第十六章 魔界のプリンスとの決闘

  第十六章 魔界のプリンスとの決闘


 「カイン、お前、勝ちに来たな。」

 シリウス王子が白い目で私を見て言った。こちらもマリウス王子と同じようにドン引きだという顔をしていた。

 中庭に吸血鬼化した勇者ペルセウスを伴って現れたのだから、そしりを受けるのは致し方ない。あまんじて受けよう。

 「お察しの通り、代理人だいりにんを立てます。この元・勇者ペルセウスが私の代わりに決闘けっとうをお受けいたします。」

 私は事務的にシリウス王子に言った。中庭に集まっていたギャラリーたちがざわついた。まあ当然だが、聞こえてきたのは私に対する非難ひなんの声だった。

 『勇者を代理として出すなんて非常識だ。』

 『自分で戦わないなんてとんだ腰抜こしぬけだ。』

 『勇者を自分の眷属けんぞくにして、魔王の息子と戦わせるとはなんて悪趣味あくしゅみ冷酷れいこくな男だ。』

 誰も口々に私の悪口を言ったが、最後のは気に入った。

 「冷酷な男・・・男か。いいひびきだ。」

 私は小さな声でひとごとをつぶやいた。


 「紳士しんし淑女しゅくじょの皆さん、決闘けっとう代理だいりが認められています。私はルールにのとってこの決闘を受けているのです。シリウス王子が私に負けたくないのなら、王子もまた代理人を立てれば良いだけのこと!」

 私はいきおいにまかせてそう言った。王族おうぞくに対する不敬ふけいめる声が上がるかと思ったが、誰も何も言わなかった。男の私は外野がいやの声を一蹴いっしゅうできたのだ。


 「シリウス王子、どうか私に決闘の代理をお命じ下さい。相手は吸血鬼きゅけつき化した勇者です。王子と勇者を戦わせるわけには参りません。」

 シリウス王子の勇姿ゆうし観戦かんせんしに来ていたレグルス将軍しょうぐんひざまづいてシリウス王子に言った。

 シリウス王子も状況じょうきょうは分かっていた。相手は勇者で魔王を打倒だとうする力を持つ者。万が一のことを考えればレグルス将軍の申し出を受けるのが妥当だとうな判断だ。


 「レグルス、これはカミラじょうをかけた決闘だ。俺自身がけんを取らなければ意味がない。気持ちには感謝する。」

 さすが男気おとこぎあふれるシリウス王子。レグルス将軍の申し出を断った。本気で勇者と決闘するつもりだ。


 「ペルセウス、向こうは本気だ。絶対に負けないで。でもシリウス王子のことは殺さないで。厄介やっかいなことになるから・・・」

 私がペルセウスに無理むりなお願いをしていると、横からマリウス王子がって入って来た。

 「いいよ。シリウスなんて殺しちゃって。そうすれば王位継承権おういけいしょうけんは自動的に僕のものだし。」

 悪魔小僧あくまこぞうめ!シリウス王子をあやめるようなことがあれば、私もペルセウスもただでは済まないというのに。

 「ペルセウス、いい?私の言うことを聞いて!?」

 私はペルセウスに強く言った。

 「分かってる。全部カインの言うとおりにする。イエス、マイロード!」

 ペルセウスは何か取りつかれたようにそう言った。決闘前で気がたかぶっているのか?


 「では、両者りょうしゃまえへ。」

 見届人みとどけにんが声をかけた。私は心配でけそうな心臓を押さえて、ペルセウスの背中を見送った。

 冷たい視線を送る魔族まぞくたちの間をかき分け、中庭の中央におどり出るとペルセウスは勇者らしく雄々おおしく剣をかまえた。完全アウェー。勝てるだろうか。


 「両者、始め!」

 見届人みとどけにんが決闘開始の号令ごうれいをかけた。

 ペルセウスは号令と共に大きく一歩踏み出し、先制攻撃せんせいこうげき仕掛しかけた。シリウス王子は強烈な一撃いちげきを受け、後退こうたいした。


 「いいぞ!行け!ペルセウス!押せ押せ!」

 マリウス王子が大きな声援せいえんを送った。

 実の兄が勇者と戦っているのに、勇者の方を応援したらまずいだろう。ここはたしなめるべきか・・・いや、ペルセウスは私の代わりに決闘に出てくれているんだ。ここは一緒にペルセウスを応援おうえんするべきだろう。

 「行け!ペルセウス!」

 私もさけんだ。

 ペルセウスは私たちの声援せいえんに応えるように健闘けんとうした。最初の先制攻撃せんせいこうげきから一度たりとも反撃はんげきも許さず、開始早々シリウス王子を中庭のすみに追いやった。強いじゃないかペルセウス!

