第3話 空腹のルール
俺は、代わり映えのないゴツゴツした洞窟のようなこの階層を順調に回ることができた。
一本道だったし、モンスターはスライムしか出なく、複数体と対峙することもなかった。幸運にも複数体に囲まれるということはなかったが、そのような状況を作らないことが最も大事な生存戦略となるであろう。
目の前には下へ行く階段があった。
古臭い石の階段だが、奥が暗くて下の階層の様子を確認できない。
これを降りると、この階層には引き返せない。そんな気がする。
道中で増えたアイテムは、”攻撃のきのこ”、そして、今しがた手に入れた”木刀”。
”攻撃のきのこ”の効果を確認してみる。
攻撃のきのこ・・・食べると一時的に攻撃を5上げる。
周りにモンスターがいないことを確認し、トゲトゲ棒と木刀をリュックに入れてみた。明らかに入りきらないサイズだが、溶けるように収納される。
不思議なリュックだ。現代科学ではまだ再現できないだろう。
トゲトゲ棒・・・攻撃+2
木刀・・・攻撃+3
よし。木刀のほうが攻撃力が強い。
何を隠そう。俺は剣道の有段者なのだ。扱いなれた武器のほうが良い・・・のかどうかはここのルールではわからないが、何かしらの補正を期待しよう。
願わくば、吉と出てほしいものだ。リュックに手を入れるとすんなり木刀の感触にたどり着いて、取り出せた。俺は木刀を装備した。
先へ進む前に、さっきから違和感を感じていることがある。
”空腹”だ。
時間経過に対して、明らかに空腹と感じる時間が早い。線形的な腹の減り具合というか・・・。妙な感覚だ。
俺は、円球からコマンドを出して、何か情報がないかいろいろ触ってみた。満タンのHPバーに触ると半分ぐらいのバー表示に切り替わった。繰り返し触れると、表示が交互に切り替わる。バー左の文字表示は”HP”のままだ。もしかして、これが空腹度ではないか。さっき触れた気もしたが、この表示の切り替えには気づかなかった。満腹だったからだろうか。
俺はリュックからパンを取り出し、少し食べてみた。明らかに空腹が満たされ、バー表示も回復していく。間違いない。これが空腹度だ。空腹はHungerとも言う。HPでも間違いではない。
俺の体もこの奇妙なルールが適用されていることを実感した。改造手術でもされたのか。非常に気持ち悪いが、開き直るしかない。
さて、空腹度が0になるとどういう状況になるか。即死とはいかずとも悪い状況になるであろうことは容易に想像がつく。
となると、食料の枯渇は死活問題だ。地下3階まで持つのかどうか。
俺は水を飲んでみる。バー表示は増えない。増えるなら、さっきの水場に戻って飲めるだけ飲んでという手もあるのだが・・・、期待薄だ。
少し悩んだ後、俺は目の前の階段を降りることにした。
頭の中に例の女性の声が響く。
”地下2階へようこそ”
気づくと俺は大きな部屋にいた。降りてきた階段は周囲にはない。
そして・・・、スライムが9,いや、10体ほどだろうか。同じ部屋にいる。非常にまずい。囲まれる。
マップを確認すると、通路らしきものはない。この階層は大部屋一つのようだ。
落ち着け。深呼吸だ。最善は何か。何回か行動すればスライムに囲まれる。1対1の状況を作るのは無理だ。となると、部屋の角で粘る構図を作るしかない。
薬草もある。問題なく乗り切れるはずだ。
部屋の角へ向かう途中でスライムと出くわす。俺は木刀を構えると突きをお見舞いした。まだ倒せない。反撃を受けたが、2回目の突きでスライムを倒した。
スライムを倒すと、あの声が頭に響いた。
”スキル「剣術」を獲得しました。”
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