第2話 王女との出会い
時は遡り一年前——
「はぁ…。毎度毎度嫌になってくるな。」
そう呟きながらカバンに入れられたゴミを捨てる。
ここはファマイル王国王立学園。
国の未来を担うエリート達が集う場所。
クラスはS A B C D Eと分かれており、1クラス約30人、全校約600人に満たない3年制の学園である。
そんな学園に似合わない、見るからに貧しい格好をした男子生徒がいた。
彼の名前はライト=ファーベル18歳。所属一期生Eクラス。出身が平民であるため、他のクラスメートや先輩からイジメを受けていた。
「…ったく。何が市民平等だよ。身分制度バリバリのいいお手本だな。」
そう呟くと靴を履く—が、
バッシャーン!!
急に後ろから水がかかる。全身びしょ濡れになるライト。
「わりぃわりぃ。魔術の練習してたんだけどさ〜!あたっちまったわ〜!」
赤い髪でガタイのいい男子生徒、ガニス=レーベルが嗤う。
ピアスをしており、見た目は超チャラい。
(何が魔術の練習だよ。室内の、学園の廊下でやるわけがないだろ。しかも授業以外での学園内での魔術使用は禁止されてるだろうが。)
そう言いたい気持ちをグッと堪え先へ進む。
「…あ?何シカトしてんだよ。テメェみたいなゴミが俺様に何か文句でもあんのか?」
ガニスはライトの前へと回り込み、胸ぐらを掴みあげる。
「…すみません。」
「…ケッ!わかりゃあ良いんだよ!!」
そういうと、ライトをそのまま投げ飛ばした。
「グハッ…!」
壁に背中からぶつかるライト。それを見て
「ヘッヘッヘ!ざまぁねえや!」
いつの間にか周りに人が集まっている。
誰も彼を助けようとせず、むしろ彼の状況を見て笑っている。
「…チッ」
ライトは小さく舌打ちするとその場を去ろうとする。しかし、
「その態度、気に食わねぇな。1発殴らせろ!!」
ガニスが襲いかかる。
「ガハッ!!」
ガニス渾身の右ストレートを喰らい、ライトは廊下の奥へと吹っ飛んだ。
「ハッ!よっえぇ!おいおい?まだくたばんなよ、サンドバッグ君?」
腕をボキボキと鳴らしながらライトへ迫る。
もう一度ライトを殴ろうと近づいて行く。
その時—
「一体これは何の騒ぎ?」
澄んだ声が廊下へ響く。
と同時にその声の持ち主へと視線が集まる。
第15代国王の愛娘。第一王女エレン=ルイ=ファマイルだった。
「エ、エレン様、も、申し訳ありません!」
ガイルは土下座した。
「謝罪を聞いているんじゃないの。何があったかを説明しなさい。」
「は、はいっ!!平民のゴミが無礼な振る舞いをしたので、仕置きをしました!!」
「…ふぅん。そう。」
震えるガイルを通り越し、ライトの前へ立つ。そして
「ガフッ!!」
ライトの腹へ蹴りを喰らわす。お腹を抑えて蹲るライトの頭へ足を乗せて
「アンタみたいなゴミが居ると目障りなの。さっさと消えなさい?」
そう言うと踵を返す。そして廊下の奥へと消えていく。次の瞬間、
ワァァァァァァァ!!
