第4話 理想のタイプ
紫苑の身長は公式プロフィールでは165センチとなっている。実際はもう少し低い。両親も大柄ではない。でも弟はそれより大きい。だがなぜだろうと思ったりはしない。軽いほうが飛ぶのに有利だからだ。紫苑は小柄だが、バランスがとれている。小顔だし、某アイドルに似ているとよく言われる。アイドルではないから愛想を振りまくことが苦手だ。だから目つきは鋭い。人見知りでおしゃべりはしないので、たいてい口は引き結ばれている。その代わりと言ってはあれだが、紫苑は大会ごとに、髪を染めたり、ドレッドにしていた。はじめはゲン担ぎだったのだが、いつだったかインタビューに聞かれてから、ああそんなことになってるのかと意識的に変えるようにしている。実力とともにそんなことまで取り上げられるようになった。
テレビの取材、雑誌の取材で
「好きな子の話とかしないの」というのが増えた。
一緒にいたチームのメンバーが笑って答えた。
「する時もありますかね」
「へえ、楡君も」
「こいつは全然いわないんですよ。今まで一度も」
「え、どうして」
楡は笑って、はぐらかそうとした。しかし仲間はフォローしてくれた。
「たぶん、理想高いと思います」
その時、紫苑は想像していた。好きな子と言われ、思い浮かんだ顔に息がつまりそうになっていた。思い浮かんだのは羽鳥さんだった。
取材でたくさんの人と接しなければならず、それがとても苦痛だった。メディアの関係者はたいていは親切だが、子供の時は特にいやだった。練習中であろうとしつこく追い回す。シャッターを切る。ビデオを回す。あることないことを書く。あることないことを無理やり言わせようとする。それらが子供の時はよくわからなかった。自分の言動がどう広まっていくのか、想像できなかった。
あの時は言えなかった質問に紫苑は答えを用意している。
「はじめは尊敬していました。こういう大人になりたいと思っていました。よく、好みのタイプとか聞かれるようになって、その時に一番に頭に浮かぶんです。僕の理想の人です」
といつか言ってやる。今はまだ練りに練って、じっと温めている。
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