が襲いかかる。

ライトは防御で精一杯だ。


(一撃一撃が速い!防いでも最速で次の攻撃が来る!!)


そして、遂に。

フォルトの一閃をライトが防御できず…


「グハッ!!」


ライトの腹を激痛が襲う。

そのまま吹き飛ばされ、

ライトの意識はそこで途切れた。

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