第十四章 勇者ペルセウス、魔界に連れ去られる

  第十四章 勇者ペルセウス、魔界に連れ去られる


 あれからけんだけ貸してくれと何度もペルセウスに頼み込んでいたら、あっという間に一週間経ってしてしまった。もう決闘けっとうの日だ。


 「カイン、もう覚悟かくごを決めてペルセウスを連れて行くしかない。」

 パパがやつれた顔で言った。日が昇る人間界での生活は合わなかった。

 「でも勇者と魔王まおうの息子との対決が成立してしまいますよ。そもそも決闘けっとう代理だいりなんて認められるんですか?」

 「代理だいりは問題ない。剣士けんしに依頼することもある。まあ、愛する女性をめぐって、という場合は自分で受けて立つのものだが。」

 パパは疲れ切った声で言った。

 「本当にもうれて行くしかないんですね。」

 「そうだ。ペルセウスのつるぎがなければシリウス王子との勝負に勝ち目がない。負ければカインの人生は終わり、カミラとしてシリウス王子の側女そばめになるしかない。」

 パパが悲しそうに言った。

 「それだけは絶対ぜったいに嫌です。パパ、ペルセウスを魔界まかいに連れて行きましょう。」

 私は覚悟かくごを決めた。


 夜が明ける前にペルセウスの家をおとずれた。吸血鬼きゅうけつが人間をさらう時ってこんな感じなんだろうと思った。

 「何だよ。こんな時間に。」

 ペルセウスが目をこすりながら玄関の扉を開けた。吸血鬼きゅうけつき二匹を相手に不用心ぶようじんな勇者だ。


 「ペルセウス君、カインの代理だいりとして決闘けっとうを受けて欲しい。どうか我々と一緒に来て下さい。」

 パパが最大限の礼儀れいぎを払って言った。

 「お父さん、最初から行くって言ってるじゃないですか。頭を上げて下さい。」

 ペルセウスがあわてて言った。

 「ペルセウス、悪いんだけど、今から決闘けっとうが行われる場所に連れて行く。事情があって行き方を知られるわけにはいかない。帰りはちゃんと送るから、この目隠めかくしをつけてくれないか?」

 私はそう言って、マスクを手渡した。ペルセウスは何も言わずにマスクを頭からかぶった。

 「これでいいか?」

 何も見えなくなったペルセウス言った。純粋じゅんすいな男だ。何も疑わない。胸の中に罪悪感ざいあくかんが広がった。

 「さあ、行こう。」

 パパが言った。

 「あ、カイン、待ってくれ。俺は何も見えないんだ。手を引いてくれよ。」

 ペルセウスがそう言って私に手を伸ばした。大の男に手をつないでくれとせがまれて、戸惑とまどったが、仕方ないことだし、私はその手をつかんだ。するとペルセウスは力強く握り返した。みょうな感じがしたが、この時は気にめなかった。


 パパが死ぬ気で私とペルセウスをかかえて魔界まかいに連れ帰った。老いてもドラキュラ伯爵はくしゃく人外じんがいの力を発揮はっきした。


 魔界に着くと、へばっているパパを置いて、マスクをかぶせたペルセウスを中庭にスタンバイさせようと手を引いて廊下を歩いた。そして予期よきせぬ人物に会ってしまった。マリウス王子だ。今会いたくない。タイミングが悪すぎる。


 「カイン、どこに行ってたんだよ。一週間も姿を見せないなんて、探したんだから!」

 マリウス王子が怒って言った。

 「すみません。ちょっと野暮用やぼようで。」

 私はそう言いながらペルセウスの手を引いて王子から遠ざけた。

 「誰かいるのか、カイン?」

 ペルセウスがマリウス王子の声を聞いて尋ねた。

 「誰だよ、そいつ。」

 マリウス王子が見逃すはずなかった。

 「あ、えっと、この人は・・・」

 しどろもどろしていると、マリウス王子はペルセウスのこしがっているけんに気づいてしまった。

 「カイン、そいつ勇者じゃないか!?」

 マリウス王子が目をまんまるくして驚いた。

 「決闘けっとう代理だいりを引き受けてくれたペルセウスです。」

 私は口ごもりながら言った。

 「ペルセウス!?そいつ勇者ペルセウスだよね!?」

 「・・・そうです。」

 「何でいるんだよ!?」

 「ですから本日の決闘けっとう代理人だいりにんです。ペルセウスが私の代わりにシリウス王子と戦います。」

 私の言葉にマリウス王子は唖然あぜんとした。

 「勇者と魔王の息子を戦わせるなんて、えげつない・・・。えげつないよ、カイン。ドン引きだよ。」

 マリウス王子が悪魔を見るような目で私を見た。何て言われよう・・・悪魔はそっちだろう。それに私だってこんなの望んでない。何も言い返せないのがくやしい。


 「私は先を急ぎますのでこれで失礼します。」

 私はペルセウスの手を引いてマリウス王子の横を突っ切った。


 「カイン、今のは知り合いか?何か言い争ってたみたいだけど、相手は誰だ?」

 ペルセウスが心配して尋ねた。

 「家庭教師している生徒。気にしなくていいから。」

 私は早口にそう言った。

 「なあ、もうこのマスクとってもいいか?」

 「まだ。ダメだ。中庭に着いたら取っていいから、もう少しだけ歩いて。」

 私は早足で歩いた。ペルセウスはしっかりついて来た。


 「カイン。」

 「何?」

 「決闘、必ず勝つから。そしたら、俺と一緒にローゼンバーグで暮らさないか?」

 「は?」

 ペルセウスがわけの分からないことを言って来た。イライラした。

 「俺はお前の正体を知っている。初めて会った時から気づいていた。魔界から逃げて来た吸血鬼の女だって。」

 ペルセウスが言った。私は思わず足を止めた。するとペルセウスがおもむろにマスクと外して、んだひとみを私に向けて来た。

 「人間界で結婚しよう。」

 頭の中でかねの音がひびいた。ウエディングベルじゃない。お寺のかねだ。人生の終わりを告げるかねの音だ。

 ヤバい。勇者にバレてる。いろいろバレてる。

 「なあ、カイン、返事しろよ。」

 ペルセウスが迫って来た。カイン、本物のカイン、何でこんなバレてるんだ!?

 




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