第二十九章 魔王毒殺の真相

  第二十九章 魔王まおう毒殺どくさつ真相しんそう


 デネブのことは吸血鬼きゅうけつきけさせて、使用人しようにんりをさせた。しばらくおだやかな二人暮らしを楽しんだが、ある朝、ボロボロになったペルセウスとご立腹りっぷくのマリウス王子が玄関げんかんの前に立っていて、休息きゅうそくの日々は急に終わりをげた。


 「あのう、どちら様でしょうか?」

 玄関で応対おうたいしたデネブが戸惑とまどうほどペルセウスはボロボロだった。

 「カインの友人のペルセウスです。それから、こちらはマリウス王子。」

 ペルセウスは傷だらけの顔で何事もなかったかのように普通に答えた。

 「こちらへどうぞ。」

 デネブはマリウス王子の名前を出されたら追い返すことはできないことくらい分かっていた。

 「主人しゅじんを呼んで参りますので、おかけになってお待ちください。」

 二人をリビングに通すと、デネブが私の部屋にやって来た。

 「カイン様、ペルセウスとマリウス王子がいらっしゃいました。どういたしましょう?」

 デネブが私に尋ねた。『どういたしましょう?』の後に殺しときましょうか?とか言いそうだ。

 「今、行きます。」

 私はいそいで階段かいだんを下りた。


 「カイン!」

 私の姿を見つけると、マリウス王子が声を上げてって来た。ペルセウスはマリウス王子からぐすりとやらを取り上げてくれたのだろうか。私がペルセウスに視線しせんを送ると、ペルセウスが小さな小瓶こびんかかげて見せた。どうやらやってくれたようだ。


 私は警戒けいかいしながらもマリウス王子に挨拶あいさつをした。

 「マリウス王子、お元気そうで何よりです。呼んで下さればおうかがいしましたのに。」

 「白々しらじらしい。ペルセウスからぐすりを取り上げるまで来るなと言われて、来なかったくせに。」

 バレていた。

 「そもそもカインは僕の家庭教師かていきょうしなんだ。職務放棄しょくむほうき大概たいがいにしろ。」

 そういえばそうでした。

 「返す言葉もありません。ところで、今日はどのようなご用事ようじですか?」

 私は話を先にすすめた。


 「ああ、そのことなんだけど、ちょっとこっちに来てくれるか?」

 ペルセウスが話に加わった。

 「実はさ、ぐすりっていうのは俺の勘違かんちがいいだった。ごめん。」

 「あ、そうだったの?」

 さすがにそこまで魔界まかいはファンタジックではなかったか。

 「俺がぐすりだと勘違かんちがいしてたこれなんだけど、変身薬へんしんやく解除薬かいじょやくだった。」

 「変身薬へんしんやく解除薬かいじょやく?」

 ファンタジックワードが飛び出して来たな。

 「人間が使うもので、変身薬へんしんやくを飲めば一時的に魔物まものの姿になるが、この解除薬かいじょやくを飲めばまた元の人間の姿に戻る。」

 「へえ。」

 マリウス王子は何でそんなもの買ったんだろう。まさか私の入れ替わりに気づいて!?人間ぽいってあやしんでるの!?いやいやでもこの体は吸血鬼きゅうけつきだから。大丈夫、大丈夫。


 「マリウス王子、どうしてこんなものを?」

 私はおそおそる尋ねた。

 「解除薬かいじょやくをアベルに使いたいんだ。」

 意外いがいな答えが返って来た。

 「どうしてアベルに?」

 「何となくだけど、偽物にせものじゃないかと思って。」

 マリウス王子は馬鹿ばかじゃない。子供で衝動的しょうどうてきだけど元来がんらい洞察力どうさつりょくすぐれた頭脳派ずのうはだ。

 「アベルが人間ではないかとうたがっているんですか?」

 「うん。」

 「どうしてそう思うんです?」

 「父上を毒殺どくさつしようとしたから。」

 マリウス王子はそう言った。その場にいたペルセウスもデネブもこおり付いていたが、私は真犯人しんはんにんがアベルではないかと予想よそうがついていたから驚きはしなかった。


 「父上や僕はタウルスぞく、アベルはカプリコナスぞく両種族りょうしゅぞくともにベゾアールという石が体内にあってどく耐性たいせいがあるんだ。結果、時間はかかったものの、父上は自浄作用じじょうさよう解毒げどくしきって復活ふっかつした。もし本気で父上を殺すつもりなら、毒殺どくさつえらばない。だけどもし、アベルが偽物にせものでベゾアールの解毒げどく作用さようのことを知らなかったら、毒殺どくさつえらんでも不思議ふしぎではないのかなって。」

