第十五章 マリウス王子の嫉妬

  第十五章 マリウス王子の嫉妬


 落ち着け自分。ここでペルセウスを振ってしまったら今日の決闘けっとうがどうなるか分からない。やっぱり出ないとか言ってけんごと持って帰られたら一貫いっかんの終わりだ。たせておかないと。


 「持ち帰って検討けんとう致します。」

 これでどうだ。譲歩じょうほした精一杯せいいっぱい誠実せいじつな返事だ。

 「何だよそれ?どいう意味だよ?」

 ペルセウスが困惑こんわくした顔で聞き返して来た。

 ダメか。上手うまくかわせなかった。

 「ええと・・・」

 イエスかノーならノーなんだけど、ノーと言うわけにはいかない。いっそイエスと言うか?いやいや、決闘けっとうのあと面倒めんどうなことになるのが目に見えている。

 「カイン、はっきり言ってくれ。」

 ペルセウスが私の両腕をつかんで迫って来た。近い近い。顔を近づけるな。私は顔を横にそむけた。

 「カイン・・・!」

 ペルセウスが両腕をつかむ手に一層いっそう力を入れた。まずい。


 「僕のカインに何しているんだ!?」

 そこへそう叫びながらマリウス王子が走り込んで来た。そしてペルセウスに渾身こんしんりをかました。身軽みがるな王子の体はかろやかにちゅうい、ペルセウスの後頭部こうとうぶにクリーンヒットした。背後から狙うとはさすが姑息こそくな悪魔だ。魔王を毒殺どくさつしようとしたことだけはある。ペルセウスはベタンと床の上にした。

 「カイン、大丈夫!?話が終わってないのに行っちゃうから追って来たんだ。」

 マリウス王子が言った。助けられた。


 「痛てて・・・」

 ペルセウスが頭を押さえながら顔を上げた。見上げてびっくり、そこには魔王の息子、第二王子のマリウス王子がいるのだから。

 「そいつは!」

 ペルセウスがマリウス王子の牛のつのを見て言った。

 「ペルセウス、言ってなかったけど、ここは魔界まかいなんだ。城の中庭で決闘けっとうすることになってて・・・。」

 私は後ろめたさを感じながら言った。

 「目隠めかくしされた時点でそうなんじゃないかと思ってたよ。でもカインが俺に何かするとは思えなかったし、黙ってついて来たんだ。」

 ペルセウスが言った。イイ奴だ。仲の良い友人のままでいられたら良かったのに。

 「カイン、勇者ペルセウスに教えてあげれば?僕の妃になる予定だって。」

 マリウス王子は私とペルセウスのやり取りをバッチリ聞いていたようだ。嫉妬しっとられた目をしていた。

 「カイン、どういうことだ!?俺をだましていたのか!?」

 ペルセウスがさわぎ出した。

 「だましただなんて・・・」

 まるで私は悪女みたいじゃないか。


 「カイン、ペルセウスの血を吸うんだ。勇者様を吸血鬼きゅうけつきのお仲間にしてやれ。」

 マリウス王子が冷酷れいこくな目をして言った。

 「ええっ!」

 思わず声を上げた。そんなことしたことがない。血を吸う?冗談じゃない。私は人間だ。そんな気持ち悪いことはできない。

 「嫌です!」

 私は拒否した。

 「何言ってるんだ、カイン!?この男のことが好きなのか!?」

 マリウス王子が嫉妬しっとに狂った目で言った。

 「カイン、そうなのか!?やっぱり俺のことを!?」

 ペルセウスが目をかがやかせて言った。勘弁かんべんしてくれ。

 「血を吸え、カイン!」

 マリウス王子がきびしい口調で命令した。

 「いいぜ、カイン。お前のためなら吸血鬼になってやる。」

 ペルセウスが恋する男の目で言った。


 「できません。」

 私はマリウス王子に言った。

 「やっぱり・・・」

 マリウス王子は怒りにふるえた。一方のペルセウスは勝手に私の愛を確信して、満足そうにニコニコと笑っていた。

 マリウス王子はそんなペルセウスがにくたらしくて仕方なかったのだろう。こしげられたけんを奪うと、ペルセウスの首にけんをつきつけた。

 「カイン、ペルセウスの血を吸うんだ。さもなければ、この場でペルセウスを殺す。決闘けっとうに負けるぞ?いいのか?」

 マリウス王子はおどすように言った。もうメチャクチャだ。私をきさきにすると言いながら、決闘けっとうに負けさせたら、私がシリウス王子の側女そばめになってしまうじゃないか。まだ子供のこの王子はそこまで頭が回らないか。はあ。ため息しかでない。


 「何しているんだ!?早く血を吸えってば!」

 マリウス王子が激しい口調で言った。ペルセウスは観念かんねんしたというか、女のために犠牲ぎせいになる自分にいしれて、どうぞという顔をしていた。

 ああ、もういい。どうにでもなれ。私はペルセウスの首筋に吸血鬼のきばした。血をすすって間もなく、ペルセウスは苦しみ始め、廊下の上でのたうち回った。

 やり方を間違ったのかもしれないと思ったが、ペルセウスの体が変化し始めたのを見て、合っていたのだと安心した。ペルセウスの顔は血の気が引いて青白くなり、口からは大きなきばが伸びた。そして背中からは服をやぶり、黒いコウモリのつばさえた。

 「これで勇者ペルセウスはカインの眷属けんぞくだ。」

 マリウス王子が可愛らしい顔に似合にあわない笑みを浮かべた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る