第5話 入学
「…はい。真実です。」
ライトは俯きながら言った。
「なんと…!!一体何があったのかね!?」
ニックはライトの両肩を掴み、すごい剣幕で問い詰める。
「…すみません。言えません。」
「何故だね!!どういうことかねライトくん!!君が学園へ入学するにあたってとても重要なことだ!!ハッキリ言いたまえ!!」
ニックが声を荒げる。
「落ち着いてください。ニック学園長。」
「ロイドくん!?しかしだな!」
「…ライトくん。君の才能は認めよう。しかし、君が今こうやって学園へ通える事になったのは誰のおかげかい?」
「……。」
ロイドに言われ、無言のまま俯くライト。
「何か事情があったんだろう。しかし、それは我々、特にニック学園長は知る権利があるんじゃないかな?君を信じ、ここまでしてくれた彼にも話せない事なのかい?」
「……わかりました。お二人には真実をお話ししましょう。いえ、お見せした方が早いですね。ここは、丁度周りに家がない原っぱです。馬車を止めて頂けますか?」
「承知した。ロイドくん、今は彼の言う通りに。」
「…分かりました。」
ロイドはそういうと、馬車を止めさせた。
「…このことは他言無用でお願いします。」
「うむ。無理言ってすまないのライトくん。」
「いえ。正直怖かったんです。お二人に嫌われるのが。しかし、先程のロイド様のお話で目が覚めました。ニック学園長が、ロイド様が認めてくださったように俺もあなた方を信じます。」
「ありがとうございます。」
ロイドはそういうと、微笑んだ。
「まず、私の魔術ですが、全く使えなくなったわけではありません。」
「…というと?」
「平均よりやや劣りますが、使うことはできます。やってみせますね。」
ライトは左手を掲げる
「《ファイアボール》」
ライトの左手から火の球が出る。
しかしそれは20メートルほど行ったところで完全に消えてしまった。
「ふむ。確かに平均よりやや劣る程度だろうな。」
ーが。それはあくまでも全体としての平均。この程度威力なら学園ではEクラスは確定だろう。
そう思いニックは横にいるロイドをチラリと見る。彼も同じ思いだったのだろう。すこし苦しそうな顔をしている。
だが、ニックはなぜ彼の魔力量であれだけの威力なのか想像もつかなかった。
本来、彼の能力値を見るからには、彼を中心に半径100メートルほどが消滅してもおかしくないレベルなのだ。
それが、なぜ?
そう問い詰めるように2人はライトを見つめる。
彼は少し悩みながら重々しく口を開いた。
そして、驚愕の事実を喋り始めた。
「実は——」
「王都までもう少しです。」
馬車の行者の言葉でライトは目が覚める。
いつの間にか寝てしまっていたらしい。
「体調は大丈夫かね?」
心配そうにニックが尋ねる。
「大丈夫です。ありがとうございます。」
目を擦りながら欠伸をする。
「…しかし、驚きました。まさか…、まさかでしたよ。今でも悪い夢のように感じてしまう。」
ロイドがポツリと呟く。
「全くじゃ。これから先何が起きても驚かない自信があるわい。」
「…しかし、そうなると困るのはやはりライトくんですね。魔術はあまり使えませんし、かといってライトくんのステータスを見せるわけにもいかない。職業である召喚士はほぼ機能してません。モンスターどころか虫1匹すら召喚できないでしょう。」
「…すみません。練習しておけば良かったです。」
「いえ、君が悪いのではありません。召喚士っていう役職は最も扱うのに練習が必要とされています。こればかりは才能ではなく本格的な知識と理解です。仕方のないことです。ただ、そうなってくるとライトくんが召喚士として学園へ入学することは叶わないでしょう。」
「え!?ど、どうしてですか!?」
「召喚士の授業では理解と実演を同時進行で行なっていきます。今の君が使用できる魔力量はせいぜい500〜600といったところでしょう。一般に、モンスターを契約し、召喚するには最低でも1000必要です。今の貴方では授業についていくことはおろか、授業を受けられない可能性が高いです。」