 「このまま一気に行け!」

 私はこぶしを上げて応援おうえんした。


 「カイン!」

 私の名前を呼び、こぶしをつかんで無理矢理むりやり下ろす者がいた。いいところなのに、一体誰だと思って振り返えると、姉のマーガレットだった。どうしてここに・・・。

 「カイン、ちょっと来て!」

 マーガレットが言った。

 「え?でもペルセウスが・・・」

 「いいから、早く!」

 マーガレットは怒っているようだった。私はうし髪引がみひかれながらもしぶしぶしたった。


 マーガレットは私を屋敷やしきに連れ帰った。屋敷のリビングにはソファーにどかっと座るローズレッドとパパとママがいた。パパはまだへばっていて、ソファーでうなだれていた。隣にいるママが扇子で風を送っていた。


 「カイン、自分が何をしたか分かってる!?」

 私が姿を現すや否や、ローズレッドが目をり上げて言った。

 「え?」

 「勇者を吸血鬼きゅうけつきにしたのよ!?」

 「何か問題ありますか?」

 「問題大アリよ!」

 ローズレッドの額に青筋あおすじが浮き上がった。血圧けつあつ上がって死ぬんじゃないかと心配になった。


 「あなた勇者を自分の眷属けんぞくにしたの!勇者は魔王を倒すもの。その勇者を眷属けんぞくにしたってことは謀反むほんの意志ありと思われても仕方しかたないのよ!?」

 ローズレッドがヒステリックに言った。

 「ええっ!?」

 そんなこと知らないよ。マリウス王子の言うとおりにするんじゃなかった!あのおガキ様は私に取りついた疫病神やくびょうがみか!?


 「ペルセウスの勝敗しょうはいに関係なく、あなたはピンチなの。このままこの首都ディアボロにいたら、殺されるかもしれない。」

 ローズレッドがけわしい顔をして言った。

 「誰に?」

 「誰にでもよ。」

 ローズレッドが私をキッとにらんだ。え、私、今、命狙われてるの・・・?


 「カイン、あなたの身柄みがらをドラキュラ公国こうこくへ送るわ。」

 ローズレッドが頭をかかえながら言った。

 「ペルセウスはどうなるんですか?」

 「自分の心配をなさい!」

 ローズレッドがするどく言った。

 ペルセウスが魔界まかいで頼れるのは私だけだし、そもそも私が吸血鬼きゅうけつきにしてしまったのだから、見捨みすてるわけにはいかない。私は助けを求めてパパの方を見た。が、へばっていてダメだ。


 「ドラキュラ公国こうこくに行っても状況じょうきょうが変わるわけじゃないわ。魔王まおう一族とのあらそいをけたい大公たいこうがあなたを切り捨てる可能性かのうせいもある。その場合はまたここへ送られるか、公国内こうこくない処刑しょけいされる。すべては大公たいこう御心次第みこころしだいよ。」

 ローズレッドが冷たく言った。もう私の目を見て話してくれなかった。ローズレッドは私を見捨てようとしていた。


 「せっかく男として出世しゅっせの道を用意よういしてもらったのにこの有様ありさまなんて!」

 ローズレッドのとなりうでんですわっていたマーガレットが言った。

 「こんなことになるならマーガレットを男として育てるんだった。マーガレットの方がいい貴公子きこうしになったわ。」

 ローズレッドが嫌味いやみっぽく言った。誰かと比べられてなじられるのはかなりきずつく。それに私もマーガレットの方が優秀ゆうしゅうだと思うから、あながち的外まとはずれな指摘してきじゃない。ますます傷つく。ああ、もう消えてしまいたい。


 「カイン、支度したくなさい。すぐに出立よ。」

 ローズレッドがひじけに頬杖ほおづえをついて言った。私はスゴスゴと静かにその場を離れ、自分の部屋に荷造にづくりしに行った。

 シリウス王子とペルセウスの決闘はどうなったかな。



 



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