第15話 王女の命を狙う者 教授たちの闘い

《錬金 アイアンゴーレム 腕!!》


レナードが地面に手をつけ、叫ぶと同時に地中から銀色の巨大な腕が2本生え、眼前の男へと襲いかかる。だがー。


「柔い!!!」


男が大剣を振るうとすぐに粉々になり、土へと還る。


「ぬううううん!!」


そのまま高速でレナードへ肉薄するーが


《捕縛縄 雷!!》


他の教授の両腕から雷が出て男の体をぐるぐる巻にする。そこへ


《駆けろ 炎獅子!!》


もう1人の教授が作りだした炎の獅子が迫る。

しかし、


「はぁぁぁぁ!!」


男は強引に雷の縄を引きちぎり、


「ぬぅぅぅぅん!!!」


大剣を自身を飲み込もうとする炎獅子へと振りかざす。

爆音が響き、爆風で3人とも後ろへ飛ばされる。


「フハハハハ!!良いぞ良いぞ!!もっと我を楽しませよ!!」


爆発の中心地で高らかに男が笑う。


「年寄りは労わらんかい…。」


レナードは苦しい表情をする。

他の2人の教授も同じような表情だ。


(3人がかりで漸く足止めレベルか…。一応救援要請は出したが、援軍はいつ来るか分からん。じゃが、教授の誇りにかけて、生徒達には指一本触れさせん!!!)



時は遡りー。

生徒達の拠点である原っぱからから約一キロほど離れた洞窟で…。


「レナード教授、おはようございます。」


「おはよう。」

レナードは何故か目を閉じながら返事をする。


「…彼らの様子はどうでした?」


「いつも通りじゃよ。ライトくんが居ないと言うのにも関わらず。本当に反吐が出るわい。」


レナードは錬金術で夜目がきく梟を作成し、使い魔として使役した。

そしてそれを通信魔術によって梟と自身の魔術的な波長を合わせる事で、常に生徒を監視できるようにしたのだ。ただ、目を開けたままだと、自身と梟から得られる膨大なデータを脳が処理できないため、どちらかの情報を遮断する必要がある。レナードは自身の視覚のみ遮断して梟に合わせる事で、梟と自分の行動を両立させた。


「昨日の様子からしても今年の新入生は過去最悪ですね。精神が幼すぎる。」


「だが、この事はルール違反の問題とできよう。調査隊のメンバーが欠けていて、気付いているというのにも関わらず、長時間これを無視した。立派なペナルティだ。全員とまではいかずとも数人は退学まで追い詰められるだろう。」


「私としては彼ら全員退学でも良いと思っております。Sクラスの授業の一部を受け持っていますが、授業態度はかなり酷いです。自分たちが選ばれた者として驕り、そしてその力を弱者へと振りかざす。こんな者達にこの国未来を任せるなんて到底不可能です。」


「なまじ才能があるだけに数段タチが悪い。」


レナードはため息をつく。


「…お二人共、おはようございます。」


もう1人の教授も起きてきたようだ。


「生徒達はどうですか?」


「先程ほとんどの生徒が起きた。これから朝食を取るところだ。」


「…ライトくんは?」


「別行動で先に遺跡調査に行きおったわい。あんな奴らと寝食を共にするまでして来たんだ。なんだかんだですごく楽しみだったんだろう。」


「…ならば止める権利は我々にはありませんね。彼の行動は不問にしましょう。彼が少しでも楽しんでくれるように全力を尽くしましょう。」


「うむ。そろそろ我々も朝食といこう。」


レナードはそう言うと使役魔術と通信魔術を解除し、目を開けた。





「エレン嬢は何をしている!?!?」

突然、教授の1人が声を上げる。


「どうした?」


レナードが問いかける。


「エレン嬢が調査隊の半分を率いて遺跡付近の森へと入って行きました。」


「はぁ…。なるほどのう。大方、新たな遺跡を発見しようとしておるな。何をそんなに手柄に拘るのか理解不能じゃな。」


確かに遺跡の付近に別の遺跡がある事は珍しくない。だが、そんな事は国の調査隊はわかっている。闇雲に遺跡を探すより遺跡付近を探した方が効率が良い。それゆえ、現在発見されるている遺跡の付近は、全て調べられた後だと言って良いだろう。いくら将来を期待された才能を持つ若者の集団とはいえ、現時点で国の一流調査隊でさえ、見つけられなかった遺跡を発見出来るとは到底思えない。


「明らかな規律違反じゃ。王女とはいえ、厳しく処罰しよう。」


「…お二人方!!」


1人の教授が声を荒げる。


「私の使役獣が何者かにより次々と破壊されています!!」


「何だと!!!場所は!?!?」


「北西に約3キロです!進行方向は、遺跡…、いや、遺跡付近の森です!!」


「やはり王女が狙いか。」


ピョンド遺跡は人里やダンジョンから離れた所にあり、また、毎年王立学園の生徒が調査するため、一般人は立ち入り禁止とされている場所だ。近くに魔獣や薬草の生息地もなく、ギルドのクエストではまず名前は上がらない。