大歓声が廊下に響いた。
「かっこいいわ!流石エレン様!!強く美しい!あ〜憧れるわぁ」
「すげぇ!やっぱすげぇなエレン様!!首席なだけあるな!!」
「将来パパに頼んでエレン様とお見合いしてやるんだ!!そのためにはもっと勉強頑張んないと!!」
「ハッ!!平民風情がエレン様に蹴ってもらえたんだから感謝しろよ!!」
「にしても何でこんなゴミがここに入れたんだろう?」
「お前知らないのか?学園長のコネだよコネ!!貴族だけ入れるんじゃなくて表向きに平民を入れとくんだよ!!自由平等(笑)ってよ!!」
「ハハハ!!こんなゴミと平等なんて世も末だね。」
「私絶対認めないから。早く出てってくれないかしら?実力のないコネ入学者は」
「ホントそれなぁ!!」
エレンを称える声は次第にライトへの暴言へと変わっていく。
それから少し経って騒ぎを聞きつけた教授たちによって場はまとめられ、今回の騒ぎの中心となっていたライトは学園長室へと連れて行かれた。
そして時は流れ、ライトは学園長室に居た。
本棚には古びた書籍が並んでいる。そして中央に大量の書類が置かれている机。その椅子には小太りの白髪の老人がいた。
「ライト君。毎度毎度大丈夫かね?」
「はい。ニック学園長。怪我は全くありません。この度は騒ぎを大きくしてしまい申し訳ありませんでした。」
「なら良いんだが、本当に怪我していないのかね?」
「はい。むしろ演技する方が難しかったです。しかし、今回、水魔術を全身に掛けられました。教科書やノートはダメになってしまいました。」
「…またか。全く。こんな者たちがこの国の未来を担うと思うと本当に頭が痛くなる。お主もそう思うだろ?」
「…同感です。私も、他の教授たちも彼の能力、学習意識の高さには一目置いております。今回もそれを良く思わない生徒の一方的な暴行でしょう。甘い蜜を吸いながら生きてきた温室育ちの坊ちゃんたちは、他者を非難する前に己を見直すということができない。しかも、その内の1人にエレン嬢がいる。このままだとこの国はどんどん腐るでしょう。」
と、学園長の横に立っている小さな丸い眼鏡を掛けた若い教授が言う。
彼の名前はロイド=フェルマー。円卓会議に席をもつフェルマー家の長男だ。ゆくゆくは家を継ぎ、この国を支える大臣となるだろう。
「そうじゃよなぁ。13代国王の類稀なる政治手腕によってようやく身分制度が撤廃されたというのに。このままだと崩壊まっしぐらじゃ。今の円卓会議のメンバーが変わったらこの国の終わりじゃろ。早急に何とかしたいもんだが…」
そう言ってニックは頭を押さえる。
「正直言って厳しいでしょう。いくら家力に差があるといっても貴族の血をひく生徒が大勢います。そして何よりエレン嬢がいる。学園での更生はほぼ不可能とみていいでしょう。我々に出来ることといえば、必要な知識を教え、彼らが社会へ出た際に、己の過ちと社会の現状を理解することを願うのみです。
…君には本当にすまないと思っている。
教授を代表して謝罪する。」
そう言ってロイドは頭を下げる
「よ、よしてください!ロイド様!貴方が謝る必要などありません!!」
この国に三家しかいない第一公爵家の長男が平民に頭を下げる。これはとんでもないことだ。
「いや、我々には君に学ぶ環境を提供する義務がある。そこに爵位や身分など関係ない。君には我々を非難し、学園生活の改善を要求する権利がある。だが、今の我々にはこうして頭を下げる以外に出来ることは何もないのだ。」
「しかし…。」
「…まぁ今回は怪我が無くて良かった。汚れた制服と濡れた教科書は新しい物を支給しよう。」
「ありがとうございます。では、失礼します。」
そう言うと、ライトは学園長室から去る。
ドアが閉まる音が学園長室に鳴り響いた。
「…ニック学園長。」
「何だねロイド君。」
「悔しいです。彼ほどの逸材が、努力家が、こんな汚い場所で埋もれるなんて。それを見ていることしかできないなんて。」
「そうじゃの…。彼が仮に貴族であったら、まだ未来に希望がみえだろう。5代国王から続く伝統あるこの学園もそろそろ終わりの時を迎えるかものう。」
「…はい。」
苦虫を噛み潰したような顔をする2人。
そんな2人の視線の先には2枚の紙があった。
ライト=ファーベル age 18
職業 召喚士
魔力適正 闇
魔力容量 測定不能
潜在魔力容量 測定不能
身体能力 7580
知能指数 251
総合評価 測定不能
ライト=ファーベル age18
職業 剣士
魔力適正 なし
魔力容量 568
潜在魔力容量 0
身体能力 825
知能指数 51
総合評価 E
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