 マリウス王子は淡々たんたんと言った。


 確かにどく耐性たいせいがある相手に毒殺どくさつは選ばない。タウルスぞくがベゾアールを体内たいないふくんでいることはクラウスも知っていた。魔界まかいでは有名な話なのかもしれない。もし知らないならば、魔界まかいの住人ではない。人間と考えてもおかしくはないか。


 「マリウス王子、魔王まおう毒殺どくさつされた日のこともう少し詳しくお聞かせいただけますか?」

 ついに真実しんじつを知る時がやって来た。ペルセウスとデネブは息をのんでいた。

 「カイン、その女、信用しんようできるんだろうな?」

 マリウス王子がデネブを見て言った。ペルセウスには何も言わないということは彼のことは信用しんようしているのか。

 「もちろん。」

 私がそう言うとマリウス王子は話し始めた。


 「あの日、カインがこっそり城にやって来たのを見たんだ。父上に告げ口するんだとピンと来た。それで護衛ごえいとしてついていたアベルと一緒に父上の執務室しつむしつに先回りして、暖炉だんろかくれて二人を待った。思った通りカインと父上が執務室しつむしつに入って来たよ。カインは僕との会話の一部始終いちぶしじゅう報告ほうこくした。僕が魔王まおう暗殺あんさつ目論もくろんでるって。」

 マリウス王子の語気ごきが強くなった。いまだにカインが魔王まおうに告げ口したことがゆるせないようだ。


 「僕はえられなくってかくれていた暖炉だんろから飛び出して行ったよ。そしたらアベルも出て来た。アベルは最初にカインの頭を陶器とうきさらなぐって、それから父上を羽交はがめにして、無理矢理むりやりどくらわせた。二人共床に倒れて、父上はそのまま執務室しつむしつに置いて来たけど、カインのことは城の外まで運んで川に捨てた。ドラキュラ公国こうこく出張でばってこられるとこまるからね。事故じこに見せかけたんだ。」

 マリウス王子は何とも言えない暗い顔で言った。その状況じょうきょうで小さいのによくそこまで頭がまわったものだ。


 「アベルは僕の護衛ごえいだし、僕が執務室しつむしつに連れて行った。だからアベルのやったことは僕のやったこと。そう思ってたんだけど、アベルの様子ようすがおかしいんだ。みょうによそよそしかったり、僕のそばはなれたがったり。もしあのアベルが偽物にせもので、僕のためにやったことじゃないなら、僕がかばうことないだろう?」

 マリウス王子は悪魔あくまらしい顔つきをして言った。

 「おっしゃる通りですね。もしそうならば、マリウス王子がかばう必要はありません。ではアベルが人間かどうか確かめましょう。」

 私はそう言って小瓶こびんに手をばした。


 「これを飲ませればいいんですね?」

 「そうだけど、カインには無理じゃない?アベルとは体格差たいかくさがありぎる。ペルセウスと僕でやる。」

 マリウス王子が言った。無理矢理むりやり口に流し込む気満々まんまんじゃないか。

 「考えがあるんです。私にまかせてもらえませんか?」

 私はマリウス王子にそう申し出た。

 「いいけど。その解除薬かいじょやくはしょっちゅう出回でまわってるものじゃないんだ。失敗しないでよね。」

 マリウス王子はそう言って小瓶こびんを私にたくした。

 「はい。」


 マリウス王子とペルセウスが帰って、屋敷やしきにデネブと二人きりになると、デネブが心配そうに話しかけて来た。

 「カイン様、本当に引き受けてよろしかったのでしょうか?」

 「ああ、これですか?」

 私は小瓶こびんかかげて言った。

 「私でおさえ込めるかどうか・・・殺せと言うご命令めいれいでしたらよほど簡単かんたんですのに。」

 デネブが言った。殺しちゃいかんよ。ってか手伝ってくれるつもりなのか。


 「ねえ、デネブ。もしアベルが人間だったとして、一人で魔界まかいに乗り込むと思いますか?」

 「他にもいると?」

 「私はそうにらんでます。それからうらにアベルを送り込んだ誰かがいて、それを手引てびきした者が身内みうちにいるとも思ってます。そうでなければ近衛兵このえへいのアベルにけられるはずがない。手引てびきした奴は魔王まおうねらっていたと見て間違いない。そんな大それたことをしたのは一体どこの誰なんでしょうね。」

 私はリビングのソファーでくつろぎながらデネブに言った。

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