第3話 ニックとの出会い
彼を一言で言うなら『バケモノ』だった。
田舎の普通の農民の子として産まれた彼は、5歳の時、村を襲ったランクDモンスター、デビルバードを本能のまま魔術を使い撃退した。
(モンスターにはランクが付けられている。上からS A B C D E Fある。 Dは一般の成人冒険者が何とか倒せるレベル)
魔術とは、人が生まれ持つ力、魔力を制御して使用する。魔力とはいわばエネルギーだ。簡単に言うと魔力を体外へだし、変化させてできたものが魔術と呼ばれるもので、魔術を扱うには相当の訓練と教養が必要となる。一般的な初等魔術使用の平均年齢は15、16。貴族の子として産まれたのならば、15歳まで専門の魔術学校で魔術を学び、18歳で王国各地の学園へと入学していく。中でも王立学園は最難関と呼ばれていて、無事卒業するだけでも名誉とされ、就職でのかなりのアドバンテージになる。
齢5歳の彼が、魔術を使ったことは村の人を大いに驚かせた。村始まって以来の大天才だ!と人々は口々にライトを称えたが、同時に危険視もしていた。いつ、自分たちに被害が出るか、わからないからだ。
しかし、そんか人々の疑心はライトが成長するにつれ、どんどん無くなっていった。
彼はどこまでも温厚で、決して奢らず、誰にでも分け隔てなく優しい、努力家だった。
村の大人たちの様子から、彼も自分自身の力に気が付いたらしい。6歳になる頃には自分の才能を育てるべく、剣術、魔術の修行へと励んでいた。特に魔術の才能は凄まじかった。
彼が成長するにつれて、村の人々は消えていく疑心と共に、とある不安が芽生えていった。「このままでは、将来、彼は貴族や王族に良いように扱われる」と。彼はこのまま成長すればいずれこの国、いや人類を代表する人物となるだろう。もし、貴族や王族が彼が力を付ける前に才能を見つけてしまったら。立場の違いを利用し、奴隷や召使として、貴族達のアクセサリーとして、優秀な駒として取り合いになるだろう。
「彼の無邪気な笑顔を守りたい。」
そういった願いもあり、彼の能力は村人のみの秘密となった。
彼も幼いながら、意図を理解したのだろう。
村の来客相手に力を見せつけるようなことはしなかった。ただ村の危機になるとすぐに戦い、そして人々を守った。彼のおかげで何度も盗賊や魔物の攻撃を退けた。
彼も自分がみんなの役に立てることが嬉しくて仕方なかった。日々剣術、魔術、勉強を励み、村の人々や両親に「すごいねぇ」と褒められることを何よりも喜んだ。
そんな生活が10年程続いた。
「職業判定ですか?」
村の長に呼ばれたライトは目の前に座る長へと問いかけた。
「そうだ。お前ももう15歳になる。これからの将来を考える為にも自分を理解することが大切だろう。」
ライトは長が言いたいことを瞬時に理解した。
「っ…!!僕はこの村にずっと住みたいです!!大好きなみんなと、自然に囲まれて過ごしたいです!!」
長は職業特定し、ライトを村から出すつもりだろう。彼の将来のために。
「そうか…。」
身体が大きくなり、さらに大人びたライトだったが根本的な思いは何一つ変わってないらしい。それを長は嬉しく思った。
「…だが、この村はお前にとって狭すぎる。お前の才はこの国おろか全人類にとっても貴重なものだ。それをこんな田舎の村で腐らすにはおしい。」
「…しかし!僕は!」
「わかっておる。これほどまで長として嬉しいことはないぞライト。だが、だからこそ、自分の才を見誤らないでほしい。やりたいことを外で探すが良い。無理だったらまたここへ戻ってきて来れば良い。」
「…分かりました。」
渋々ライトは折れる。
「うむ。鑑定士は明日来る。今日は家に帰ってやりたいことを考えなさい。」
「はい…。ありがとうございます。」
そう言うとライトは自分の家へと戻る。
「これからどうしよっかなぁ…」
空を見上げながら呟いた。
同時刻—
とある田舎の村へと向かう一つの馬車があった。
今回の依頼は15歳の少年の鑑定だった。
「…不思議じゃの。貴族ならともかく、こんな田舎の、それもたった1人の少年のための依頼とは。」
小太りの白髪の老人、ニック=ラザハールが呟いた。
不可解な点は他にもある。
依頼を受ける上で要求された条件である。
鑑定の結果は誰にも言わないこと。
少年の名前も誰にも言わないこと。
鑑定は1人で行うこと。
これはどう考えても普通の依頼ではない。
高位な職業に就くには自身の『職業』はかなり重要になってくる。
冒険者なら尚更だ。ギルドに名前と共に登録しておいた方が後々クエストを引き受けるのに都合が良いのは明白だ。
「相場よりかなり高いしのぅ。」
ニックがこの仕事を引き受けたのはただの好奇心によるものでしかない。元々鑑定士という職業を使い、とあるギルドの長を務めていたが、その経済手腕を買われ、来年からファマイル王国王立学園の学園長に指名されたのだ。なので鑑定士として最後の仕事をしようと思ったところ、この仕事が目に止まった。
