第9話 王女の命を狙う者 遺跡調査隊へ

ライトにとって地獄のような前期が終わった。前期と中期の間には約3週間ほどの休暇がある。他のクラスメートは自分の家に帰るべく用意や、休暇中の日程について確認しあっていた。


結論的に言うとライトは帰らなかった。

帰れなかった。一体どんな顔してみんなに会えば良いのかが分からない。幼少期からずっと面倒を見てくれた村人たちだ。ライトの些細な変化などすぐに見破るだろう。余計な不安はかけたくなかった。


学園の殆どの生徒は帰ってしまったため、

今学園に生徒は殆どいない。


「こんにちは。今日もよろしくお願いします。」

「おぉ、ライトくん。毎日毎日熱心だね」


ライトはそんな学園に休暇中も通っていた。教授達も彼の置かれている状況に責任を感じているのか、彼に差し入れを持ってきたり、課題を見てくれる。中には特別授業をしてくれる者までいた。

「今度私の家に招待しよう。美味しい料理も用意しておくよ。」

特にロイドは彼の面倒を良くみていた。ロイドの家族構成は長男ロイド 長女 次女 三女の4人兄妹。ライトを実の弟のように可愛がっていた。

「ありがとうございます。ロイドさん!」

そんなロイドにライトはよく懐いた。




日が上り、昼食を取り終わるとライトは学園を出る。その足で冒険者ギルドへと向かった。


「こんにちは。ライトさん!今日はどの依頼を受けますか?」


「…そうですね、この薬草採取のクエストをお願いします。」


「かしこまりました。」


学園で勉強した後、クエストを受ける。ライトは2年前、冒冒険者登録をしていたが、更新していなかったため、登録破棄されてしまった。破棄された後、一年は登録することができない。

ゆえに、誰でも受けられるFランクの薬草採取のクエストで黙々と生活費を稼ぐ。そんな生活を送っていた。


ある日のこと—



「!?

俺がSクラスと共に遺跡調査に!?」


休暇中、Sクラスや学内で優秀な成績な者が学園の費用で遺跡調査に赴くことができる。無論、一流の魔術師や、剣士である教授たちが付いていくので万が一のことがあってもすぐに対処できる。安全性は保証されているため、人気は高い。自立性を養いたいと思う貴族の子供も多いのだろう。1学期の基礎能力を試す良い機会でもある。


「あぁ。つい先日、家の都合で1人欠員が出てしまってね。代わりの者を探しているんだ。本来なら君はこの調査隊のリーダーになるべき人物だが…。どうする?」



将来、商人として貿易するのに、古来を学ぶことができる遺跡での経験は非常に重要だ。

商人の元へ、古代遺物などが運ばれてくることも少なくない。


「……。行かせてください。」


商人希望なら即答で行くと普通は答えるだろう。しかし、彼にとっては苦渋の決断だった。


今をとるか、未来の経験をとるか。

迷った末、かれは未来を取った。


「…わかった。説明や持ち物は明日、書類にして郵送しよう。」


本来なら、商人希望でなくても真っ先に「YES」と答えるだろう。

寧ろ彼が調査隊メンバーに選ばれていないことがおかしい。


彼の置かれている状況をもう一度理解し、教授は苦しい表情をした。





時は流れ遺跡調査前日—


「みんな良く集まってくれた。

今回、遺跡の調査隊を率いるのはこのワシ、レナード=フォールドだ。率いると言っても、ただの監督及び護衛だ。遺跡調査は基本君たちのみの力で行うんだ。」


「先生。少し良いですか?」


とある男子生徒が手を挙げる。


「何だね?」


「1人この場所に相応しくない者が居ると思うんですけど、それに対してどうお思いで?」


笑いながら教授へと問いかける。つられて他の生徒もクスクスと笑う。


「…我々はただこの場にいる資格があるかないかで考えておる。それは能力だけでない。気品や礼儀も考慮しておる。今の貴様の発言は我々教授を侮辱する行為にあたり、この場にいる資格がないのは貴様だと思うがの?」


「…っ!!」


男子生徒は悔しそうな表情をする


「ここにいる資格がある無しなんて関係ないわ。重要なのは私の駒として使えるかどうかよ。」


エレンの発言により男子生徒はすっかり抵抗力を無くしてしまった。


一悶着が終わったところで馬車へと向かう。馬車は大型、全部で7台。そのうち6台に生徒が乗り残り1台に教授達が乗り込む。ライトは生徒用馬車ではなく、教授用の馬車に乗り込もうと歩き出す。すると耳元で


「まぁ、平民風情が、私の駒になれるとは思わないけどね?せいぜい足を引っ張らないようにしなさい?」


エレンの見下した顔がライトのすぐ隣にあった。


一瞬目が合う2人。

その目は完全にライト軽蔑していた。

エレンはすぐに踵を返し馬車へと乗り込む。

ライトは黙ってその後ろ姿を見ていた。



「…ありがとうございます。俺のために」


馬車の中でライトはレナードへお礼を述べる。


「気にするな。当然のことをしたまでだ。それに、我々は誰に何と言われようとお前の評価を変えることはない。寧ろこうなったのも我々の責任だ。汚れ役ならいくらでも買うさ」


レナードにつられて数人の教授達も頷く。


「…っ!!」


教授たちの言葉に、様子にライトの目に涙が浮かぶ。


誰かに認めて欲しかった。自分を、自分の努力を。そんな想いが胸の中に溢れていた。


「…ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


蹲りながら声を上げて泣く。


その頭をぐしゃぐしゃとレナードが撫でた。



レナード視点


彼の涙を前にして自分の罪を理解した。

本当に彼には悪いことをした。


己が恥ずかしい。


自分の忙しさを理由にして、彼の置かれている状況を理解しようとしなかった。その結果、取り返しのつかないところまで来てしまった。


いくら彼が優秀であろうと、村からたった1人で来た18歳の少年だ。孤独で辛かっただろう。


この少年は後々大物になる。大勢の人間の命を、人生を救うだろう。この腐りかけた世界を必ずや変えてくれる、そんな確信があった。こんなところで朽ち果てるべき人間ではない。


だが、我々にそんな言葉を彼に掛けてやる資格はない。


私は無言で彼の頭を優しく撫でた。

他の教授も同じ思いなのだろう。


ただただ、それを見守った。

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