第21話 学園再開 後

エレン視点


「2度と関わんな。」


何で…。どうして…。


私はその場に座り込んでしまった。


ライトと名前も知らない男子生徒が争っていた。彼はいつもは抵抗しないのに、今回に限って、ものすごく怒っているのが伝わった。


理由を聞いた時、私は胸が高鳴った。

もちろん、この男子生徒が私のことを好きだからなんかじゃない。


ライト、嫉妬してるの?

私を巡って争ってくれてるの?

もしかして、私のこと…


そんな私の淡い願いはすぐに壊された。


ー待って!!お願い!!待って!!ー


誤解を解こうと彼の手を取ろうとするも、

拒絶された。


あの時あんなに優しく抱きしめてくれたのに。キスだってしてくれたのに。

今はもう彼に触れることさえ出来ない。


「うっ…。うぅ…。」


涙が溢れ出す。


彼に宣戦布告してから密かに努力してきた。

生まれて初めてお料理にもチャレンジしたし、お化粧だってお母様に教えて貰った。

まだ彼に見せられるほど上達はしてないけど、近い将来、いつか必ず。そう思っていた。


それなのに。


「平民風情が…!!エレン様、安心してください。あんなゴミは俺が殺してきますわ。」


そう言って私の頭に手を伸ばす、名前も知らない男子生徒。


やめて。話しかけないで。触らないで。私は貴方のモノじゃない!貴方のせいで全部メチャクチャよ。とっとと私の前から消えなさい!


いつもは言える言葉でさえ、声に出せない。


男子生徒の手が私の頭に触れようとした時、


「そこまでです。」


凛とした声が響き渡った。




(エレン視点終了)




その声と共に周囲にいたエレン以外の生徒全員が、地面から生えてきた蔦によって空中に上げられ、身動きが取れなくされる。


「っちょ!何だこれ!」

「動けないですの!」

「助けて!ママぁぁぁぁ!!」


生徒達が悲鳴をあげる。

あまりの騒ぎに、既に教室にいた生徒たちや、今来た生徒たちも集まってきたようだ。


「何だ!!誰だ!!こんなことを!!俺様を誰だと思ってる!!さっさと降ろせ!!さもなくば親父に言いつけて…」


「親父に言いつけて、私をどうするつもりですか?ガニスくん。」


穏やかな口調だが、明らかに怒気を孕んだ声が響く。その声の持ち主に全員唖然とする。


「ロ…ロイド先生…。」


ロイド=フェルマー。

円卓会議に席を持つ第一公爵家、フェルマー家の長男。


「先程までの様子、一部始終見させていただきました。今まで我慢してきましたが、正直我々も、もう黙って見ていられません。」


「そうじゃな。ロイド君。」


「えぇ。全くじゃ。」


ロイド先生の背後から2人の老人が顔を出す。


「ニック学園長…。え?嘘だろ…。マ、マ、

マーリン様…どうしてここに…?」


この学園の長と、この国の現賢者がいた。


「マーリンとワシは古い友人なんじゃよ。新学期の挨拶のために呼んだんじゃ。何度も断ったんじゃが、どうしても、と言われてな。」


「外が騒がしくて、2人と共に気になって見てみれば…。ロイドよ、余計なことをしおって。ワシに任せてくれれば、ここら一体ごと吹き飛ばしたというのに…。」


第一公爵家長男、学園長(元ギルド長)、現賢者。


この学園のトップ、いや、この国のトップとも呼べる3人が揃って怒りを露わにしている。


「い、い、い、いや!俺は、へ、平民から喧嘩を売られて…」


「我々は一部始終見たと言いませんでしたか?ガニス=レーベル。」


ロイドの声がガニスを震え上がらせる。


「いや…、その、俺たちは!困ってるエレン様を助けようと!!」


「そうなのかね?エレンくん。」

学園長がエレンに尋ねる。


「私、私は…」

全員がエレンに注目する。


「…ヒック…、そんなの…、知ら、ない。」

泣きながらエレンは答える。


「だそうです。学園長。」

「うむ。そのようじゃの、ロイド君。」


「エレン様!?な、何であんな平民なんかの…」

「エレン様!!あの平民に何か弱みでも握られましたか!?」

「エレン!!俺はお前の為に…」



「黙れ。」



「「「ヒッ…」」」


現賢者の凄まじい殺気が生徒達を震え上がらせる。


「…さて、今回の騒ぎの元凶であるガニス=レーベル。貴様は授業時間外での魔術使用に加えて、それで他者を一方的に痛ぶり、あろうことか拷問まで行おうとした。そのような者に、この学園の門をくぐる資格なし。今この時をもって退学とする。」


学園長の無慈悲な宣告がガニスを絶望へと追いやる。


「す、す、すみません!もうしません!許してください!!!」


「黙りなさい。ガニス=レーベル。ライトくんが今まで何度、貴方にその台詞を言いましたか?貴方は何度、彼を蔑み、暴力を振るいましたか?」


「そ、それは…。」


「このことは貴方の父親であるガイル=レーベル氏にも伝えておきましょう。ロイド=フェルマーの名の下でね。」


「そ、そんな!!待って下さ…」


《五月蝿い》


マーリンがそう唱えると、ガニスの体を白い光が包み、消えた。


「「「ヒッ…」」」


「マーリン様。」


「安心せい。ロイドよ。転移魔術であやつの家へと飛ばしただけじゃ。」


「今回の騒動は、ガニス=レーベルだけでなく、その他の生徒にも責任はある。処分は後々言い渡す。それまでは待機せい。

万が一学園を去ることになろうとも悔いの残らぬように…な。」


ドサッと地面に落ちる生徒たち。


ロイドが魔術を解除したのだ。


「さて、貴女は今回は関係ないようですが、一応事情をお聞きしてもよろしいでしょうか。エレンさん。」


ロイドはエレンへと尋ねる。


コクッ。エレンは涙目で頷いた。


「…では我々も行こうか。彼らの処分も検討せねばならぬゆえ、始業式は中止じゃな。」


「せっかくワシが挨拶のために忙しい中来てやったのにのぉ。」


「嘘つけ。しつこく来たがったのはお主じゃろうが。」


「お二人とも。エレンさんを待たせていますよ?早く行きましょう。」


「そうじゃな。」

「む、これは失敬。」


3人で並んで校舎に入る。

その背後から俯きながらエレンが続いた。

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