第20話
俺はのぶさんを埋葬した。
もしネット小説なら、たったその一行で片付くだろう。
だが、生々しい現実はそうはいかない。甘い甘い仮想世界のように、あらゆる面倒事が行間で魔法の如く片付いてるなんて、そんな都合の良い事などある訳が無いのだ。
今、俺の前には一体の御遺体が鎮座している。
そして俺は途方に暮れた。・・・どうしよう。
もしこれが日本でなら通夜、お葬式の後荼毘に付して納骨なんだろうけど、ここにはお経を唱える坊さんも葬儀を段取る葬儀屋も居ない。勿論火葬場も無い。俺独りだ。まずのぶさんを埋葬しようにも、人間丸ごと埋葬するに足る巨大な穴を掘る道具も体力も俺には無い。狩猟で仕留めた獲物の内臓を埋めるのとはワケが違う。半端な深さの穴で、もしその辺を徘徊する野生動物に穴を掘り返されでもしたら目も当てられない。この世界に来てグロ耐性が桁違いに上がった俺だが、掘り返されてあちこち齧られたのぶさんの遺体を再び埋め戻すような勇気は俺には無い。
やはり火葬か。俺は仰向けに眠るのぶさんをちらりと見た。その眼は落ち窪み、頬はこけ、すっかり人相が変わってしまっている。正直あまり直視したいもんじゃない。
その後、俺はのぶさんの遺髪を切り取り、のぶさんが後生大事に身に着けていた生徒手帳をポケットから抜き取った。
もしいつか俺が日本に帰ることが出来たなら、必ずご両親に届けますから。
俺は心の中でのぶさんに約束すると、火葬の準備をすることにした。
とはいっても、俺は火葬なんてしたことはない。なので、以前動画で見た映画の火葬シーンを思い出して見様見真似で木材を集め、遺体を乗せる櫓を組んだ。そしてのぶさんを洞窟から運び出したのだが・・・これが滅茶苦茶重い。仏さんてこんなに重いのかよ。
俺はひーこら喘ぎながらのぶさんを外へ運び出した。多少ズリズリ引きずってしまったのは許して欲しい。櫓に乗せるのも重労働だった。俺は全身汗だくになりながら、最後は割と雑にど~んと乗せた。
そして全ての準備を終えた後。俺は黙したまま、櫓に火を付けた。これで完全にお別れだ。のぶさん。彼の魂は、果たして日本の家族のところに帰ることが出来たのだろうか。
____俺は、櫓から立ち上る炎を眺めていた。野焼きで色々と剥き出しな上、ロクに温度管理なんて出来ないので、櫓の上は正直かなりグロいことになっている。あと臭いが凄い。のぶさんには悪いが、俺はちょっとだけ燃え盛る櫓のそばから離れた。
そして翌日。俺は火葬したのぶさんを見て唸っていた。日本の火葬場で燃やした場合、ご遺体は通常綺麗に骨になるのだが、どうやら野焼きでは温度が少々足りなかったらしい。なんだか焼身自殺したご遺体のような見た目になってしまった。完全に計算外だ。だがまあここまで焼いておけば、グロに目を瞑れは運ぶのも恐らく楽だし、野生動物に掘り返されることもあるまい。
俺は意を決して拠点の近くに可能な範囲と深さで穴を掘り、改めてのぶさんを埋葬した。そして、盛り土の上に石を立ててのぶさんの墓石とした。
俺はのぶさんの墓に手を合わせて気持ちを切り替えた。いつまでもメソメソ嘆いてたら、この場所じゃアッという間にのぶさんの後を追うことになっちまう。のぶさんだってきっとそんな事望んじゃあ居ない。頑張れって言ってたもんな。だから、何時までも後ろを向いてちゃ駄目だ。無理矢理でも気持ちをスパっと切り替えて、また生き延びるために頑張るぜ。
ともすれば悲しみや後悔に沈みそうになる心に、俺は渇を入れて立ち上がる。
俺は改めて、この異界の地で生きて生きて生き抜く決意を固めた。
___そして、俺がこの世界に飛ばされてから約2年の歳月が流れた。
俺はまだ、生きている!
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