第6話 入学式

「ここが君がこれから生活するところじゃ。」


ニック学園長に連れられてきたのは築50年ほどのアパートで、中は意外にも綺麗な1LDKの部屋だった。


「…すまないの。本当ならもっと良いところであるべきなんじゃが、ワシもロイドくんも立場上厳しいんじゃ。これで我慢してもらえるかの?」


「はい!すごく気に入りました!ありがとうございます!」


「そう言ってもらえるとありがたい、

今夜はゆっくり休め。また明日学園に来なさい。案内してあげよう」

そういうとニックは去っていった。


とりあえずライトは荷物を整理する。

これからの生活に胸を弾ませながら。




一方その頃、王立学園内—


「…信じられん。全科目満点だと!?」

一人の教授が驚愕の声を上げる。

「確かにこの学園の入学試験は易しめに作ってあるが、これは一体…。」

そう、王立学園の入試問題は基礎の問題が殆どだ。下手に応用のみ理解し、物事の根本的に部分を理解していない者を振るい落とすためである。合格者平均得点は7割弱だ。

しかし、基礎問題のみではない。真の天才と凡夫を分けるために超難問を出している。ここの学園は基礎の問題さえ落とさなければ入学することができる、だが、

「…マーリン様が発表したの熱波動においての異空間からの多次元世界への介入公式の証明を完璧にこなしておる。確かに基礎知識のみで解けるかもしれんが!!」

偶々論文を見る機会があったのかもしれない。しかし、それ以外の難問も難なく解いている。

「…試験監督者として断言します。万が一にも不正は行っていませんでした。」

ライトの試験監督を行っていた若い教授が言う。

「問題を事前に入手したと言う可能性は?」

「有り得ません。厳重に保管されています。受験者から漏れたこともないでしょう。彼が彼の故郷を出たのは昨日です。その間ニック学園長とロイド教授が付いていたので間違いありません。」

「…ふむ。そうよなぁ」

王立学園の一般の入試試験は昨日だ。その間、ニックとロイドといたライトは、他の受験生と接触した可能性はない。

「…失礼ですが学園長。事前に解答を彼に知らせたりは?」

「するわけないじゃろ。寧ろワシが解答を知りたいぐらいじゃ。」

「私も家の都合で今回問題作成へ関与しなかったので…」

ニックに続きロイドも答える。

「…なら、疑う可能性は0の様ですな。紛れもなく彼は逸材と呼べるでしょう。」

一人の教授がそう言うとほぼ全ての教授が納得する。それを見てニックとロイドは笑いながら頷きあった。

やはり彼等は家柄に囚われず、個人の能力を適切に判断してくれる。さすが天下の王立学園の教授といったところだろう。


「普段ならば間違いなくSクラスへの入学じゃが…。」


「それは厳しいでしょう。彼以外のこの学園の生徒は皆、無駄にプライドのみを持つ貴族が殆どです。自分より上に平民が立つことを許すとは思えない。さらに彼のステータスも平均より低めです。」


「入学時のステータスは学園内で適切な指導を受ければ大きく変わる。それは関係ないんじゃないか?」


「問題なのは『今』Sクラスにいるということです。いくら将来を期待されていたとしても、周囲はおそらく納得しないでしょう。」


「…しかし、このままEクラスへと入れては彼のメンツがないぞ?平民嫌いな貴族どもがこぞってバカにするだろう。」


唸るニック。


「えぇ。ですから、入学式の際、代表で挨拶をさせたいと思っております。」


「今試験首席のエレンくんを差し置いてか?しかし彼女へはもう代表挨拶の依頼をしてしまっておるし…」


「それでは、前代未聞ですが、筆記試験首席と実技試験首席での挨拶というのはどうでしょう?これで少しは彼の能力を周囲も認めるはずです。」


「それはいい!名案だ!すぐに彼に依頼せよ!」


とある教授の意見に対し、反対する者は居なかった。ニックやロイドもこれで一先ず安心する。現代の平等の精神が生徒にも宿ってると誰も信じて疑わなかった。



ゆえに、それが逆効果であることをこの時点では誰も気が付かなかった。







「身支度よし!!」


ニックに連れられて学園の試験を受けてから約1ヶ月。王都での生活にも慣れてきたところだ。


今日は王立学園入学式。しかもライトは新入生代表挨拶を任されている。クラスこそ最低のEクラスだが、村の人々に手紙で知らせたところすごい喜んでいた。


差し入れに大量の野菜が送られてきた。


「こんなにあっても食べきれないっつーの。全く皆んな何考えてんだか。」


そう苦笑する。

村人たちの好意がこそばゆい。


「俺も期待に応えなくちゃな…。」


そう決意すると学園へと走る。すれ違う人達に微笑まれる。17歳になったライトの表情はまるで子供の様だ。これから始まる生活に対して楽しみで仕方ない、そんな思いが全身から溢れ出ている。街の人々も青年の幼い一面を見て心が温まる。



そして入学式——


「諸君らはこの国の未来を担っていく者だ。日々努力を怠ることなく、精進したまえ。」

学園長であるニックが喋る。

その隣には補佐としてロイドが立っている。


「新入生代表挨拶、実技試験首席、エレン=ルイ=ファマイル!!」


「はい。」


金髪の美少女が壇上へと上がる。


「……

この国を担う者として精進することを誓います。以上、首席、エレン=ルイ=ファマイル」


挨拶を終え、一礼をする。

講堂に響く大歓声と拍手の嵐。


「静粛に。」


ニック学園長が言う。

あれほどうるさかった場が一瞬で静寂へと変わる。流石貴族の子供達。礼儀や作法においては完璧らしい。


「次に、筆記試験首席、ライト=ファーベル!」

「はい!」


大きく返事をすると壇上へと上がる。

周囲からはどよめきの声が多数上がる。


「誰だアイツ?」

「わかんねぇ。」

「筆記試験首席ってことはエレン様より頭良いってこと!?」

「そんなわけないだろ!エレン様が首席だぞ!」


ギリッ!そんな中1人、奥歯を噛み締める人物がいた。エレンだ。初め、エレンへ届いた依頼は『試験』首席の挨拶。しかし数日も経たないうちに変更として『実技試験』首席と変更された。今まで何事も1番だった彼女は納得がいかず、学園へと直談判した。

しかし、彼の成績を見せてもらいエレンは驚愕した。筆記試験満点。己が手も足も出なかった難問を難なく解いたのだ。事情により彼は実技試験を受けなかったらしい。そして彼は学園長直々の推薦によって入学した。しかもそれは他の教授も満場一致で決まったとのこと。


(絶対に裏がある!!

暴いて退学にさせてやるわ!!)


彼女の目は復讐で燃えていた。


そんなことを知るはずもなく、ライトは挨拶を続ける。


「……日々怠ることなく精進することを誓います。以上新入生代表、ライト=ファーベル!」

一礼をする。


ニックとロイドは彼と目が合い微笑んだ。

ここから始まるのだ。ライトの輝かしい学園生活が。

2人はまるで自分の子供の晴れ姿を見るような、優しい表情をしていた。

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