第27話

あの後、俺はビタに手伝ってもらい、何度も何度も傷を治す特訓をした。実際に傷を治してるのは俺では無くビタだが。


当初はビタの補助無しでは何も感じられなかった俺だが、決して諦める事無くクソ真面目に鍛錬を継続した。何とはなしにそうした方が良い気がしたのだ。一方ビタも根気良く俺に付き合ってくれた。


そういえばビタは何度も回復魔法?を連発してるが、魔力切れとかそういった症状は無いのであろうか。まあほんの僅かな傷を治してるだけだし消耗が少ないんだろう。深く考えないことにした。そして何度も何度も反復練習しているうちに、始めはビタの補助ありきで漸く薄ボンヤリ知覚出来ていた俺の中の力の流れが、ほんの少しずつハッキリしてきた。視力が0.001くらいずつジリジリと回復していくような感じだ。


始め何度もコケながら自転車の乗り方を覚えるように。型や組手を何度も何度も繰り返して身体に動きを刻み込むように。脳や神経の構造を、継続する鍛錬により少しずつ作り変えていく。俺は反復練習をひたすら繰り返すうちに、遂にビタの補助無しでその不思議な力の流れを朧気にだが知覚し始めた。


季節は巡り、俺がこの集落に辿り着いてから既に5か月もの時が経過していた。

悠長と言うなかれ。こんな事ネット小説みたいにパッと1日くらいで覚えられりゃ誰も苦労なんてしねえよ。此処まで到達するのには滅茶苦茶苦労した。ありとあらゆる事を試した。あのユスリカが侵入してくる感覚をもう一度味わうため、わざわざ黒猪を狩りに遠出したこともあった。鍛錬に熱中するあまり食料が欠乏して死にかけたこともあった。部活の練習の10倍は身を入れて鍛錬したぜ。ビタにも色々と苦労を掛けた。俺が回復魔法?を手に入れた暁には、特製の黒猪の燻製を腹一杯ご馳走してあげよう。



____あれから何日過ぎただろうか。俺は今、ビタに背中にしがみ付いてもらい、足をぶっ刺した傷を治療してもらっている。俺は既にビタの補助無しでも不思議な力の流れを知覚できるようになっている。


ではなぜ未だに補助をしてもらっているのか。勿論理由がある。実際やってみて分かったのだが、不思議な力の流れはあくまで只の流れでしかない。知覚できたただけで自分でその動きをコントロールする事が出来ないのだ。また、ビタの補助で俺がその力を傷口に流し込もうとしても何の変化も起きない。傷を治すには、単純にこの力を傷口に垂れ流すだけじゃ駄目ってことか。


俺はある時は、ビタに俺の背中に張り付いてもらい、力の流れをグリングリン動かしてもらう。ビタには動かせるのになんで俺には動かせんのだ。俺の身体なのに。もどかしい。だが、実はなんとなく理由は分かる。


此れはパッと覚醒とかしてどうにかなるもんじゃない。実の所全く何も起きていない訳じゃなく、弱々しくだが力な流れを動かそうとしている手ごたえは感じるのだ。恐らくその為の何らかの器官が退化しているのだろう。克服するには・・筋トレだ筋トレ。何度も何度も負荷をかけて少しずつ強化してゆくのだ。今は100%脳筋で良い。動け動けフンフンフンフンッ。


それともう一つ。背後からビタにくっついてもらい一緒に傷を治していると、背中にくっつくビタの中の力の流れを何となく感じられるのだ。俺と違ってビタはどうやってる?どうにかして感じ取れ、俺。この感覚は論理的に説明出来るモノでは無く、感覚的な部分に依る所が大きい。考えるな、感じろ。そして模倣しろ。ビタは念仏を唱えるとき偉大な?神様?に祈っているような事を言っていた。図らずも呪文じゃなく念仏で正解だったのだ。が、この世界における俺の信仰心はゼロだ。日本の神様は未だに敬ってるけどな。


だが、こんなチビだって出来てんだ。俺にだって行けるはずだ。やってやらああ!



