第五章 クレイジー・カイン
第五章 クレイジー・カイン
私が二人の会話に聞き耳を立ててじっと見ていると、気になったのか、アベルが私の方を見た。
「カイン、悪いんだが、
アベルがそう言って自分の
「分かりました。」
私は
「すみません。部屋を借りたいんですけど、空いていますか?」
私は入り口付近にいた
「お
男はそう言って階段から我々を見下ろすまだら
「おや、お
猫はしゃべった。驚いてはいけない。ここは魔界。猫はしゃべるものだ。
「旅の途中でして。開いているお部屋はありますか?」
私がおずおずとそう尋ねると、猫は二本足で階段を下りて来た。こっちに来る!
「俺はこの
ブチはそう言った。近所の
「お金ならあります。」
私はそう言った。
「チッチッチッ。金は食堂で稼いでいる。宿に泊めるかどうかは金じゃない。あんたがどれだけクレイジーな話を俺に聞かせられるかで決めるにゃん。」
ブチは
「クレイジーな話?」
「そう。俺は頭のイカれた奴が大好きさ。だからクレイジーな話を聞かせてくれた奴だけ、泊めてやることにしている。」
ブチはなぜか
「そう言われましても・・・」
困った。魔界の猫が訳分からないことを言って来た。二本足で歩くお前がクレイジーだと言いたいところだが、何かないだろうか。考えあぐねていると、私の後ろに誰かが立った。
「クレイジーな話なら僕・・・いや、私ができる。」
もたもたしている私を見かねて王子が助けに来た。
「おや、そちらのお嬢さんが聞かせてくれるのかい?」
「ああ。どことは言えないが、とある国の王子の話しだ。」
王子はニコッと笑った。ブチの心臓がキュンっと鳴るのが聞こえた。可愛いだろう。このフリフリのドレスにこの愛らしい顔はベストマッチだ。私の見立てに間違いはない。
「話してみるにゃん。」
ブチにそう促されて、王子が話し始めたのは聞き覚えのある話だった。
「ある日、
おっ、
「その時、王子はちょうど家庭教師と勉強中でした。その家庭教師というのが、
カインってそんな感じのキャラだったんだ。まあこの顔なら
「しかし、その日に限って家庭教師は川に落ち、頭を打って
「にゃんとまあ、運の悪い・・・」
ブチがつぶやいた。話に入り込んでいるようだ。
「そこへ王子を捕まえようと兵士が二人のもとへやってきました。すると、一緒にいた家庭教師が
「にゃにゃっ!」
「家庭教師は勝手に城の外につながる隠し通路を作っていて、そこから二人で城の外に逃げるのですが・・・城の工事を許可なく行うのは
おっと、そうでしたか・・・。
「馬で近くの町を目指し、
王子が悪夢を思い出すように語った。
「その家庭教師ヤバいにゃあ。」
ブチが言った。
どこがヤバい?
「それで王子はどうなったにゃん?」
「無事近くの町に
王子はそう言ってアベルに視線を送った。
「良かったにゃあ。そのサイコ家庭教師に連れまわされてバッド・エンドかと思ったにゃあ。」
ブチがホッとして言った。サイコ家庭教師だと?失礼な猫め。
「どう?私たちは泊まれるのかな?」
王子がブチに尋ねた。
「合格にゃあ。二階の部屋を好きに使っていいにゃあ。」
ブチが満足気に言った。
「お見事です。王子。」
アベルがこちらにやって来て言った。
「僕もなかなかやるだろ?」
王子が得意げに言った。
「ところで、その話の家庭教師とはもしかしてカインのことでしょうか?」
アベルが恐る恐る尋ねた。
「そうだ。」
王子がそう答えると、アベルが悪魔を見るような目で私を見た。確かに吸血鬼ですけど、お互い魔族でしょうが。
「カイン、私は
アベルが貼り付けたような
「王子のお世話なら私が・・・」
「いえ、結構。」
アベルがきっぱり言った。
何だろうこの感じ。ゼロから企画して、
冗談じゃない。命がけでここまで王子を守って連れてきたのは私だ。
「王子に決めてもらいましょう。」
私はアベルに言った。
「いいでしょう。」
アベルは受けて立った。
「マリウス王子、私とカイン、どちらと
アベルが王子に尋ねた。
「え、ああ、どちらでもいいけど・・・じゃあ、アベル。」
王子はアベルを選んだ。
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