第二十七章 飛んで来たコウモリ男

  第二十七章 飛んで来たコウモリ男


 お風呂ふろから上がって着替きがえると、すぐにドラキュラ公国こうこくに使いを出した。クラウスと伯父おじのシュテファンに無事ぶじを知らせるためだ。きんのペンダントも一緒に送り返そうかと思ったが、高価こうかそうだったのでぬすまれたらいけないと思ってやめた。手元てもとにおくことでクラウスにがあるなんて誤解ごかいされたらいやだなとは思いながら、自室じしつつくえき出しに入れておいた。


 次は屋敷やしきを出て城にあるマリウス王子の部屋へやに向かった。目的はもちろんアベルについて聞き出すことだ。どういう経緯けいいでアベルが魔王まおうを殺すことになったのかはっきりさせなくては。


 「失礼しつれいいたします。カインです。」

 そうとびらに向かって声をかけると、ペルセウスが扉をけた。やはり護衛ごえいについていたのは彼だったか。

 「カイン、戻って来たんだな!」

 ペルセウスが満面まんめんみをかべて言った。

 「うん。さっき戻って来た。」

 私も自然しぜんみがこぼれた。

 「魔王まおう目覚めざめて、すぐにカインをもどせって勅令ちょくれいを出したから、もうダメだと思ってたから、また会えて良かったよ。せっかく再会さいかいできたところなんだけど・・・カイン、悪いことは言わない。今すぐ逃げろ!」

 ペルセウスが急に真顔まがおになってこえとして言った。

 「へ?」

 「ペルセウス、早くカインを中に入れろ。」

 ペルセウスの後ろからマリウス王子の声がした。

 「マリウス王子の奴、この間、町に出たかと思ったら、何かあやしげな店でくすりを入手してたんだ。どうやらぐすりらしい。」

 「はあ!?」

 そんなもの存在するの?魔界まかいってどんだけファンタジック!?

 「いいから、カイン逃げろ!マリウス王子はお前に使うつもりだ。」

 ペルセウスがそう言って、私をした。

 「え、でも・・・」

 マリウス王子から話を聞かないとならないのに。

 「俺がマリウス王子からぐすりを取り上げるまで、絶対ぜったい来るなよ!?」

 ペルセウスはそう言ってとびらめた。扉の向こうからマリウス王子とペルセウスの言いあらそう声が聞こえた。

 「今、カインが来ただろう!?何で追い返したんだ!?」

 「来てない!カインじゃなかった!」

 「嘘つくな!この吸血きゅうけつ勇者ゆうしゃめ!」

 「ひどいな。誰のせいだと思ってるんだよ!?」

 「お前なんて日の光で焼き殺してやる!」

 「うわあ、やめろ!何するんだ!?」

 大丈夫か、ペルセウス・・・


 マリウス王子に会えなかったので、仕方しかたなく屋敷やしきに戻ることにした。ローズレッドとマーガレットとも話し合わないとならないし、そちらからかたづけるか。前にクラウスに言われた通り、あの屋敷はカインのもの。つまりは私のもの。取られたままにしておくわけにはいかない。そんなの本物のカインに申し訳なさすぎる。


 城の階段かいだんを下っていると、シリウス王子を見かけた。いかにも上流貴族じょうりゅうきぞくという風体ふうていの女と一緒だった。なーんだ。カミラをけて決闘けっとうしたかと思えば、けたらつぎか。シリウス王子はプレイボーイと見た。英雄色えいゆういろこのむって言うし、まあ不思議ふしぎじゃないか。私は横を通り過ぎる時に、シリウス王子に挨拶あいさつした。


 「シリウス王子、お久しぶりです。本日、城に戻って参りました。いつかの決闘けっとうさいはご挨拶あいさつできないまま城をり、まことに申し訳ございませんでした。」

 私がそう言うと、一緒にいたご令嬢れいじょうが振り返った。顔を見て驚いた。

 「クラウス!?」

 思わずそう声を上げると、クラウスが物凄ものすごい力で私の口をふさいだ。間違まちがいない男の力だ。これは女装じょそうしたクラウス。なぜここにいる?なぜクララにばけけている?


 「シリウス王子、カインに会えましたので、これで失礼しつれいいたします。」

 クラウスが私をしっかりつかまえながら言った。

 「カミラじょう、何かありましたら、いつでもたよってください。」

 シリウス王子がほおを赤くめて言った。カミラじょうだって!?そうか、顔がてるからカミラのりしてたのか。

 「ありがとうございます。オホホホ。」

 クラウスは貴婦人きふじんらしい笑い声を上げながら、私を引きずって歩いた。


 「クラウス、何でここにいるんですか!?」

 私はシリウス王子からはなれるとたずねた。

 「助けに来たんだ!ドラキュラ公国こうこくから飛んで来た!」

 クラウスが答えた。馬車とコウモリのつばさではコウモリの翼の方が早いようだ。

 「私は無事ぶじだって伝えようと、さきほど使いを出したところなんですけど。」

 「ああ。大体だいたいのことはシリウス王子から聞いた。とりあえず、カインの屋敷やしきへ行こう。ここじゃ誰に聞かれているか分からない。」

 クラウスが私のうでをガッチリかためながら言った。貴婦人きふじんの力じゃない。


 屋敷やしきに戻ると、リビングのソファーにローズレッドとマーガレットがいた。当然二人は私たちの姿を見て驚いたが、さすが私たちの祖母そぼ、ローズレッドはすぐに女装じょそうしたのがクラウスだと見抜みぬいた。