ただただ通りかかっただけとは到底思えない。


「他に仲間は!?」


「四方全てにおいて人影なし!!1人です!!」


「舐められたものですね。我々3人など護衛として取るに足らないということでしょう。」


こめかみに青筋を浮かべる。


「油断は禁物だ。これだけのことをするのに正面から真っ直ぐ来る。しかも1人でだ。並大抵の実力じゃないだろう。裏に誰がいるかも分からん。じゃが…、こちらにもこちらの仕事がある。即行捕らえて情報を吐かせよう。」


目に炎を宿し、言葉に怒気を含めたレナードが他の教授に言うと同時に3人は敵へと向かい動き出した。






「…グフッ…ゴハッ…。」


男が血を吐く。


「…とんだ戦闘狂じゃったな。」


レナードが発動した《錬金 水銀薔薇 囲》が、遂に男を捕らえた。


教授3人は満身創痍。レナード以外の2人に至っては立っていられないほどの疲労とダメージを受けている。


戦況はかなり劣勢だった。しかし、レナードの錬金術の攻撃を力任せに粉砕した際、敵の周りに飛び散った土にレナードは再度魔術を込め直し、無数の鉄の棘に変えて男を串刺しにすることに成功した。


急所は全て外しているが、全方位からの鉄の棘によって男は完全に身動きが出来なくなっていた。


いくら戦闘を主に仕事としてないとはいえ、王立学園の教授3人相手に互角以上の戦いをした奴だ。ただの冒険者とは思えない。


「…少しでも動いたら命はない。」


そうレナードは脅すと、剣を作り出して男へと向ける。


「はぁ…はぁ…。やるねぇ。流石天下の学園の教授サマたち。」


男はニヤニヤしている。


「…何が目的だ?」


今すぐ首を刎ねたい衝動を抑え、冷静に問いかける。


「分かってんだろ?王女サマだよ。」


「やはりか。裏に誰がいる?」


「言えないねぇ。例え拷問されたとしてもな。…それにもう手遅れだと思うぜ?

アンタらが俺を倒そうと躍起になってる間にウチの最強の召喚士サマが王女殺害へと動いたからなぁ!

いくら貴族の坊っちゃまが優秀だとしても、ワイバーンデビルに勝てるかい?」


「何だと!?」


(まずい!コヤツの言ってることが本当なら王女はもう既に…。しかしどうやって!?四方は彼警戒していたはず…。まさか!!)


ハッとなってレナードは空を見上げる。

今日は天気は良い。しかし、雲が一つも無いわけではない。大小様々な雲が空へ浮いている。ワイバーンデビルを召喚できるほどの召喚士だ。人を運べる鳥を使役していてもおかしくない。


「ご名答。だが気づくのが遅かったな。例え王女たちが逃げに徹したとしても、もうすぐ日が暮れる。死ぬのは時間の問題だな。

ヒャハハハハハハハハハハ!!

…そして俺もここまでだ。久しぶりに楽しかったぜ?地獄でまたヤろうぜ」


男は高らかに笑うと奥歯を思いっきり噛んだ。


「グフッ…ガハァッ!」


「!?毒を仕込んでおったのか!!」


しかし気付いた時には時既に遅し。

男は力尽きていた。


取り乱したのは一瞬。

すぐに冷静になり、自分たちの置かれている状況を瞬時に理解する。


護衛である我々は完全に足止めにされ、敵は少なくとも1人は居る。そしてその内の1人はワイバーンデビルを召喚するほどの手練れ。この3人では、万全な状態でさえ、ワイバーンデビルを相手するのには力不足。温室育ちの坊っちゃまにワイバーンデビルの相手が務まるとは到底思えない。

ハッキリ言って王女は既に殺されている可能性が高い。


ギリィッ


そんな状況に思わず歯軋りをした時、

森の上空に巨大な漆黒の魔法陣が形成された。


「なっ!?!?」


他の教授も目を見開いている。


あれはおそらく召喚の魔法陣。

だが、アレは規模が大きすぎる。

魔法陣は召喚する魔物の実力や魔力量に比例して大きくなる。

この魔法陣は、以前、マーリン様を含めた勇者パーティが力を合わせ、Sランクのドラゴンを召喚した時の魔法陣の何十倍もの大きさだ。


そして、その中央から


この世の終わりを知らせるような、全てを飲み込むかのような、禍々しいオーラが発せられる。



何十キロも先のオーラに当てられ視界が霞む。だが、レナードは確かに見た。



…冥王…ルシファー…



レナードの意識は闇へと消えた。

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