群青写真

sumIF

第1話 遠目で見たひと

 はじめて会ったのは13の時だった。スノーボードの国際大会ではじめて入賞し、史上最年少ってことでニュースになった。それまでも雑誌にはちょいちょい記事が載っていたし、協会関係者が練習を見に来たりした。そのひとりかと思っていた。記者にしては上品だし、東京そのものという雰囲気で、楡紫苑は視線を向けられても頑としてそっちを見なかった。父がなにかを一生懸命話していた。また売り込んでいるのだろう。父はスポンサーをつけようと必死だ。実は海外に試合に行ったときにそういう話が合った。でも父は英語がわからなかった。彼はわかった。でも自分で交渉するすべを持っていなかった。どうしていいかわからなかったのだ。それがとても悔しかったので、必死で英語を勉強している。次もしチャンスがきたら、自分で話をする。スポンサーになってくれ。俺は活躍する。

 そう思って飛んでいた。何本も繰り返し、ふと顔をあげた時にはいなくなっていた。でもその夜、父から「スポンサーが決まった」と嬉しそうに告げられた。あのひとだと思った。

 ちゃんと会ったのは次の年カナダの大会だった。楡は準優勝した。大会最年少だったので、現地メディアにはだいぶ騒がれた。その夜大会主催のパーティーがあった。楡はむろん招待された。それがどういうものか知らなかったので、普段着で行った。かろうじてジャケットを着て行ったけれど、そういうレベルのパーティーではなかった。男性は黒のタキシードかスーツで、女性はドレスである。外は雪が降っているのに、肌がもろ出ている。楡はすぐにも帰ろうと思ったが、顔見知りのボーダーに強引につれこまれてしまった。ダグは年上だがいいやつで、メールのやり取りもしている。そのタグでさえ見慣れているスノボスタイルから一転して髪をなでつけ、白いシャツにネクタイを締めている。

「シオン!」と肩をだき、たくさんの客に紹介してくれる。誰も最年少の勝者を知っていて、ハグを返してくれた。ことばもわかった。だが、とにかく恥ずかしくて、たまらなかった。酒を飲めるわけでもないし、腹はすいていたがなにかを食べる気にもなれない。とにかく抜け出そうと出口を目指していた。不意に肩をさわられた。ふわりと言う感じで。振り返ると、その人がいた。すとんとした黒いワンピースを着ている。

「こんにちは」とその人は言った。

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