第2話 目の前に現れる
えっと、と紫苑は口ごもった。
あまりにも突然で動揺している。
その人を知っているけれど、知らない。たぶんあの時の人だと確信しているが、何と言っていいかわからずにいた。
「はじめまして。SPOTの羽鳥更といいます」
名刺を渡される。SPOTははじめてスポンサーになってくれた会社だ。スポーツ用品の総合メーカーで、紫苑のほかにもゴルファーとかメジャーリーガーとかのスポンサーもしている。
海外事業室室長と書いてある。それがどれだけ偉いか紫苑にはわからない。そういえばこの大会にもSPOTが協賛していたっけ。それでここにいるのか。
「あ、楡紫苑です」
紫苑はお辞儀をした。英語が飛び交うなかで日本語で挨拶をしているのが不思議だった。周囲の目を感じる。
羽鳥さんの顔が目の前に合った。それが不思議な感じだった。紫苑は小柄で、海外に出ると周囲が全員背が高く、いつも見上げている。この人はちょうど目の高さに目がある。相当年上のようだ。三十代だろうか。とても若く見えるが、室長さんだ。室長は部長より偉いのかな。肌が白くて、髪はショートカットだ。瞳が茶色い。唇が赤いのは化粧だろう。大人だなあと思った。地元で見た時も美人っぽいとは思ったが、対面してみて、ずっと大人で、きれいだと思った。きれいというか洗練されている。自分にないものを持っていると感じた。
「準優勝おめでとうございます」
いいながら羽鳥さんは歩き出した。自然それについていく。
「あ、ありがとうございます」
なんとなく視線を感じるのは、自分より羽鳥さんにあるのだと気づいた。大柄なカナダ人に中にいても目立つのだ。小さくてもなんだか目を引くかんじ。
そうして二言三言返事をしているうちに、パーティー会場の外に出た。
喧騒から抜け出しほっと肩をおろす。
ふっと羽鳥さんが笑っている。
「なんですか」
「ほっとしましたか」
「あ、はい」
わたしもこういうのは少し苦手、と羽鳥さんは言った。
「え、でもちゃんとしてるじゃないっすか」
ん?と首をかしげられた。
あ、なんでもないす。
「自分、こういうとこだと思わなくて。てか、知ってても服とか持ってこなかったんですけど」
ふむ、と羽鳥さんはうなずいた。一瞥されて首がすくむ。羽鳥さんはドレスだ。ワンピースだけれど、ちがう。これはとても高価なものだとわかる。首もとに一粒かがやいているのはダイヤだろう。鎖骨のくぼみにちょこんとすわっているだけなのにきらめきが違う。
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