第8話 時は戻って(二話)

「…悔やんでも悔やみきれん」

ニックは呟く。

「学期末テストも彼は9科目中8科目満点。文句なしの学年一位です。」

「…ほう?あのライトくんが間違えたのかね?」

ニックは驚いた。8科目満点ということは、残り1科目はどこか間違えたのだ。

「えぇ。少しでも彼に有意義な学園生活を送って貰いたいと考え、私が全力で問題を作りました。今回は私に軍配が上がったようですね。」

悔しそうに、しかし、楽しそうに解説を聞きにきたライトを思い出し、ロイドは微笑する。

「…それより、中期はどうしますか。ライトくんの今後の成長を考えると、あんな有象無象たちと共にやらせるわけにはいきません。」

「安心せい。ワシも正直同感じゃ。いくら若く才能があろうとも、それを支える精神が幼い連中たちとライトくんを一緒にしたら、何が起こるかわからん。もう手遅れかもしれんが、彼が平穏で無事に、そして、少しでも楽しくこの学園を卒業できるよう手は打ってある。丁度先程アイツからも良い返事を貰ったところじゃ。」

「アイツ…?」

ロイドが首を傾げる。

「サプライズのつもりじゃ。学園史上初じゃよ、こんなことは。ライトには言うなよ?実はの——」


ニックの考えを聞いた時、ロイドは驚愕の表情を浮かべた。


「フフフ。ライトくんが驚く姿が想像できますね。」

「アイツの驚く顔もな。」

「それは楽しみです。」



そう言って2人は笑い合った。




ライト視点



「はぁ…。」

トボトボと街を歩く。初めはこれからの生活に対して胸を弾ませていた、が、

入学して数日でその思いは砕け散った。

幸い、教授達は自分の味方である。しかし、いくら高位の貴族である教授達でも、この人数の生徒を抑えるのは不可能だろう。何より自分を虐める生徒たち中には第一王女、エレンがいる。


村に帰りたい。


何度もそう思った。しかし、それは自分を信じてくれたみんなに対しての失礼に値する行為だろう。みんなと約束してしまった。立派な商人になって、みんなに美味いものを食べさせてやると。村をもっと住みやすくすると。


そんな商人になるためにはこの学園を卒業しなくてはいけない。


どんなに頑張っても正当に評価されることはなかった。いや、おそらくだが、教授たちは俺のことを応援してくれている。しかし、他の人がなんというかわからない。正当に評価しないんじゃなくて出来ないんだ。


前期のテストの順位はトップ10のみ廊下に貼り出されていた。そこに俺の名前はなかった。レナード先生やロイド先生を始めとする教授達が少しでも俺に危害が及ばないよう努力してくれていた。

ただ、不正の入学首席と噂されていた者が、トップ10に入っていなかったら他はどう思うだろうか。結果的に不正入学の噂がより信憑性を持ってしまった。

かといって一位に名前が記載されていたら、それはそれで不正だの何だの言われる。

要するに八方塞がりである。



入学当初、首席で卒業してやろう!

などと柄にもなく大きな思いを抱いていた。

そんな思いは今現在、カケラもなく。

俺が願うのはただ一つ。



……平穏に過ごしたい。

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