考えられない場所。相場より高い給金。不可解な条件。何か裏があると思うのは当然だろう。
「ま、行ってみればわかるわい」
そう言って馬車で仮眠を取り始めた。
翌日。
「ライト。もうすぐ鑑定士さんがいらっしゃる。失礼のないようにな。」
「はい。村の評判を下げぬよう気をつけます。」
「良い答えだ。…ところでなりたい職業は決まったかな?」
「…一応決まりました。」
「ほう?なんだね?」
「武器商人です。」
「なぜ?」
村の長は驚いた。ライトの能力なら騎士なり魔術師なりもっと違うモノを言うと思っていたからだ。
「僕の剣術の経験を活かして、様々な剣を作りたいと思っています。それに、魔術を活かして対魔物用の薬も作りたいとおもっています。優秀な武器や薬さえあればダンジョンの死亡率は下がります。また、商人を通じることでこの村の発展にも役立つと思いました。」
「うむ。お主らしい理由じゃな。きっとなれる。信じておるぞ。」
「ありがとうございます!」
ライトは笑った。
丁度その時、村の入り口が騒がしくなる。
「…いらっしゃったようだ。ライト、さぁ早速見てもらいなさい。」
「はい!どんな職業が出るか楽しみです!」
そう言って走っていくライト。
「…ふふ。」
その後ろ姿が幼き頃の無邪気な姿を残しているようで、長は少し嬉しく感じたのだった。
村へ到着してすぐ鑑定が始まった。
ライトとニックを囲むように見物客が大勢集まっている。
「ライトとか言ったな?では始まるぞ」
「はい。よろしくお願いします。ドキドキしますね…。」
胸に手を当てて深呼吸するライト。
「みんなそうだ。安心せい。」
「はい。ありがとうございます!」
「…ふむ。職業は『召喚士』じゃな。」
「召喚士?」
「主に魔物や動物を使役して呼び出す職業じゃ。テイマーに似ているが、使役できる数が限られておる。しかし、テイマーと違い、どんなに離れた場所でも、契約してあれば呼び出すことが出来るぞい。」
「なるほどなるほど!ありがとうございました!!」
「うむ。」
「ほー!ライト召喚士らしいぞ!」
「召喚士だ!召喚士だ!」
「ねぇ、ママー、しょうかんしってすごいの?」
「ライトがなったんだから凄いに決まってるよ!」
「すごいぞ!ライト!」
口々にライトを褒め称える村人達。
ライトは恥ずかしがりながらも褒められて嬉しそうだ。
「…なんならステータスもみてみようかね?」
「え!良いんですか!是非お願いしたいです!」
「構わん構わん。最後の大サービスじゃ。ほれ、近う寄れ。」
「は、はい!」
「ふむ…。どれど…っっっっ!!!!」
ニックは驚愕で目を見開く。
「…あ、あの?どうでした…か?」
ライトが心配そうに尋ねる。しかし、ニックには全く届いていない。
(バカな!!あり得ん!!
身体能力7000を越えているだと!?
これは剣聖の能力値に匹敵する!!この若さで!?
そして何より恐ろしいのが魔力量じゃ。
まるで底が見えん。信じられんが…、紛れもない事実じゃ。)
冷や汗を流しながら眼前の少年を見る。
(…なるほど、コレがあのめちゃくちゃな依頼の理由か。これほどの力を平民が持っていると知られれば、貴族は我先にと手に入ようとするだろう。例えどんな卑劣で残虐な行為をしようともな。
この少年を村一丸となって守ろうとしておるのか。それほどの人物というわけか。)
「…少年よ」
「…は、はい!なんでしょう?」
「お主、将来何になりたいんじゃ?」
「まだハッキリとは。しかし、商人になってダンジョンで死ぬ人が少なくなるような武器を売りたい、この街を発展させたいと思っております。」
「…そうか。」
(欲のない、純粋無垢な心。
己の力をひけらかす事なく、村の恩人ために使うか。
皆に慕われるのもよくわかる。)
「…あの?鑑定士さん?」
黙り込んでしまったニックを心配して、ライトが尋ねる。
「ライト君よ。よく聞きなさい。君が言った様な商人になるためには学歴が重要じゃ。今のままのお主では到底なれそうにないな。」
「…そんな。」
顔を青ざめるライト。
「2年後、」
「え?」
「2年後またここへ来よう。
お主をファマイル王国王立学園長ニックとして入学を推薦する。」
「え…?え…?」
「また会おう。少年。君の将来に光あらんことを。」
そう言ってニックは馬車に乗り込み、村を出て行ってしまった。
村の人々は全員何がなんだか分からないような顔をしていた。
「…ライト、お前王立学園に推薦されたんだよな?」
「…そう…なのかな?」
「すげぇ!!すげぇ!!流石ライトだ!」
「俺たちの期待の星だ!」
「そうと決まったら早速入学準備をしなくちゃな!!」
「アンタ!聞いてなかったのかい?2年後って言ってたよ!!今から準備してどうすんのさ!!」
ワイワイガヤガヤと盛り上がっていく人々。
その主役は未だ何がなんだか分からずポカーンとしていた。
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