第19話
俺は高熱で倒れたのぶさんを必死で看病した。
だが、此処は人跡未踏の異世界である。医者なんて居ないし、医療器具も薬も無い。俺に出来ることはのぶさんの側で声を掛けて元気付けたり、出来るだけ消化に良さそうな食事を食べさせてあげることくらいであった。
だが、俺の必死の看病の甲斐も無く、のぶさんはどんどん衰弱していった。俺は頭を抱えた。何度も経験した食当たりならお手の物だが、明らかに症状が違う。原因がサッパリ分からなかった。やはりあの黒猪が原因なのだろうか。全然分からねえ。
糞っ糞がっ!どうにかならないのかよ。
____のぶさんが倒れてから、1週間余りが過ぎた。
「ごめん、な加藤。迷惑ばかり 掛けちまって。」
巨大樹の葉っぱを重ねて作った簡素なベッドで仰臥するのぶさんは、俺に顔を向けて弱々しく口を開いた。
「のぶさん。在り来たりな台詞に在り来たりな台詞を返してやるが、そう思うならさっさと治せよ。ここには医者なんて居ねえんだ。弱気なままだと直ぐにくたばっちまうぞ。気合入れろよ。」
俺はのぶさんの手を握って、何度も声を掛け続けた。
のぶさんの指からは力が抜けていた。ああ、ヤバイよ。何となく判るんだ。のぶさんの身体から命の火のようなものが抜け落ちていってるのが。このままじゃ・・。
その次の日も、俺はのぶさんの手を握って声を掛け続けた。のぶさんはもう、食事も何も口に入れることが出来なくなってしまっていた。
俺は後悔した。もし俺があの時、のぶさんを連れ出さなければ・・。思わず懺悔の言葉が口から漏れ出した。
「ごめんのぶさん。のぶさんが皆と一緒に居ればこんなことには成らなかったかもしれねえ。俺のせいだ。俺がのぶさんを連れ出したから・・。」
「そんなこと ないよ。あのまま・・あそこに居たら 俺はたぶん とっくに 死んでた。此処に来てから、色々あった。でも・・・楽しかった。」
のぶさんは小さく笑みを浮かべた。
何でこんな穏やかな顔で笑えるんだろう。俺は・・。
「のぶさん・・・。」
言葉が詰まった。俺はそれ以上、何も言えなくなってしまった。
「お前は 凄いよ。こんなことになっても、全然挫けないし 諦めない。生きることを やめようとも しない。俺も元気 凄く・・・貰った。」
「だから・・・・頑張れよ。」
「あ~、また父ちゃんと母ちゃんに 会いたかったなあ。」
そしてそれきり、のぶさんは昏睡状態になってしまった。
____そして翌日。のぶさんは静かに息を引き取った。
俺はこの異界の地で、生まれて初めて友達の最後を看取った。
冷たくなったのぶさんの手を、俺はずっと握り続けていた。
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