ロイドは苦虫を噛み潰したような表情をする
「……やることは一つしかないようじゃの」
「…残念ながらそうですね。なるべく彼の意見を尊重してあげたかった。」
ニックとロイドが顔を見合わせ、頷きあう。
「えっと…どうすれば?」
何が何だか分からないライトがキョトンとして2人に尋ねる。
「「君のステータスを偽造する」」
「す、ステータスを偽造?」
目を見開くライト。
「そうだ、まぁ正直、元々そうするつもりだった。君の能力を世に晒すわけにはいかんからのう。」
ニックとロイドは頷いた。
「職業は…そうですね、剣士、なんてどうでしょう?職業別授業も魔術を使用する機会が少ないですし、彼は剣術もやっているらしいので適当かと思いますが…。」
「…ふむ。一理あるな。ライトくんはどうかね?」
「俺は剣士で大丈夫です!」
「決まりじゃな。
ステータスは…こんなもんでいいかの?」
ライト=ファーベル age17
職業 剣士
魔力適正 なし
魔力容量 523
潜在魔力容量 0
身体能力 795
知能指数 51
総合評価 E
「…あ、はい!」
「よし。ならこれで登録しよう。ライトファーベル、君の入学を歓迎しよう。」
「ありがとうございます!ニック学園長!」
「…まだ試験がありますからね?油断しないように。」
クスリと笑ってロイドが呟いた。
馬車の中で一泊して翌朝。
「着きました。王都です。」
いつのまにか門を通り抜けていたらしい。
御者の声が響く。
「ありがとう。次も頼むよ。」
ロイドはそう言ってチップを渡す。身分だけでなく、人としてもかなりの人物なのだろう。
「では私はこれで!」
チップをもらった行者は嬉しそうに一礼すると、何処かへと去っていった。
「…では我々も行こうかね。」
ニックを先頭にロイド、ライトと続く。
この町でロイドとニックを知る者は多いらしい。先ほどから人々の視線が痛い。
ここはファマイル王国、王都セレスティア。
四方を城壁に囲まれる王国最大の城下町だ。
その中央に聳え立つのが王城セレスティア。毎年改修工事が行われ、現在でも新築のように輝いている。別名、星歌の明城。
年に一度、王国創立記念日に聖女達が星に願いをするように歌う。そこから来たのだとか。
今日も王都は沢山の人々で賑わっている。
暫く歩くと大きな建物が見えてくる。
「着いたぞ。ここが王立学園じゃ。」
伝統的な門、広大な敷地、そして、何より馬鹿でかい校舎。この国の学園の頂点にふさわしい外見だ。
「外見だけではないぞ?中身もじゃ。ここの研究室には国の最先端技術が集まる。設備、講義内容、全てが我が国一であることを保証しよう。」
ニックがライトに微笑んだ。
この学園を卒業してこの国を任される人物になっても、母校に愛着を持つ者が多数いるらしい。学園内の研究室で更に研鑽を積むものが殆どだそうだ。
そしてその中にはこの国最強、大陸一と呼ばれる賢者マーリン=ティエンジェルもいる。
時々フラッと遊びに来ては教授や生徒たちが大慌てするのを見て楽しんでいるようだ。意外とお茶目な性格なのかもしれない。
「…一先ず学園長室に荷物を下ろしましょう。その後、試験を受けてもらいます。合格点は言えませんが、君なら心配ないでしょう。」
「わかりました。ありがとうございます。精一杯頑張ります!!」
「…フフッ。期待していますよ。私は君の入学にあたっての諸々の手続きがあるのでこれで失礼します。」
そう言ってロイドは去っていく。入学することが確定しているかのように言う彼の言葉に、ライトは嬉しく思いながら、彼を失望させてはならないと少し緊張した。
「…じゃあ、早速やってもらおうかの。ワシも期待しておるぞ。ライト。」
「はい!ありがとうございます!よろしくお願いします!」
ニックに連れられてライトは試験教室へと向かった。
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