第28話
集落へ向かう道中、ビタは俺に魔法のことは黙っててくれと頼んできた。どうやら回復魔法のことは家族にすら内緒にしているらしい。念仏を唱えてたし、宗教絡みで何か不都合でもあるのだろうか。
だが、それでは何故俺に魔法を教えたか聞いてみると
「恩人 獣 話す 無い。」
とビタ。
ああハイそうですか。理由は何となく分かった。
集落のすぐ側まで近付くと、武装した二人の狩人らしき男衆が俺達を待っていた。
二人とも貫頭衣の上に毛皮のベストのようなものを羽織り、腰には鉈のような蛮刀を差している。目つきは鋭い。どうやら俺達を先導してくれるらしい。まあもし俺が不埒な行動をしたら、こいつらが俺を即時始末する算段なんだろう。
案内人の二人を加えた俺達は、そのまま歩いて集落の周りを囲った柵の入り口を潜る。俺にとっては既に見慣れた入口なのだが、実際に自分の足で通るのは初めてだ。すると、遠目に俺達の事を観察する子供と目が合った。すると、子供は回れ右して脱兎のごとく逃げ去った。クソガキめ。俺はモンスターじゃねえぞ。今の心無い態度で、俺の繊細なハートにかなりのダメージが入った。
俺達は集落の中で一番デカいビタの家に向かう。道中何人かに見咎められたが、特に大きな混乱は無かった。ビタが予め俺のことを触れ回ってくれていたようなのだ。その行為を無にする訳にはいかないので、俺は案内人の狩人に大人しく付いて行く。もし不測の事態が起きた時の逃走経路は、既に頭に叩き込んである。
程なく、俺達はビタの家の入口に到着した。案内人に促され、俺は躊躇いつつもビタの家の中に入った。
「ほう。」
俺は思わず声が出た。家の中は思いのほか広く、ひんやりして居心地が良い。竪穴式住居侮り難し。
家の中ではビタの家族と思われる人達が俺達を出迎えた。その周囲には護衛であろう数人の男衆が立ったまま此方を見ている。正面にはビタの親父であろうムキムキの髭男が偉そうにふんぞり返って居る。一見すると年配のおっさんだが、集落の長というには実年齢はまだ若そうだ。俺の目付だと30代前半てところか。
俺はチラチラとビタ親父の表情を観察するが、警戒心は思ったほど見られなかった。ビタの取り成しもあるだろうが、連中から見ればまだ子供である俺の貧相な体格のお陰でもあるだろう。
ビタ親父の背後には恐らくビタの母親であろう長身の女性が控えていた。うむ、流石ビタの母ちゃん。ゴツくて滅茶苦茶強そうだ。殴り合ったら俺は30秒持つまい。その横には年配の女性。この婆はビタの祖母であろう。
俺が広い住居の半ばくらいの位置まで入っていくと、ビタが声を掛けてきた
「カトゥー 座る。」
俺はビタに頷くと、座ってその場で胡坐をかいた。少々行儀悪いかなとは思ったが、ちょっと怖いけど別に悪事を働いたわけじゃないし、正座スタイルは何か間違ってると思ったし。これでいいよな?
すると、親父の前に居た若い男衆が、俺に近付いて次々と質問をしてきた。
もしかしてあちらさん、俺のことを大切な娘に近付く怪しげで不埒な超不審者だと思ってたりするんだろうか。
「お前 誰だ」 「加藤」
「どこから 来た」 「遠く」
「なぜ 来た」 「知らん」
「gdfsj」 「?」
「ビタ 知る どうして」 「たまたま」
我ながらあまりに酷い受け答えに内心冷や汗が出る。
いや、失礼かな~とは思うけど、他に答えようがないし。まだまだロクに言葉を話せない俺が変に気の利いた答えを考えても、余計にドツボに嵌りそうだし。
質疑応答の間、ビタ親父は威厳タップリな感じで俺を見下ろしていた。なんか感じ悪いな。俺は巨木の上からお前等を見てて知ってるんだぞ。お前が3軒隣の若い女とイチャついてデレデレしていたのをなぁ。見せかけだけの威厳なんぞ、俺の前には何の意味も為さねえ。
すると、ビタ親父が突然話しかけてきた
「lfkgfg;f;g@」
いや待て待て待て早えええよ早口すぎる。俺のヒアリングはまだ幼稚園児レベルだぞ。そんなに早口でいきなり話しかけられても何言ってんのか全然分っかんねえよ。
「俺 言葉 少ない 少ない」
俺は抗議した。するとビタがスススと親父に近付いて何事か耳打ちする。
すると分かってくれたのか親父はゆっくり話し始めた
「お前はビタ 助けた 感謝」
おおグッジョブビタ。俺の今迄の功績をアピールしてくれたのか。
俺はここぞとばかりニコリと笑い、予め用意しておいた台詞を親父に叩きつけた。
「ビタ 友達 当然 俺 うれしい」
その言葉を聞いて、親父も笑顔になった。どうやら初顔合わせは成功したようだ。周りの緊張も弛緩したのを感じられる。
その後はプチ宴会となった。様々な料理や酒のようなものが催される。俺達はビタの家の中で車座となり、まずビタ親父が料理に手を付けて、その後その場にいた皆で食い始める。護衛らしき男衆も一緒に食べるようだ。俺はあえてハイになった感じで陽気に振る舞った。料理にも手を付けてみるがこれはどうにも薄味であまり美味くなかった。ビタが燻製肉にハマるワケだわ。
俺はビタやビタ親父や母ちゃん、護衛の男衆にも色々と話しかけまくった。ただ、俺の語学力のせいで返ってくる言葉が中々理解できん。もどかしい。ビタはまだ小さいので、却って俺と意思の疎通がし易かったようだ。ともかく好印象をアピールしたい俺は、笑顔で陽気に振る舞うことを心掛けた。
そして機会を伺う。なんとかこの集落で暮らす許可を得る機会を。
初顔合わせでいきなり住まわせろとは図々しい話ではあるが、この集落は超ド田舎だし、土地が不足してるわけでもあるまい。それに、悪人ではないだろうがこんな格好をした原始人が集落の直ぐ側の山の中に潜んでいるとか、連中にとってはそちらの方が落ち着かないだろう。俺はそっとビタに耳打ちした。将を射んとすればなんとやらだ。
「加藤 ここ 住む 欲しい 駄目?」
察しの良いビタは頷くと、親父の方へスススと近づいていき、何事か話し合っていた。そういえばビタは一人娘のようだ。ククク、厳つい親父もビタには甘いに違いない。いけるか?
暫くして戻ってきたビタは俺に言い放った。
「父 力 役に立つ 欲しい カトゥー 力 見せる」
ふむふむ。集落に住みたいなら、集落の役に立つ力を見せろと。
「俺 狩り 上手 おいしい」
俺はビタに狩りの実力をアピールした。
その後、ビタの取り成しにより、護衛の男衆も混ざって長い話し合いが行われた。早口だった為、話の内容は中々理解できなかったが、ビタの話では、どうやら俺の入村テストをやることになったらしい。
その晩は、この家で俺も寝ることになった。随分無防備だけどいいのか?まあ宴会の終盤は随分心を許してくれた感じはしてたけど。ビタの家族は寝具みたいなものに包まって、俺はビタの家の隅でそのまま横になった。ビタは俺の所に来たがったが、親父に引きずり戻されていた。
山の中とは比較にならぬ安全で快適な寝床に、俺の意識はすぐに眠りに落ちた。
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