___俺の体内を巡る不思議な力。この中の一部を加速、圧縮して臍の下で練り上げてゆく。


漫画や小説とかで良くあるイメージとかそんな曖昧なもんじゃない。イメージなんぞで出来るような単純な代物なら、思い込みや妄想力が強い奴ほど上手く出来ちまうって事だからな。現実はそんなに甘くは無い。


イメージなんかよりもっと具体的で手応えのある感触。臍の下に力が圧縮されていくのが分かる。そして力の循環の通り道を利用して練った塊を肚から手に移動させてゆく・・・。ここで手から不用意に力を放出してしまうと、せっかく練った力が一瞬で霧散してしまう。力を手の中に留めながら、ゆっくり変質させていく・・。


ビタはいとも簡単にやっているが、実は此れが至難の技だ。何度やっても直ぐに練った力が霧散してしまう。力の変質はビタから感じ取った感覚的なものだ。力を手放すな。留めながら、ゆっくり、ゆっくり・・・・。


そして・・俺がこの集落に辿り着いてから7か月。ついに俺の手から、弱々しい光が漏れ始めた。つ、つ、つ、遂にやったどおおおおおこれで俺も魔法使いだあああ。魔法使いで少年。魔法少年。いや、魔少年加藤の誕生じゃああああい。

・・・あ、消えた。


俺の手から光が漏れだすと、隣で食い入る様にその様子を見ていたビタのテンションも上がりまくった。ビタも相当に苦労してもどかしい思いもしていたのだろう。ビタは俺の中の流れをグリグリ動かす程度のことはできても、力の練り上げと変換、発動は俺が自分自身で何とかしないとどうにもならないようだからな。

すると、何とビタは号泣し始めた。しかも女の子らしい可愛らしい泣き方じゃあない。野太い咆哮を上げての、文字通りの号泣である。そして俺もまた、ビタを抱き締めて泣きに泣いた。俺は本来湿っぽいのは好きじゃないのだが、今回は余りに苦労しすぎて我慢出来なかった。こんな時すら全く変な気持ちにならないので、ビタの色々と野太い外見は大変助かった。


その後、俺たちは黒猪の燻製肉で盛大に祝った。ビタは一切遠慮せずにガツガツ肉を食らいまくっていた。



漸く発動まで漕ぎつけたものの、俺の回復魔法?の光はまだまだ弱々しい。効果もビタと比べると、どんだけ盛りまくっても半分も無いだろう。なので今はひたすら鍛錬あるのみ、である。そして、鍛錬が成功してある程度の効果が認められるようにれば・・・いよいよ動物実験に着手できるな。ククク。

あと、もう『魔法?』じゃくていいよなこれは『魔法』であり俺は魔少年なのだ。



俺が魔少年になってから数日後。今日もいつもの場所で俺が無心で魔法の鍛錬をしていると、集落からビタがやってきて、ある提案をしてきた。


対する俺は「ビタ。後は俺だけで何とかなる。お前はもう来なくていいぞ。」などと無情なる宣言を何時しようか迷っていたところだ。其れは何故か。


なにせ、奴がガツガツ食らう燻製肉の消費量がバカにならんからだ。獲物を捕まえるところから始めて燻製肉が出来上がるまでの工程を考えるとウンザリする。しかもアレ以来、ビタは貴重な黒猪の燻製肉を、遠慮という美徳を痰壺の中に捨て去ってねだりまくってくる。更に季節はもうすぐ冬。唯でさえ食料が乏しくなるのだ。

ビタには大変世話にはなったが、俺も奴の命の恩人だからな。差し引きゼロだ。



それはさておき。先程のビタの提案は、俺を集落の連中に紹介することだった。ほう、いいのか?ビタよ、改めて俺の姿をよ~っく見るがいい。

完全に原始人である。好奇心の強いビタだからどうにかなったが集落の連中は・・・。色々厳しくないだろうか。そのような懸念を片言で伝えると。


「良い 私 頑張る 任せて」

ビタが胸を張る。まさかご両親に俺を紹介するとかじゃねえだろうな。それはやめろよ。マジで。


まあ集落の連中に俺を紹介してくれる分には土下座してでもお願いしたい所だ。そして、俺は出来れば集落の一員になりたい。形だけでも。俺は集落に定住する気はサラサラ無いが、この世界での何らかの身分の証が欲しいのだ。この集落の他に大きな町があるようなことを以前ビタから聞いた。その町へ行くにせよ出身も所属も不詳な不審者のままでは後々苦労しそうだ。


俺は腰蓑を新調し、猪皮の一張羅をナイフで丁寧に手入れすると、ビタに連れられて集落へと向かった。正直集落のことはピーピングしまくって既に知り尽くしているのだが、改めて挨拶するとなるとドキドキする。



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