第4話 初めてのスキル

 円球に触れてメニューを開いた。”???”の表示が”スキル”に変わっている。”スキル”に触れると”剣術”という表示があり、即座にその文字に触れた。


剣術・・・剣による攻撃・命中が上がる。”剣技”を使える。

 

 なるほど。木刀は剣の一つということだろう。次に”剣技”に触れてみた。


諸手突き・・・構えてから強烈な両手突きをお見舞いする。少し遠い距離でも攻撃を当てることができる。


 このスキルがあれば、部屋の角へ行かなくても個別にスライムを撃破できるのでは?ちょうどよくスライムが近づいてきた。

 俺は、右足を少し前に出し、木刀の端を握る左手を強く握って意識する。右手を軽く添えた。剣先を静かにスライムへ向けた。

 これが、構えだ。

 こんなお手本のような綺麗な構えを普段の稽古でできていただろうか。

 俺は不思議と落ち着いている。


 一歩ひたりとスライムが近づいてきた。

 ”構え”は1行動と見なされるようである。

 さて・・・、この距離であればスライムからすぐには反撃を受けないだろう。まさに少し遠い距離・・・だ。

 俺は、流れるような動作で諸手突きを繰り出した。剣術を取得した効果であろうか。スライムは一撃で地面に溶けるように消えた。一撃で倒せる。これはでかい。

 次々と近づいてくるスライムに突きをお見舞いした。さっきまで苦戦していたのが嘘のようだ。面白いようにスライムを楽々と倒せた。

 ふと力がみなぎる感触がする。レベルアップだ。普通はどんなトレーニングでもこつこつと力がつくものだが、あるタイミングで一気に力がみなぎる高揚感。素晴らしい。癖になる感覚だ。

 っと、調子に乗って剣を振り回すと空腹につながる。空腹はレベルアップでは満たされていない。効率よく動くことを徹底しなくては。


 スライムを倒しながらアイテムを回収した。やはり、この階層はこの部屋のみのようだ。手に入れたアイテムはパンと薬草。

 空腹ゲージが1/4程度となっている。偶然・・・なのかどうかはわからないが、剣術スキルを獲得したおかげでスライムの脅威はほとんどなくなった。だとすると、一番の問題はやはり空腹だ。

 最初にあったパンの残りを全部食べた。ゲージは半分程度まで回復した。さっき食べた回復分を考慮すると、パンひとつでゲージ半分程度の回復量といったところか。

 俺はさっき見つけた下へ降りる階段の前へ移動した。

 空腹ゲージは半分ほどではあるが、一応、次の階層でダンジョンが終わるはずだ。どういう仕掛けとなっているかわからないが、ゴールを見つけたら即クリアすればいい。俺はゆっくりと階段を降りた。


 気づくと細い通路にいた。コンクリートで固めた人工の冷たい通路だ。今までのゴツゴツとした洞窟のような様相とは違う。地下3階。不気味な特別感を感じる。さっきと同様に降りてきた階段は周囲にはない。どちらへ行くか。前か後ろか。とりあえず、前へ進んだ。

 

 今までの通路と比べると随分明るい。そして、遠くまで”観測”できるようになっている。地下2階は部屋なので気づかなかったのだろうか、レベルアップの効果かもしれない。この観測範囲が広がることで索敵能力が上がったわけだが、これが幸を奏した。


 少し先に部屋を見つけた。

 その部屋の中には遠目でも異常に大きく見えるスライムがいた。ボススライムってやつだ。普通のスライムに比べて4倍ぐらい大きい。その周りを何十匹ものスライムが囲んでいた。

 索敵能力が上がっていなければ、この部屋へ突っ込んでいたかもしれない。この難関を乗り越えた先がゴールのように思う。最後の関門ということだろう。

 

 敵にはまだ気づかれていない。そっと俺は引き返すことにした。逆方向の通路へはまだ行っていない。その先で戦略の幅を広げることができるかもしれない。


 1時間ほど経っただろうか。そういえば、このダンジョンでは○時間という尺度は通用しなかったか。一通りこの階層を回った後、ボス部屋近くの元の場所へ戻ってきた。この階層は、それなりに広く、今の空腹度は半分ぐらいだ。パンも消費してしまった。

 新たに入手したアイテムは2つ。


革の小手・・・防御が2上がる。

力の実・・・食べると攻撃が1上がる。


 動かなければ時は刻まない。俺は部屋の状況をゆっくり観察した。

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