 「クラウス、なぜここにいるんですか!?」

 ローズレッドがしかるように言った。

 「え?クラウス?どちらがクラウス?」

 マーガレットは見分みわけがつかないようだった。

 「目の下に小さなホクロがある方よ。」

 ローズレッドがおしえた。たしかにクラウスの目の下に小さなホクロがあった。みょういろっぽいのはこのホクロのせいか。


 「ローズレッド、マーガレット、久しぶり。今後、俺のことは大公たいこうと呼んでもらおうか。」

 クラウスが二人に言った。ローズレッドはてついたように顔を強張こわばらせた。

 「クラウス、あなたまさか・・・」

 「父上のことは殺してないよ。幽閉ゆうへいしたりしたけど、今はカイン救出のために、俺が帰るまでの間、臨時りんじ大公たいこうかえいてもらってる。」

 クラウスがそう言うと、ローズレッドはホッとした顔をした。

 「それはどういうこと?クラウスは伯父上おじうえから王位おうい奪取だっしゅしたの?」

 マーガレットが尋ねた。

 「そういうこと。」

 クラウスはそう答えながら私をれてソファーにドカッとすわった。まるで自分があるじだと主張しゅちょうするように。マーガレットはだまった。もう可愛かわい従弟いとこではなく、つかえるべき祖国そこくあるじだと知ったからだ。

 「いずれあなたのものになるのに、待てなかったのかしら?」

 ローズレッドが嫌味いやみっぽく言った。

 「待てなかったね。」

 クラウスはそう言って不敵ふてきわらった。


 「それにしても魔王まおうの住むディアボロに来るなんて、大公たいこうとして自覚じかくりないんじゃなくて?いつ誰におそわれるか分からないわ。」

 ローズレッドが神経質しんけいしつに言った。

 「護衛ごえいれて来てるし、すぐにカインを連れて帰るよ。」

 クラウスがそう答えると、ローズレッドはする視線しせんを送った。

 「カインは連れて行けないわ。分かるでしょう?」

 「・・・・・・」

 クラウスは不機嫌ふきげんそうな顔をして足をんだ。

 「魔王まおうがカインを呼び戻したのです。勝手かって真似まねはできません。おそらく、カインは人質ひとじちです。」

 ローズレッドが真剣しんけん眼差まなざしで言った。

 「少し前なら、その言葉の意味が分からなかったけど、今なら分かるよ。魔王はカインが大公たいこうの、父上のじつだって知ってるんだね?」

 クラウスがたずねた。

 「そうです。」

 ローズレッドがみとめた。

 「えっ!?カインは私の妹じゃないの!?」

 マーガレットが言った。

 「おだまり、マーガレット!」

 ローズレッドが怒鳴どなった。この人が怒鳴どなるのを初めて見た。マーガレットも同じようだ。おびえた顔をしてしゅんとしていた。

 「かくさなくても大丈夫。もうカインが女だって知ってるんだ。」

 クラウスがニヤリと笑った。ローズレッドの顔はおこっていた。

 「カインが女だからって、あなたの好きにはできなくってよ?」

 ローズレッドはそう言ったが、クラウスはまた不敵ふてきみをかべるだけで何も答えなかった。


 「クラウス、いえ、大公たいこう。一緒にドラキュラ公国こうこくへ帰りましょう。」

 ローズレッドがこわい顔をして真剣しんけん口調くちょうで迫った。有無うむを言わせないすごみがあった。

 「・・・・・」

 クラウスはソファーの背もたれに手をまわして、考える素振そぶりをした。女装じょそうさえしていなければ、男らしくてさまになった姿すがただが、今は違和感いわかんしかない。

 「クラウス、大公たいこう不在ふざいは良くないんじゃないですか?私のペルセウスの件はおとがめなしみたいだし、助けてもらわなくても大丈夫ですから。」

 私はローズレッドを援護えんごするように言った。

 「そうだね。今はまだ事を起こす時期じきじゃない。」

 クラウスはそうひとごとを言った。時期じきじゃないって何のことだろう?

 「カイン、魔王まおうが死んだらむかえに来る。」

 クラウスは私の耳元みみもとでそうささやくとほおにキスをした。ネットリとした感触かんしょくがして、ベットリと口紅くちべにがついた。モテる男ってこんな不快ふかいな思いをするんだろうか。

 「分かった。ローズレッド、一緒に帰ろう。」

 クラウスはそう言うと立ち上がった。ローズレッドも立ち上がり、いそいそとドラキュラ公国こうこくへ帰る準備じゅんびを始めた。


 「マーガレットはどうします?ローズレッドはいなくなりますが、このまま私と暮らしますか?それともとつぎ先に帰りますか?」

 私はすかさずマーガレットに言った。追い出すなら今がチャンスだ。

 「一度、とつぎ先に帰るわ。」

 マーガレットが言った。一度って、また来るつもりか。まあいい。一旦いったん出て行ってくれるだけでも気疲きづかれしなくてむし、ストレスが軽減けいげんされる。ようやく、屋敷やしきが私のものになって、テリトリーを確立かくりつできる。


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